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ただ好きと言うことさえも

作者: 若旦那

 一言だ、たった一言あの時に言えただけで何かが変わっていたんだろうか。


 彼女はきっとその言葉を待っていた気がする

「私の事、忘れちゃやだからね!」

 あの時言われた言葉が頭の中にこだまする。

「忘れられるもんか、こんな大事な物渡しておいて・・・」

 運動をしたわけでもないのに胸の鼓動が早くなる、まるで忘れるなと言われているかの様に・・・

 けして苦しいわけではない、僕はこの瞬間が好きだ。

 この瞬間が彼女を強く感じる気がするからだ。

 こうして1日1日を大事に生きていく、これはある男の子と女の子の長い様で短いお話


 少年は生まれた時から心臓が悪く体が弱かった、普通男の子なら運動がしたいと思うだろうがこの子は違った。両親共かなりの読書家だったため家に本が沢山あり、その為本に興味を持つのに時間はかからなかった。

 本は良い、対して動かなくても楽しめる。以前父に電子書籍を勧められたが僕はページをめくるという動作も好きだった、この動作込みで本だと僕は考えている。

 一度僕は発作で数ヶ月入院したことがあった、そこで同い年の少女と出会った。


 少女はとても健康で生まれた動くことが大好きで、友達とあ喋りする子も大好き。

 友達は多いしクラスの、いや学校の人気者だ。容姿と性格も良いので沢山の異性のも好意を持たれている。

 本は嫌いだ、まず落ち着く行為そのものが苦手だった。

 文字も多いしいまいち頭に内容が入ってこない

 順風満帆とはこの事だろう、毎日が楽しかった少女はこのまま普通に大人になって、好きな人と出会って結婚して、子供に囲まれそして好きな人と共に一生を終えるのだと。

 だが少女が中学3年に上がってすぐな頃に頭痛がして倒れた。医者が言うには癌だそうだ。

 いまいちピンとこなかった、両親は泣きながら医者に問いかけている。話は全然入ってこなかったが、

『余命半年』その言葉だけは頭から離れなかった。

 少女は検査入院で一週間入院することになった。そこで少女は同い年くらいだろうか、本を読んでいる大人しそうな子と出会った。髪が男にしては長くて顔がよく見えない、でも窓から吹く風で髪が揺れ顔が露わになる。容姿は悪くない、何故だろうこの男の子の目は本に向いているが真意は違う気がした、学校ではこんな雰囲気な人出会ったことがない。少し興味が湧いてきた。

 袖からちらりと見える腕は白くて細い運動などしたことがない様だ。

 ああ入院してる子か体が弱いんだな、少女はそう思った。入院中暇だし同い年みたいだし仲良くなれるかな、話しかけようかな。そう考えているとあっちから話しかけてきた。



 少年は本を読んでいただけだった、そろそろ部屋に戻ろうと本を閉じ顔を上げるとそこには少女が此方を見ていた。少年は口を開きゆっくりと喋りかける

「何か用?」それが少女とのファーストコンタクトだった。

 少女は驚いた

「何か用?」少女は少し棘のある言葉に感じた、何をそんなに物珍しいに様に見てるのかと言わんばかりの冷たい目をしていた。

 そんなわけではないと言う意味を込め

「別に、そんな所で本読んでて寒くないのかなって思っただけだし、そんなジロジロ見てたわけじゃ・・・」

「そう・・・」

 同い年だろうか白のワンピースを着込みとても似合っている、肌も白くて華奢な体つきをしている、一言で言うならば『美しい』ただそれだけだった。

 こんな子が何故こんな所に?つい冷たい反応を取ってしまった、少し反応を伺ってみよう。


 そう?心配しているということを告げたにも関わらずその一言しか返ってこなかった事に少し不機嫌になり

 つい思ってもないことを言ってしまった。

「ねえ、その言い方は無いんじゃない?私はただ心配して言ったのよ。それをそんな一言で済ませるなんて酷いんじゃない?ああ本ばかり読んでいるから人との関わりが無くてそんな言い方しかできないのね。それにじっとしていないと読めない本なんてよく読めるわね。」

 ああ言ってしまったこんなことまで言うつもりは無かったのに。

 癌だと言われ周りに当たってしまうの仕方ないと仕方のない事だった。自分の失言が恥ずかしくなりその場を逃げる様に去ってしまった。次に出会ったら謝ろう、そう胸に決めた。


 少年は唖然とした。初対面でしかも女の子にこんな事を言われたことに。

 不思議と怒りは湧いてこなかった、正論を言われたのだから怒るなどお門違いというものだ。

 確かに心配して言ってくれたのにあの一言は無かったなと反省をした。

 次会えたら謝ろう、そう心に決めその場を後にした。


 今日から一週間入院の為鞄に着替えや必要な物を詰めていく。

 下に降りると母親が笑顔で接してくるがその笑顔はどこか少し悲しい感じがした。

 無理もない娘が余命半年だと言われまともに居られるわけがない。

 兄も同様無理に笑顔を作って自分を元気付けていてくれる。

 好きだった陸上部も先生に訳を話し辞めてしまった、友達には言えず嘘で誤魔化してしまった。小学からの親友である久美子にも少し重たい喘息だと嘘をついた。

 いつか本当のこと言えたらと思っている。

 大好きな運動が出来なくなったのは残念だがまだ友達が居る、学校に行ける。それだけで少女の心は満たされていく。

 病院につき、部屋に案内される。そこは真っ白でベットが一つ、テレビ一台棚や小さなクローゼットとあとは簡単な物があるだけ。これだけならただの部屋だが違う、大きな機械、それを見た瞬間病院なんだと思わされる。


 荷解きが済みしばらくすると母と共に先生に呼ばれ早速検査をすると言うので部屋を後にする。

 長かった検査も済み母だけ話しがあるとの事で私は1人になった。

 せっかくだしあの時の男の子を探そうと病院内を歩き出した。

 見つけるのは簡単だった、またあの時と同じ場所に座って本を読んでいたのだ。


 少年が此方に気付き話しかけてくる

「こっちに来て座りなよ、少し話そう」

 昨日あんな事言ったのにまさかの反応だった、まあいい謝るきっかけが出来たのだから


 いつもの様に本を読んでいた、横目に人が立っていたのが見えたので顔を向ける。

 彼女だ昨日と様子が違う、服が私服ではなく病衣なのだ。考えるよりも先に話しかけていた。


 こうして2人向かい合って座る、少女は少し緊張してる様だったので自分から先に話題を振った

「昨日はごめん、あんな言い方して。」

 少年は頭を下げる

「え!?いやごめん私こそいきなり酷いこと言って」

 少女も頭を下げる

 しばらくすると少年は声を上げ静かに笑い出した

 それを見て少女も笑った

「もう、なんで急に笑い出すの?」

 と少女は問いかけて来た

「いや、謝っても昨日のあの反応じゃ許してくれないもんだと思っていたしまさか謝罪が帰ってくるとは思っていなかったから」

 そう言うと少年はくすくす笑う

 彼のツボがよく分からないな

「私は美歌。美しいに歌。覚えやすいでしょ、君は?」

「僕は奏慈。奏でるに慈悲の慈」

 少女は笑い出す

「歌と奏でるか。なんか運命的だね!」

 その時の彼女の笑顔はとても眩しく見えた、まるで本に出てくる物語の主人公のような眩しさ

「運命だなんて、ただの偶然じゃない?」

「またそんな言い方をする!さては君友達居ないでしょう?」

「居ないんじゃなくて作らないだけだよ、そもそもどこからどこまでが友達なのかを聞きたいよ」

「そういうこと言う人って友達居なかったりするよね?」

 観念したのか少年はそうだよとだけ言い横を向いてしまう

「よし、。じゃあ私がお友達になってあげる!」

「結構です」

 丁重に頭を下げられ断られる

「えー何でー?」そう言うと少年はまた笑った

 それから少年と何故入院してるのかと言う話を聞いた

「心臓が悪いんだ、生まれつき、運動はもちろん出来ないけど普通に暮らして行けるし幸いにも僕は運動がそこまで好きじゃないからね」

「そう、なんだ・・・」

「そんな暗くならないでよ、明るい顔して居ないとモテないよ」

「失礼な!これでも私結構モテているんだからね!」

「へーじゃあ彼氏はいるんだね」

「・・・いないけど」

「ごめん」

「今何で謝ったのか詳しく聞かせてもらおうかしら?」

 少年はまた笑い出す、よく笑う人だなそう思った

「君は何でここに?昨日は私服だったのに今日は病衣だね、入院するの?」

「君じゃなくて美歌って呼んでくれない?名前がちゃんとあるんだし。」

「いやー僕に下の名前呼ばれるの嫌じゃない?それに女の子の名前下で呼ぶのはちょっと・・・だから君で勘弁して欲しい、慣れるまで待ってよ。」

「絶対ね?分かったいまはそれで勘弁してあげる、私癌なんだってさ。それで詳しく調べるために検査入院って訳。」

「癌って・・・そんな明るく言えるようなものじゃないと思うけど。」

「しょうがないじゃない?なってしまったんだから。それに病は気から。でしょ?余命2年て言われたけどそれそり長く生きてる人も居るみたいだし弱気になんてなれないわよ。」


 とても強い子だ、普通なら諦めて死を受け入れてしまう様な出来事なのに、でも彼女はまだ生きたい。という気持ちが伝わってくる

「そうだね、弱気になんてなってられないね。」

「ところであなた何時まで入院してるのよ?」

「来週には退院だよ、学校もあるしね」

「流石に学校にはいってるのね、どこの学校?」

「君と同じ学校だよ」

「え?そうなの?知らなかったわ」

「そりゃそうだよ、進級してすぐ倒れて入院したんだもん1ヶ月くらいかな」

「確かずっと休んでる奴居たわね、君だったのか。でも1ヶ月て友達作るの厳しいよね?やっぱ私が友達になるしかないわね。」

「はぁその時は頼むよ」そんな何度も言われれば断りにくいじゃないか、素直にご好意にあずかろう

「ちゃんと返事を返すこと!OK?」

「分かってるよ、でもあんまり期待はしないでね?僕に話しかけてるとこ見られたら何言われるかわかんないし」

 人気者の彼女がずっと休んでいた僕に急に仲良くしていたら他の男子には良く思われないだろうし・・・

「そんなこと気にしないんだけどなぁ」

 色々話し込んでいると彼女は話がある為先生に呼ばれた

「じゃあねまた話そう」そういって去っていく

 僕は手を振ってそれを見送る

 まさか謝罪するだけだったのに仲良くなるとは、友達は要らないと思っていたけどこういう時間も悪くは無いかな

 そんな事を考えながら病室へ戻った


 先に彼女が退院していった、そして僕も退院の日が来て明日から学校だ。学校と言ってもいつものように勉強して、本を読んでそれで一日を過ごしていくそれだけだが今は彼女が居る。

 少しずつだが僕の何かが変わっていっている気がした。


 進級してから二回目の登校だ、緊張はしていないが自分の席がどこだったか少し不安になる程度だ、教室に行くと当たり前だが誰?っていう顔がほとんどだ。

 座って本を読んでいると声をかけられる

「久しぶり!また本ばっか読んで、友達できないよ。」

「君は僕のお母さんなの?友達は君だけで十分だよたくさんいても人付き合いめんどくさくなるだけだし」

「ん、なんだかうれしいこと言ってくれるじゃない。私はうれしいよ。うんうん。」

 なんて事ない会話をしていると先生が来て授業が始まる。


 授業は難なく終えた、この学校は本が多いと聞いていたので図書室へ向かった。

 聞いていた通り本が多い、図書委員と勉強しているのが数人いる。奥の本棚まで歩いていくとそこには彼女が居た。

「何してるの?」

「本を読んでるのよ?悪い?」

「椅子に座って読みなよ、こんなところで読んでないでさ。それに読書嫌いなんじゃなかったっけ?」

「君が楽しそうに読んでからどんなもんか気になって読んでたのよ!」

「で?面白かった?」

「ぜんぜん!内容良くわかんないしやっぱじっとしてんのが苦手かな。」

「そっかじゃあやっぱり君とは分かり合えないかもね・・・」

「すぐそうゆう事言う!素直じゃないね君は、そこはじゃあ君が好きになるように僕がお勧めを選んであげる!くらい言えないかな〜」

「じゃあお勧めを選んであげるよ」

「おっそいよ!しかもそれ言わされている感半端ないね」

 一体どうすればいいんだかそのままスルーして本棚から一冊抜き彼女に渡す

「これ、僕が初めて呼んだ本。そんなに難しくないし初めての人でも読みやすいと思うよ。」

 生き別れた兄弟が再び出会う感動ものの本だ、この手の本はあまり手を出さないがこれは別で結構気に入っている。

「ふーんそこまで言うなら読んでみよっかな」

 そう言いながら鞄に本をしまう彼女そしてぶっちゃけた事を言い出した。

「ねえ、一緒に帰らない?」


 特に断る理由もなかったので帰ることにした。僕は他人にこの事を見られても何とも思わないが彼女はどうだろう、変な噂が立ってしまうのではないか。まあ周りから見たら友達のいない暗いやつに人気者で美人な子がお情けで一緒に居てあげているだけと認識されるだろう。

 だが実際の関係は秘密を共有し合うもの同士で今となっては友達以上と言ってもいいくらいなのかもしれない。彼女を自宅との中間地点まで送り登校二回目は終了した。


 少女は少年よりも先に退院した、彼はその数日後に退院するそうだ。

 短い間だったがずっと一緒にお喋りしていただけにこう数日話していないだけで何だか気持ちがもやもやする。これが何なのかは少女にはまだ分からない。

 一応別れる時に連絡先を交換していたので明日登校するとの返事が来た、久しぶりに話せると思うと少しわくわくする。彼とは友達にも話せていない秘密を共有し合える数少ない友人、少女にとっては既に何でも話し合える友人にまでなっているのだから。過ごして来た時間が長いからといって親友になれるかと言えば私はそうは思わない、逆に短い時間でも親友になれるのだと私は思う今回の彼の様に。

 朝学校に行くといつも空席だった所に彼はいた、相変わらず人との間に壁を作り本を読んでいる。

 友人達の挨拶を済ませて彼の所まで行き話しかける。


「久しぶり!また本ばっか読んで、友達できないよ。」

 いつもの様にフランクに話しかける、すると彼から出会った頃では絶対に返してこないような台詞が帰ってくる。


 友人達から知り合い?などと聞かれ友達だよと返す。それに対し不思議な顔をされる。

 それもそのはずだ、今日含めまだ二回しか登校していない人を友達だと言うのだから。


 授業が終わり図書室へと足を運んだ。なんとなく彼が来そうな気がしたからだ。

 奥に進み特に考えずに本を選び読み込む全然分からない、彼はよくこんな難しいものを好んで読むものだと感心する。

 しばらくすると彼が話しかけてくる。お勧めの本を貸してくれた、一緒に帰ろうと言うと帰ってくれた。

 本当にあんな最悪な出会い方をしておいてここまでの関係を築けたものだと思う。

 彼の家との中間地点が来たのでそのままお別れをした。明日勧めてもらった本の感想を聞かせよう。

 少女は小走りで帰路についた。


 少年はいつもの様に席に座り本を読んで居た。手洗いで席を立ち、用を済まし教室に戻る時少年は話しかけられた。知らない人物だ、当たり前かまだ登校して三日めだ。

「お前ずっと休んでたやつだよな?何で筒井と仲良く話してんだ?どうゆう関係だ?」

 筒井?ああ彼女の事か・・・

「美歌さんの事?どうゆうって言われても友達・・・!?」

 急に胸ぐらを掴まれ僕は言葉を中断された

「お前みたいな本ばっか読んでる根暗な奴が筒井と釣り合う訳ないだろ。しかも美歌さん?友達?勘違いすんなよ、筒井はぼっちのお前に同情して話しかけてんだそれを勝手に友達と勘違いするんじゃねえ」

「君は、美歌さんの事が・・・好き・・・なのかい?」少し意地悪な質問だったかなそれに揺さぶられたせいで、まずい少しめまいがして来た意識が・・・


「何やってるの!」

 急に手が離され地面に座り込み声の主を見た彼女だ

「彼に何をしたの?答えなさい!」

「いや、俺はこんな奴と筒井が釣り合わないって忠告をして居ただけで・・・」


「釣り合う釣り合わないはそれを決めるのは貴方じゃない!この私!それに貴方確か私に好意があるみたいね?友達に聞いたわ。はっきり言って迷惑よ、こんな事するなんて、二度と私に話しかけないで!」

 そう言われた男はちらっと僕を睨み去っていく。

 気がつくと保健室にいた、隣の椅子に彼女が座っている話しを聞くとあの後僕は気を失い、先生に運ばれ保健室まで来たそうだ。我ながら情けない。

「ごめんなさい、私が貴方の事考えずに無闇に話しかけたりしたから。」

「何で謝るの?謝るののは僕の方さ、体が弱いせいで迷惑かけて・・・」

「そっちの事じゃないわよ、馬鹿・・・」

「え?なんだって?」

「何でもないわよ!で君どうするの自力で帰るつもり?」

「うん、もう何ともないし帰れるよ、一緒に帰る?」

「しょうがないわね友達なんだし帰ってあげる!」

 素直じゃないな、こう言う人をツンデレって言うのかな、言ったら怒られそうだから言わないでおこう。


「本、読んだよ。分かりやすくて私でも楽しめた。で少し泣いた、感動系なら最初から言っておいてよ。完全な不意打ちだったわよ」

「ごめん、実は感動系なんだそれ」

「だから言うのが遅い。」

 二人して笑いながら歩いている

「またお勧め教えてよ君が選んでくれた本なら 読める気がする」

 まただ、あの時みたいに彼女の笑顔が眩しいこの感情は何なのだろう今まで少年が感じたことのない感情

 恋。これをこんな一言で済ませて良いのだろうか。自分が変わっていってる原因が彼女なのだと察した。

 もっと彼女と話していた。僕はそう思うようになっていた。


 時が経ち学校はすでに夏休みに入っていた。少女の余命は半年で、医者が言うには夏まで持つかどうかと言う話だったらしいだがもう半年は過ぎていて少女はぴんぴんしていた。検査によると癌が無くなっていたのだ。

 両親は喜び少女も大いに喜んだ、卒業して高校にも通える。少女の負けないと言う気持ちが癌に勝ったのだ。


 その後は時が経つのがとても早く感じた、私はお祝いといい彼を誘って水族館に向かった。彼は祝福してくれた、夏休みは彼と沢山遊びたくさん話した。進路を聞くとなんと同じ高校だということも分かった。これも運命?

「もしかして君ストーカー?」

「失敬な家が近いんだよそこの高校は。」

 イタズラめいたその質問に彼はそっぽを向けながら答える

 来年からも宜しくなどと気が早い挨拶を済ませたりと中学三年の冬が訪れる


 クリスマスに僕から彼女をデートに誘ってみた、この日に告白しようと僕は考えていた。

 彼女は二つ返事で了承してくれた。

 だけど当日彼女は待ち合わせ場所に来なかった。

 次の日メールが来ていて確認するとまた入院しているとのことだった、慌てて病院へと向かい彼女の部屋に入る。

 彼女はストレッチをしていて元気そうだった

「え?何来てくれたの?うれしー 。ごめんね昨日行けなくて、急に頭痛くなって入院してたんだよねー」

 気丈に振る舞っているが様子がおかしい僕は真剣な眼差しで聞いた。

「どうしたの?」

 観念したのか彼女は答えた

「癌、転移してたんだって。今度はもう三ヶ月くらいだって。高校通えないねこれじゃあ。参ったよ全く」

「君は・・・死んじゃうの?」

「・・・いきなりだね、どうだろう死んじゃうんじゃないかな。正直一回奇跡が起きちゃってるし二回も起きるなんて思ってもいないし」

「勝手だよ・・・君はいつも勝手だ、土足で僕の心に入り込んで来たと思えばふらりとまたどこか遠くへ行く。しかも今度は死ぬ?どこまで振り回すんだ君は」

 彼のこれまでにない感情を露わにした心の叫びを聞いた。こんなにも私は彼に愛されていたんだと。それだけで悔いはないそう思えてしまう程に私もまた彼が大事な人になっていたんだと感じる。

「しょうがないよ、人は死ぬときは必ず訪れる。それがいつなのかは分からないけどね。運命だったんだよ、これが私の。」

「君は僕との出会いも運命だと思う?」

「思うよ、だってこんなにも君のことが大事なんだもの」

「君にそんな風に思われていたなんて、僕は幸せだな」

 お互いの気持ちを確認した、そしてぼ僕は後悔するであろう失敗を犯した。好きと伝えること。まだ時間ならあると勝手に思い込んでしまっていた。


 そして彼女の容体が急変したと言うことを数日後知った 。まるでこの日この話をする為だけに神様が時間を作ってくれたかの様に思えた。

 メールのやり取りはしているが何故かお見舞いは来なくて良いと言われている。数週間たち流石に静止を無視しお見舞いに行くとそこには変わり果てた彼女がいた。

 笑顔ではいるがどこかそこにはかつての様な彼女の強さが見られなかった、癌と必死に闘っているんだと一目でわかった。

 来て欲しくなかったのはこれか・・・

「ごめん来ちゃった・・・」

「もう、来なくて良いって言ったのに。こんな姿見られたくなかった」

「どんな姿でも君は君だよ、僕はどんな君でも受け入れる覚悟はあるよ」

 そう言うところなんだよな、君のそうゆう所に惹かれたんだな私・・・


「ふふ、そんな事言うと好きになっちゃうよ?」

「それは勘弁してほしいかな。」

 もうっ!と彼女はふてくされる。あと何回こんなやり取りが出来るのかな・・・

 そして最期の冬の終わりが迫って来る


「はあ〜結局正月も病院か〜・・・で?何で君もまた入院してるのかな?

「仕方ないよ心臓に雑音があったんだから、最近外に出過ぎたせいかな・・・

「えーそれ私のせいって事?」

「自覚あるんだね」

「酷い!!」

 二人していつもの様に笑い合い、馬鹿にし合ったりした。今日もいつもの変わらない日常だ。

 僕が今一番大切にしたい時間

「ところで何を書いてるの?」

「よくぞ聞いてくれました!なんと小説を書いているのです!」

「君が、小説?こんな事までして僕を笑わせようとしなくても大丈夫なのに。」

「傷付く事言うな!私は真面目に書いてるの。私と君が出会って、今までの出来事を書いているの。私はね、

 自分を残したいの。私が確かにここにいたってっことの証明が欲しい。だから本を書くことにしたの。

 最初は君に見て欲しい。無事手術が終わったら最後まで書きあげてみせるよ。君は何かなりたいものは無いの?」

「僕は、小説家かな。それしか取り柄がないし書きたい話がたくさんあるんだ。小さい頃からの夢だった、でももう叶わないかもね。」

「何でそんなこと・・・」

「僕もう保たないみたいなんだ、いつ発作で倒れてもおかしくないくらい。早く心臓を移植出来たら助かるらしいけど。」

 都合よくそんな奇跡起きるわけないよねと彼は笑い飛ばす。でも顔は暗い、不安なんだ彼も。私と一緒で。

 諦め無ければ奇跡は起きるよ。諦めた人からは奇跡は絶対起きない!奇跡を一回起こしてる私が言うんだから間違い無いと思わない?」

 とても無邪気な笑顔で彼女は言った

「そうかもね、いやそうだね諦めたら駄目だね。生きよう二人で一緒に、そしてその本を僕に読ませてよ」

『約束』小さな病室に二人の声が重なる


 三月が終わりに近ずき受験の合否が発表された、二人とも合格だ。来月から

  同じ高校に通えるのだ。二人とも今は退院して家に戻れている。彼女の寿命はまた伸びていた。

 本当にまた奇跡が起きるかもしれない、誰もがそう思っていた。


「あのね。私もうすぐにでも手術しないと助からないみたい。」

「え!?」突然の告白だった。だって寿命は伸びてまだ時間が増えたはずなのに何故


「転移してるみたい、脳の中を大きいのと小さいのが。最近変なんだ。大切なのに、忘れちゃいけないはずなのに偶に君の事が分からなくなる。進行が進んでる証拠なんだって。」

「・・・」

「怖いよ、私。手術しても確率は5割だって言うし。もう君とこんな風にお話し出来なくなるのかな?

 折角高校同じになれたのに、私の親友を紹介したかったのに。全部無くなっちゃうのかな。変な事言うよ。

 君はさ、私と一緒に死んでくれる?」


 知らなかったこんなにも彼女は追い詰められていたんだ、今まで僕に気付かれないように振る舞っていたんだ

 僕は彼女に生きていて欲しい!もう彼女は僕にとって大切な人になっているのだから。

「君は・・・最後まで諦めないんじゃなかったの?高校に行くんでしょ?恋人を作って、結婚して子供を作って、好きな人と一緒になって死ぬんでしょ?だから、今君と一緒には死ねないよ。僕も頑張る。だから君も必死に生きてよ!」


「あの時君と出会えて、本当に良かった。うん。頑張ろう私決めたから」

 そう私は決めたこれが知られたら多分彼は凄く怒るだろう。でも怒らせるのは今日で最後にするね。

 彼女は一つの事を決意した。私が最もここに居たという証明になるであろう決意を。


 彼女の手術の日がやってきた。せめて近くに居たくて病院へ急ぎ準備をする。が、突然発作が少年を襲った

 ?何で!何で今日なんだ!嫌だ、せめて彼女の手術だけは絶対に・・・意識はそこで途切れる


 目を覚ますと白い天井が見える、いつもの病院の天井だ。周りで誰かが騒いでいる、よく聞こえ無いよ。声も何だか出しずらい。何をしていたんだっけ?そうだ彼女の手術を見守ろうとした時発作で倒れたんだっけ

 そこでようやく意識がはっきり戻る

 両親が泣いている、医師達が僕の体の検査をしている。

 もうはっきりと聞こえるし声が出る。

「良かった無事目を覚ましたね。一週間も眠っていたんだよ君は」

 医師が説明してくれる、一週間か彼女はどうしているだろう。


「あの一緒に入院してた、あの子は?美歌さんは何処にいるんですか?まさかもう退院してるんですか?」

 皆無言になり言うか言わないか迷っている様子だ誰も何も答えてくれない。

 ああ彼女の差し金かな?僕を驚かすために仕組んだんだ。彼女ならやりかねない。そう思い待っていると母が誰かを連れてきた。

「美歌さんの、お母さん?」

「奏慈くん会うのは二回目ね。」

「美歌さんは何処ですか?どこかに隠れているんですか?」

「奏慈くん、美歌はね亡くなったのよ」

 亡くなった?彼女が?

「嘘だ。だっていつもみたいに僕にいたずらして来るはずだ。今もどこかにいるはず・・・」

「奏慈!!」

 母が、あの今まで怒鳴ったことのない母が始めて声を荒げ僕の言葉を静止する

「奏慈、よく聞きなさい。貴方はあの日倒れて心臓が止まりかけてて危ない状態だったの。もう諦めてた時に貴方に心臓を提供してくれる方が現れたのよ。」


「そんな、嘘でしょ・・・」

「嘘じゃないわ貴方に心臓を提供してくれたのは美歌さんよ」

 どくんっ

 心臓が大きく鼓動した、まるで彼女が僕になにかを伝えるように


 それから数週間立ち、体に異常なしと出たので退院して最初にあるところに向かう。

 彼女の家だ、インターホンを鳴らすと母親が出てくれて家に入れてくれた

「お邪魔します、すいません遅くなりました。線香をあげに来ました」

「いらっしゃい、待ってたわ」

 線香をあげ終わり母親と話す

「あのこは入院して次の日にね面白い男の子に出会ったって教えてくれたの。

 そしていつのまに友達になってるんですもの、あの子の社交性には親の私でも驚くばかりよ。

 君には随分迷惑おかけたみたいね」


「いえ、迷惑だなんて。楽しかったです、毎日が。美歌さんと一緒にいるあの日々が。あの、聞いてもいいですか?」

「なに?」

「美歌さんは何で僕に心臓を?」

「あの子手術受ける前にね、ドナー登録をしたいっていって来たの。最初は反対したわけどあの子強情でしょ?私の最期の我儘を聞いてって。君には夢があるんだって。 世界で一番大切な、大好きな人の為になりたいって。こうして今君の胸の中には美歌がいる。私がずっと付いててあげるんだって。」


 なんだよそれ、勝手すぎる僕一人にしないでくれ。彼女のあの時いっていた意味が今ならよくわかる。

 決めた。とはこういう事だったのだ。彼女は助からないことを知っていて心臓を僕に渡した。

 彼女にとってこれこそがここに居るという証明になると考えたのだ。

 君はこれも運命だと言うのかな?

 どくんっ

 また心臓が鼓動する

 うんわかったよ、君を忘れさせなんかしない。僕が君をここに居るって証明する、僕は君にもらったこの命で生きて行くよ。

 気付くと涙は止まっていて冷静になっていた

「後これあの子が書いてた小説。君に渡せば後は完成させてくれるって。」

 僕はその小説を受け取る、結局僕に丸投げじゃないか。しょうがないか君はそういう人だもんね。

 いいよ僕がこの本を完成させて見せるよ、だから少しの間待ってて欲しい。


 あの時の彼女のおかげで今の僕がある。あの時受け継いだ本を完成させ君を知ってもらう為に出版もした

 これで君は読んでくれた全ての人に知ってもらえただろう。

 君との約束は半分しか守れなかったし最後まで言えなかったことがある。


 もし死後の世界というものが存在するならば。君に真っ先に言いたい


『君のことが好きだよ』





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― 新着の感想 ―
[良い点] 美歌と奏慈が本音で言い合っている姿が良かったです。特に自己紹介をして仲良くなるような様子を見せたと思ったら、言い方から再び喧嘩するところには笑いました。ただ喧嘩腰になっている時ほど、互いの…
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