第17部 最後の切札
「フッ、油断したなカイザー!」
アスタロトの眼が紅く光った。
「ミカエラさん!あれは、魔眼ですよね!?」
「ええ。でも何か、違うような…」
全員の視線がアスタロトの紅い眼に集まっていた。
「…はっ、しまった!」
その視野の外ででたらめな軌道のブーメランが打球に命中。ブーメランはそのまま地面に落下してしまうが、打球は奇跡的にカイザーのコートへと飛んでいった。
「だが返せぬ球ではないぞ!カイザァァァァァ…」
カイザーはバック側へと踏み込み、大剣を引き抜いた。
「上等だ!全身全霊で跳ね返してやるよ!」
しかし、アスタロトの手元にはラケットはない。
「どうやって返すつもりですの!?無茶ですわ!」
「やってみねえとわかんねえだろ、クソ天使!黙って見てろ!」
アスタロトは素手で必殺技の構えをとる。
「あの構えは?!」
ミカエラと同時にエルロットも驚いていた。
「あれって私の止水、ですよね……」
ミカエラのスキルスティールとは違って、見よう見まねそのもの。
しかし、気迫は本物以上と感じた。
(タイミングが一寸でもズレたらそこで終わりだ…。だが、もうこれに賭けるしかない…)
強大な風圧とともに打球が弾む。
アスタロトは目を閉じ、オーラを一点に集中させた。
「…渦巻け、螺旋の槍…」
闇のオーラは竜巻の如く渦巻き、アスタロトの右手を蔽った。
「…っ、ぐああああああああああああ!」
アスタロトは右手を打球の方へと向けた。
「アスタロト!あなた、何を!?」
「来い!悪魔槍 デビルロンギヌス!」
悪魔の右腕から放たれた槍は打球を射抜き、あのカイザーブレイクを打ち返した。
この一瞬でアスタロトは得点と同時に大きな進化を遂げた。
10-5
サーブ権 カイザー
「き、貴様…それは…」
アスタロトの手にラケットはなかったが二つの刃が渦巻く螺旋の槍が握られていた。
「てめえのと同じだぜ、カイザー」
「神器…ですわ!」
「バカな…。神器を自ら生み出しただと…」
「っ!アスタロト…!」
心の奥底。
その中で死んでいたはずのサツキが目を覚ました。
「ここは…どこ…?僕…早く…行かなきゃ…」
ここはどこかはわからないが本能の赴くままに足を進めた。
しかし、体は鉛のように重く、意識は微睡み、今にも眠ってしまいそうだった。
「しぶといヤツめ!まだ生きていたか!」
ふと現れたのは紅い眼のサツキ。
「……っ!」
「どちらがこの身体の主か…はっきりさせようじゃねえの?」
サツキは逃げようとするが鉛の体を引きずって逃げ切れるはずもなく、後ろから首を絞められてしまった。
「うっ……」
「へっ、声も出ねえか?所詮、お前は俺なしでは戦えない腰抜けなんだよ!」
罵声とともに身体を投げ捨てられ、地面に叩きつけられる。
「がはっ!」
「バカでもわかるだろ?お前は弱い。弱いヤツは強いヤツに搾取されるってのが世界のルールだ。どんな世界だろうがな!」
地面に横たわるサツキの腹に蹴りを入れる。
「ぐっ…!」
サツキは悶え苦しみながら、紅い眼を睨んだ。
「ああ?てめえ、いつからそんな反抗的な眼をするようになった?いいか、お前より力のある俺こそがこの身体の主なんだぜ」
「僕は…君になんか…負けるもんか…!」
「フン。身体で教えなきゃわかんねえみてえだな!」
「っ!」
サツキはもう一度蹴られる覚悟をした、その時…。
「…サツキ!目を覚ませ!」
「はっ!」
ベッドから飛び上がるように起きると右隣には馴染みある銀髪の魔王の顔があった。
どうやらここは医務室のようだ。
「ローラン…さ、じゃなかった…」
「悪夢に魘されたような顔じゃな…体調でも優れないのか?」
「いえ、大丈夫です…。何より起こしてくれてありがとうございます」
「…ああ、別に起こしたつもりはなかったのじゃが…」
サツキは本来の目的を思い出し、はっとした。
「…アスタロト!アスタロトはどうなったんですか!?」
すると、ローランは椅子から立ち上がる。
「1ゲームだけで終わった。カイザー対アスタロト、点数は10‐12」
「それって…!」
しかし、ローランはふと俯き、顔を隠すように背を向けた。
そして、消えそうな声で言葉を放った。
「…アスタロトが負けた」
「……!」




