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自殺

X「どりゃああああ」


若「ああああああ……これは、命ばかりはお助けを、命ばかりはお助けを。


身ぐるみ脱いで差し上げますさかい」


X「おのれの着物にはめえつけへんわい」


若「お金でありましたら、懐に少々持ち合わせがございますので、どうぞ」


X「そんな目腐れた金、誰がほしいか」


若「まあ、ほんなら何が入用でございますか」


X「今日限り茶屋遊びをやめてもらいたい」


若「へ、けったいな盗人はんでおますな、茶屋遊びをやめいとは」


X「あはははは、其のけったいな盗人の顔を、王子様、とくとみなはれ」


若「……お前は賢介やないかいな。びっくりさすな…おーいみな戻っておいでえな。


先ほどの賢者やがな、こんな悪さしおったんや。


おーい……お前がしょうもない悪戯をするさかい皆逃げてしもうて誰もおらへん」


賢「あははははははは」


若「笑いごとやないで」


賢「考えてみなはれ。どこぞの世界に、通り魔が自分で、


通り魔じゃあてな事言って出てくる、そんな阿保なことがおますかいな。


ちょっと落ち着いて考えたら判るのに……、ええ。


王子様、今あの人たちが逃げしなの台詞を聞きなはったか。


王子様どころやない命あっての物種や、逃げよ、逃げよ。と。


あれが本音でおまっしゃろなあ。


平生は王子様とか、ぽんぽんと、あんたやなかったらどんならんとか言うてるけれども、


ええ、いざとなったら誰一人あんたの身を案じたりしたものが居りましたか。


お身をかばった人が一人でも居りましたか。


ああいう連中の言う事をまことと受け取ってでっせ、


頼りになるものやと思うておりはったら、


始終えらいめにあわなならんようになりまっせ。


お気がつかれまへんか王子様」


若「……ああ、ほんまにそうやな。よう言うてくれた、阿保やったな。


随分阿保な金使った。


なるほどお前さんの言う通りあんな連中に乗せられてウカウカとしてたわしが阿保やった、


今日限り茶屋遊びはすっぱりとやめる。


……と言うたら気にいるか知らんが、まあいやじゃわい」


賢「え、なんででおますねん」


若「おい、お前なんぞ考え違いしてへんか。わしあ盗人や通り魔の用人の為に、


芸者や太鼓持ちつれて歩いてるんやないねんで。


それなら剣術使いか相撲取りでも連れて歩くわ。


どない思うてんねん。おい。


あの連中が命あっての物種や、王子様どころやない、逃げよ逃げよ……。


あたりまえやないかい、なんで命までかけんならん、ええ。


お前かてそうやろ、お客から品物の代金受け取って、


其れに釣り合うだけの品物を渡したうえで、それに命まで添えてだすか。


向こうは芸と愛嬌が売り物やないか。


花を買うてもらうだけの愛嬌を売ったら、それでええやないかいな。


わずかな花を買うてもらうてやこそ、


客の機嫌、気を使って寒中敷物も敷物もせんと、火鉢に手もださんわい。


夏は夏で暑い重ね着をしてやで、しょもない奴の下手くそな歌も誉めて、


苦しい勤め酒も飲んで、其の上、なんで身体はってかばわなんならんねん。


お前かて得意先に、腕の一本、足の一本添えるか。


ケッ。人に生意気な意見の一つもしようと思たら、もっと世間をみてみい。


生意気な事いいやがって、俺に其れで意見のつもりかい。


あれはわしの遊び相手に連れて歩いてんねやさかい。


なんで身体張ってまかまわなんだらそないボロクソに言われなならねん。


お前みたいな奴はほんまに……」


王子は賢介の頭を殴りかかった。


賢「もし、なにも」


若「ええい、手が痛いわい。お前みたいな奴は手でやるのは勿体ない。


オイありがたいと思えよ。高級の革靴やこの南町花街を歩いたこれで、


ど性根に入るようにしたるさかい、こう、こう、こうじゃ」


王子は何度も何度も賢介の顔に蹴りを入れる。


賢「王子様、そんな手荒い事をさらんかて……あ痛い、あ痛い、


もし傷でもついたらどうなりねんやな、ええ。


此方の国の賢者は向う傷がある。


喧嘩でもしよったんかと、国の名誉にもかかわる、


わてお城に居られんようになりますがな……王子様、


これ……あんたわたいの額を」


血がヒタヒタと流れ出る。


若「割ったった。それがどないしたちゅうねん、ええ。


……どんならん難しい顔したな、お前。腹が立つんかい。


……ど性根に入るように、


朝晩鏡を見て思い出すようにつけたったんじゃい」


賢「もう……」


若「おっ、お前……刀の柄に手をかけたな。わしを切る気か」


賢「いいや、阿保らしい。今日は王様の名代で葬礼のお供にたったもんでっさかい。


葬礼差しを持っとりまんので……あんさんを切るやなんて」


若「ええー、お前右手をこう柄へかけたら切るのと違うんかいな。


切ってもらおう。なあ、子飼の賢者に切られたらわしも本望や。


さあさあ、切ってくれ切ってくれ。さあ切らんか」


賢「なにをなさいます」


若「お前刀の持ち方を知らんな、こういう具合に抜いて」


賢「危ない、危ない、危ない。其れを、何をしなはんねん」


若「ああ……切った。人殺し」


賢「あー…王子様、言うて良い事と悪い事おまっせ。


人が聞いてますがな。人殺してな、なんちゅうことをおっしゃる。


なんであんたわたしが……しもた」


その時刀が突然ぬけた。


賢「切るつもりとてなかったが、刀を引くはずみに思わず鞘走った。


ああー……もうこうなったら毒喰や皿まで。始終お国の為にならんの方じゃ、


王子様、あんた一人でやりまへんで、わたしもじきにお供します。


南無阿弥陀仏」


賢者はそこで自腹を切りつけた。


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