通り魔
一「王子様、あのお人いったい何者ですねん」
若「あれがお前、親父の一番気に入りの賢者や。ええい胸くそ悪い、
人の顔さえ見たら二言目には意見ばかりしてけつかる。
今日はな、早い事切りあげて帰ったろうと思ってたんやけど、
あんなこと言い腐るさかい、もう動かんさかいな」
一「そうそうお寺さんの達磨さんと根比べやで」
若「ああ、こうなったら、どんな事があってもここを動くかい」
一「さあさあ、そうこなくてはいかん。どわーっと金を使いまくりましょ」
若「阿保なこと言うのやないがな、お前、うーん、
とにかく大きなもんもってこい、大きいもんや。
もうこうなったらそんなものでチビチビいてられへん。
大きいものでいくさかい」
一「さあさあ、こうなったらわたしもな、へい、どこまでもおともしますさかい」
若「ああこの店も一寸気詰りになってしもうたな、
家へ帰る気はないが、他の店にいこう」
芸「どちらへ」
若「そやな、今から北へ北へ行こう、おい、みんな供せい」
芸「王子様おでかけや言うてるで」
仲「さようですか、王子様今日は、あの……」
若「お前まで五月蠅いこと言わんでええねん。みなついてこい」
芸「ほんなら、お送りしましょう。みなさんお供して」
若「ああみな、来いよ来いよ。おおいつの間にか大分薄暗くなってるな」
茂「へいへい、お足元危のうおまっせお手をとりましょいう」
若「ううー、そんなゴツゴツした手をだすなお前、千代美一寸肩かせ」
千「茂さん、堪忍やし」
若「こうこないかん、お前らあっちいけ」
茂「はははは、こりゃ目に毒やわ。明かりを貸して、明かりを、
わしが先頭を歩いて案内をするさかいな。王子様」
若「一也、お前もえらい酔うてるな、おいおい。
おい、絹ちょっと一也の手を引いたってやれ手を引いたれ
あいつこのままやったらどこぞの溝にはまりよるかわからんさかいな。
……なんちゅけったいな顔してんねん。
こんなときでもなかったら、お前ら、女に手をひいてもらえるかあ。
ありがたいと思え、エヘイ、ウイ―ッッキ」
御機嫌でワーワーキャーキャー言いながら、南町から北町へ
行く途中の有名な大きな橋がありまして、
その辺で暗がりから、全身黒づくめの服を着て夜にサングラスにマスクをかぶった
手に長いズラッと輝くものを抜いた男が現れまして、
X「通り魔じゃ!」
芸「キャアー、通り魔ってどないしよう」
茂「まあ―、早く逃げよう、逃げよう。
さあ、みな早く逃げましょう、逃げましょう、
みな早く逃げなアカンで危ない危ない。命あってのものだねや」
芸「王子様は」
一「王子様どころやあるかいなそんなもん、早く逃げなはれ……」




