王子
若き王子 若松「七」
護衛定番七「へえ」
若「そこで何してはるねん」
七「王子様の番をしてはります」
若「……チエ、棍棒をもって番をしてるのか」
七「へえ、これは大賢者様に言われまして……。
王子様は極道やから、直に抜け出して遊びに行きなはるよってに、
ここで、王子様を抜けださんようにわたい番をしてますねん。
もしも、でかけるようやったら、この棍棒で向う脛をバーンと
いてこましてもええと言われまして楽しみにしてますねん。
どうぞおでかけください」
若「何をいいくさるねん。しょうもないとこで目をむいてんとこっちい入り。
今ケーキを切ったとこや珈琲も入れたとこやで。美味しいで」
七「へへへーいや結構な事です」
若「ここにな二十万の銀貨がある、これあげようか」
七「へ、もう、いただいたも同然で」
若「なんでそないに遠慮するねん」
七「へへへー美味いものを喰わす人に油断するな、ちゅうてな。
うかうかそんなもの食べてお金をもらったら……わてに何するおつもりで」
若「貴様は、遠慮せんでええから、こっちに入っておいでっていうてんねん。
かまへんがな」
七「へえ、どうも失礼します」
若「どうも、まあその棍棒を其処に置け……。ちょっと、これを食べてみ。
その代わりにこっちの無理もちょっと聞いてもらいたい。
実は今日は親父がえらい怒ってる外へ出られんようになってしもうたんやがな、
明日はわしの結婚式やろ、今日は独身最後の日やから
中町のお茶屋がピエロや、吟遊詩人、踊り子皆揃えてあるねん
それでな皆集まったところで、南町の料亭にご飯食べにいこうて
段取りにちゃんとできてあるねん。
わしが、行くか行かんにかかわらず、要るものはもう用意してあんねや。
惜しいような気がするけど、まあ、そらかまへん。
そらかまへんのやが、わいが行かなんでみいな、向こうの連中、
仏さんのいないお堂のお守をしてるようなことになるやろ。
で、ちょっと抜け出して、さばくだけさばいて帰ってこようと思ってるねん。
そやさかいそれまでちょっとな、お前目をつぶってて。
裏からシューっと行ってシューっと帰ってくるさかい。
そないしたらお前の好きなケーキやドーナツ仰山買って帰ってくるから」
七「そやけどあんた、王子様がおらなんだら私かて仏さんのいない
お堂を守りしてるようなことになりませんかな」
若「其れはちゃんと考えてある。そない思うてさっきベットに細工した。
ベットの布団の中に枕を沢山突っ込んでおいた。
こうやってな、ほら、このように見ればちょっと人が寝てるように見えるやろ。
王子様は、って聞かれたら、今、昼寝をしてはります。
賢介がちょっとのぞいたくらいでは判らないやろ。
入ってくるような感じやったら、音さして、目覚ましたら怒られますからとか、
なんとか言うて誤魔化してくれたらええのや。
それだけの事してくれたら、今度年末の休暇で帰る時に、
お父さんやお母さんにお土産もたしたるやないか、なあ。
ケーキにドーナツも仰山買うてきたるから」
七「ああーそやけど王子様、直に帰って来てくれますか」
若「直に帰って来るがな遅くならへんて。
えーちょっとなちょっとな約束してあるところに顔をださなあかんから。
まあ、一時間半か二時間もあったら帰ってくる」
七「一時間半か二時間ですか。ほんまですな」
若「ほんまやて、この金とっておき」
七「へい、ほんま直に帰って」
若「大丈夫や」
七「ケーキ忘れんように」
若「うるさいな、もう。大きな声をだすなや、頼むで」
さっと、裏庭の隠し扉から逃げ出しました。




