反則勇者の墓場へ
1日で5話分の投稿終了しました。最後話は読み飛ばしても大丈夫です。
~~親愛なる勇者様へ~~
この手紙を読むころには無事に魔王を討伐している事と思います。
そして、私共は大魔王を討伐に失敗したという事でしょう。
先に結論だけ申し上げさせて頂きます。大魔王討伐は諦めて下さい。
エリオット博士の研究結果によると、大魔王のレベルは桁違いであり、レベルがカンストしても絶対に勝てないそうです。それどころか、大魔王討伐に失敗すると時空の変動が生じ、勇者様は魔王討伐出発前にレベル1の状態でリスタートしてしまいます。
率直に申し上げます。勇者様は過去99回魔王討伐に成功しております。
今回で100回目の大魔王討伐の旅なのです。嘘だと思いますよね。証拠を2つ。
1つ目。魔王を倒した際に「|最後のダンジョンの入口が《ワープゲート》が開かれる。」と言われましたよね? あれは嘘です。このワープゲートの行き先は大魔王の部屋直行です。
2つ目の証拠を。この部屋には机が1つだけあるのが見えますでしょうか? 其処に入っている薬を飲むと全てを思い出す事が出来ます。4つご用意させて頂いております。皆さまでお飲みください。信用できないのであれば1人ずつ順番に飲んで危険性を確認してください。
ここに1つの宝玉を置いておきます。これをゲートに投げ込めば大魔王は此方の世界に進行してこれません。私どもが討伐を失敗した際にはこの宝玉をゲートへ――――手紙はまだ続いている。
「この内容は……。」
「う、嘘に決まってるじゃん? 過去に99回も魔王を倒しているなんて。 ハハッ…ひどいジョークじゃんよ。」
「難関。難題。判断勇者一任。」
「僕は……飲むでヤンス。」――盗賊は薬を飲んだ。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「大丈夫か盗賊! 罠だったのか?!」
――盗賊は混乱している。
「落ち着くじゃん。状態異常回復のアイテムを飲むじゃん。」
――盗賊は落ち着きを取り戻した。
「全て……全て思い出したでヤンス。」
僕と戦士、魔法使いも順に薬を飲んだ。そして全てを思い出してしまった。
~~勇者の記憶~~
そう。99回だ。何度も何度も魔王を倒した。そして大魔王に挑んでは記憶を消され、レベル1で最初からやり直しをしていた。
ワープゲートで大魔王の部屋へ移動するとすぐに戦闘開始となる。盗賊が鑑定した結果、大魔王のレベルは999だった。僕のレベルは99だ。魔王を倒しても上がらなかったレベル。これ以上レベルが上がる事はない。
何度も魔王を倒した。その度に大魔王へ負けた。記憶を消された。時間を戻された。
なぜこんな事を繰り返しているのだろう? なぜこんな事が許されているのだろう?
僕は女神に認められた勇者のはずだ。その勇者がこれ程までに勝てない戦いを繰り返している。
なぜだ? 手紙の続きを読む。
~~ミドリの手紙~~
思い出して頂けましたか? 全ては予定調和だったという事に。博士によるとこの世界と似たような世界が合計で100個あるそうです。
その内5つの世界だけ大魔王が討伐できる、魔王討伐で平和が訪れる世界があるそうです。
残念ながら私たちの世界は残り95個の内の1つだそうです。
貴方が女神と信じていたのは神の使徒。彼らの目的は単純明快で、死なない事だそうです。100個の世界では極稀にイレギュラーな存在がおり、その存在は神の使徒を滅ぼす可能性を持つそうです。そのイレギュラーを監視する為に5つの世界を。私たちはその世界の予備。いえ、はっきり言いましょう。私達の世界はオマケ。蛇足です。
神は人間の可能性を見てみたいそうです。その為、最低100の世界の作成。その内5つの世界で魔王、大魔王を毎回異なる方法で討伐可能にしなければならないノルマがあるそうで。
これでなぜ私たちの世界が蛇足なのかの意味がお分かりになったと思います。私達は100個の世界を用意するというノルマを達成するためだけに作られた世界の住人なのです。
今貴方には3つの選択肢があります。
1つ目は、また同じことを繰り返す事。
2つ目は、このまま大魔王を討伐しない事。しかし、大魔王はおそらく一定の期間が経過すると此方に攻めてくると思われます。そして世界をリセットしてまた繰り返すでしょう。
3つ目は、その宝玉をゲートへと投じる事。平穏な世界を取り戻す事ができるかもしれません。大魔王が此方の世界へと移動できるゲートは此処にしか設置されていないそうです。いつかこの世界も神の監視の対象となってしまうでしょう。場合によっては貴方の存在が消される可能性もあります。それでも。
それでもこの選択をするしかないと思います。
貴方の勇気ある決断を末筆ながら期待しております。
それではごきげんよう。
~~3日前・エリオット博士達~~
「用意はできたか?」
「出来ております。」
「やる……しかないの…………?」
「研究に研究を重ねたのだ。残されたのはこの方法しかあるまい。」
「出過ぎたマネかもしれませんが、既に私共は規格外で御座います。新たな5体目のモンスタークリエイトでレベルも120まであがっておりますし」
「時間の……問題なの…………?」
「そうだな。いずれは神の使徒とやらに見つかるだろう。そして我々の存在は抹消される。」
「それでも、それでも今少しの平和を……いえ、仰る通りですね。早ければ早いほどいいでしょう」
「ゲート……開きます…………」
エリオットは『全ての研究成果』を実用化し、大魔王へのゲートを開いた。
「まずは相手の情報を得る事だ。私の『万能眼』で様子を見よう。ふむ。予想通りレベルは999だな。」
「やはり9999ではなく、999でしたか。ミドリ、装置を。」
「了解……ゲートへ調査機械を投入…………」
~~2日前・エリオット博士達~~
「ふむ。概ねだいたいは把握できたな。これより大魔王討伐作戦を開始する。」
「はい。それでは僭越ながら最後のボタンを押させて頂きます。ポチっと」
「対大魔王用兵器……毒ガス魔法発動中…………」
エリオット博士が異変に気がついたのは77回目の魔王討伐が終わった時のそうだ。それから研究に研究を重ねた。その結果、大魔王とは戦っても絶対に勝てないとう事がわかった。
ならば戦わない。それが博士の出した答えだ。
博士は最高の毒ガス魔法を追求した。ワクチンが決して作れない毒ガス魔法を。
その毒ガス魔法をワープゲートへと自分で注入する事も考えたそうだ。だがそれでは神の使徒と良くて相打ちだろう。ダメだった場合はまた同じことの繰り返しかもしれない。
そして私が作られた。その毒ガス魔法を元に生み出された抗体のある唯一の存在。ホムンクルスの私を。
「1分経ったな。毒ガス魔法の効果が切れたか。万能眼で確認。大魔王は討伐したが……何も起こらないな。」
「行くのですか? ゲートの向こう側へ。」
「ゲートに入る……神の使徒遭遇…………?」
「今の討伐で私達のレベルは350程度まで上がった。神の使徒がレベル9999だった場合、瞬殺されるだろう。すまないな。お前たちは毒の抗体を持たない。パーティー解消。ここでお別れだ。」
「承知致しました。感謝しております。私達を生み出してくれた事。様々な事を教えて頂いた事。最後かもしれませんので、これだけ言わせてください。」
「「短い間でしたが、今まで有難う御座いました。」」
「うむ。お前たちは勇者に見つからない場所で余生を過ごすと言い。ではさらばだ」
ゲートへ入ったエリオットは神の使徒によって神界へ転送される。
有無を言わさず毒ガス魔法を放ち、神の使徒を撃退。
その結果、神を名乗る人物と出会い、第1使徒の作った世界『反則勇者の墓場』へと飛ばされる。
尚、博士がゲート入った3分後、生死を共にと思った2人はワープゲートの中へと入ってしまう。博士と供に『反則勇者の墓場』へと転送される2人の顔は笑顔に溢れていたという。
――――To be continue
今まで感想頂いた事ないのでもしよければ……。ついでに評価もお願い……します。。。