外伝その3 愛に飢えたメデューサの眼
ジャララ……と鎖の音が響く。
足音に気づいた囚われの少女は目隠しされているのにもかかわらず上の方を向いた。
「メデュシア。メデュシア・ゴルディア。それが貴方の名前よ」
少し大人びた感じの女性の声がする。
私に名前をつけてくれた。
それがあの人がくれた私への最初で最後の愛だった。
囚われてから何年経つだろう。
私は辺境の小さな町の娘だった。
名前はもう忘れた。
何故か町が襲撃され、私は囚われてしまった。
助けが来ないまま、お姉様と呼んでいる女性と暗黒の世界で暮らしていた。
無論、お姉様の顔は見た事がない。
とある日、お姉様が話してくれた。
今、世界では卓球というものが武力になってしまったらしい。
魔王杯というお姉様より格上の魔王が開いた大会。
優勝すると何でも願いが叶うらしい。
私は興味が無かったけどお姉様はやる気だ。
しかし、お姉様は卓球というものが分からず、結局私が出る事になった。
お姉様の部下が作った、さいえんすあーてぃふぁくと?みたいな名前のものの一部を頭につけられた。
するとどうだろう。頭の中に沢山の単語や人の動く姿が見えてきた。私はそれを一瞬にして理解できていた。
私は囚われの日から初めてこの牢獄から出られた。
頭に違和感があるがまあ問題はないだろう。
これはお姉様がつけてくれた冠だ。
本当は王族がつけるものだろうけど私は特別だからと言われて無理矢理つけられてしまった。
卓球、恐らく丸型の木の板でボールという球体を撃つ競技なのだろう。
目隠しをしているからよく分からない。
だけどお姉様の機嫌的に私は良いプレイをしているのだろう。
囚われたあの日からずっと鞭で打たれたり、放置されたりした。もう涙を流すことも笑うこともないだろう。空腹や欲求不満など感じない。
でもお姉様はいつか私を愛してくれる。
今まで失ったものを拾ってくれるはず。
そう信じて、何年もお姉様の言うことを聴き続けた。
カタン…カタン…
いい音だ。鎖の音や鞭の音、お姉様の声くらいしか聞いていなかったのでボールが跳ねる音は心地よい。
私は卓球で心地よいという感情を取り戻した。
魔王杯が近く中、私はお姉様に連れられて沢山試合した。
久々に人の声を聞いたが悲鳴ばかり聞こえた。
ヘビが怖いとか眼を見るな!とか。
私はどんな姿になってしまったのかな。
「メデュシア!最高よ!完膚無きまで叩きのめしなさい!」
「ハイ、オ姉様。オオセノママニ」
パチィン!
パタン!
カタン…カタン…。
「ひ、ひぃ!見逃してくれええぇ!」
逃げようとしたところ、お姉様に捕まったのだろう。
「あらあら、敗者が背を向けるなんて…私のメデュシアに無礼じゃない?」
「……!」
男はもう言葉を失って口からは空気しか出ていなかった。
「メデュシア、お仕置きよ」
お仕置き。これは私の唯一の快楽。
「ハイ、オ姉様」
男の儚い叫びが辺りに響いた。
「ワタシッテ、ソンナコワイ?」
「ええ、怖いわ。だけど可愛いわ。私だけのメデュシア」




