盗賊
子分「親分 おたずねします 盗賊にも道はありますか」
盗賊親分「あったりまえよ」
盗「忍び込んだ先で財宝の有る場所を見抜く力 これが『聖』だ
そして
真っ先に侵入する これが『勇』だ
殿を守って引き上げる これが『義』だ
状況を判断して手を出すのも辞める これが『智』だ
獲物を公平に分配する これが『仁』だ
この五つの徳が無ければ大盗賊にはなれない
善人が聖人の道を歩かなければ善人ではいられない
悪人が聖人の道を歩かなければ
これも悪人ではいられない
道徳は悪人にとっても切り札なんじゃよ
聖人の道徳を借りないと
大悪党にはなれないのさ」
居酒屋にて
賢者「君の弟は大盗賊だそうじゃないか
父や母が教え導くように
兄が弟をかまってやらなくてどうするんだ
天下の大盗賊と名を馳せている何とかしなくてはいけないよ」
兄「でもね 皆が皆 父や兄のいう事をきくとは限らないんだよ
こっちの言い分に全く耳をかさない
どうしようもないんですよ」
賢「それなら私が行って教え導こう」
兄「弟は気が荒くてちょっとでも逆らったら
殺されてしまいますよ行くのはやめなさい」
賢は兄の止めるのを聞かず
護衛二人を共に大盗賊である弟に会いに行きました
子分「親分 賢という奴が会いに来てます」
盗賊親分「そいつに言ってやれ お前は口数ばかり多くて
色々な道徳を並べ立てているが
天下を惑わす大馬鹿者だと
仲間を集め貴族に取り入ったりして
いい気になってるど阿呆だと
お前の方の罪が重くて深いぞ
とっとと帰りやがれ」
子「親分は会いたくないそうだ
とっとと殺される前に帰りな」
賢「申し訳ないがもう一度だけ取り次いでもらえないか
私は親分の兄の友人なんだ
日ごろから噂は聞いている
是非会いたくてわざわざ来たのでございます」
盗「賢よ話があるのならさっさと話しな
お前の話が面白くなければ
生きてここから返さないからな」
賢「まあそんなに怒らなくても」
賢「天下には三つの美徳がある
一つは体が大きく背も高く外見が美しい者
二つ目は知恵がありしたいことは何でもできる者
三つめは勇敢で思い切りがよく
大衆を集め 兵を率いる者
今あなたはこの三つの美徳を手にいててます
なのに盗賊をしている
もったいないではありませんか」
賢「もしあなたが私の意見を聞き入れてくだされば
私は国王を説得して
貴方に大きな城を建ててあげ
貴族にしてさしあげましょう
だから盗賊をやめてください」
盗「あはははははははは
うまい話を聞かされて説得されるのは
馬鹿か御人好し位のものさ」
親「富や名誉で俺を釣るつもりだろうが
そうはいかないぜ
富や名誉は長くは続かないものさ
それにお前の言う大きなお城とは
天下の大きさに比べればちっぽけなものじゃないか
昔の皇帝たちは天下を手に入れたが
その子孫が今どこで何をしているのかさえ
わかりやしない
大きな利益なんか大事にしてたら
結局
大きな害が帰ってくるものさ
今俺は大盗賊として人を殺しているが
其れにしたって限界がある
もし貴族になったら
其れこそ 仁義を名目に
人を殺し捲るかもしれない
其れでもいいのかい
お前が今日俺に話したような道徳は
俺がとっくに捨て去った理論だ
大道からはまだまだ遠いぜ
とっとと帰りな」
酒場にて
兄「弟にあって教え導くことはできたかい」
賢「私はのこのこと 虎の巣に入って
その口髭を抜いてしまったようだ
もう少しで虎に食われるところだった」