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巨人たちの肖像   作者: 山本 友樹(yamaki)
30/42

第30話 思惑と傷心。

俺は事務所に戻り、パソコンに向かって今回の出来事を記事にしていく。




やはり今回の事件もいたたまれない物であった。人的被害こそ少なかったものの、一人の少年にあまりにも大きな傷を残していった。少年の彼女が記憶喪失となり、少年を拒否したのである。




その傷を負った少年は俺より後ろにいた。




巨人に変身する少年、結城淳のことだった。彼は今、俺の許可を貰い、会社の事務所の一室で雨宿りをしていた。彼は彼女であった美智子の一件でいっぱいいっぱいであった。





俺がパソコンとにらめっこをしている最中、携帯に電話がかかる。




非通知であった。




「はい、もしもし。」




俺は携帯を手に取り話しかける。




「淳はいるか。」




いきなり何を言い出すかと電話の主に言ってやろうかとも思ったが声ですぐにわかった。




「拓也か。」




声の主は黒柳拓也だった。UBに対して抵抗する力を有する組織signalという研究所所長であった。




「淳はいるか?と聞いている 」




拓也はまた話しかける。




「いるよ。」




signalは淳が所属しており、そして両親がもういない、身寄りのない淳にとっては家でもあった。




「さっさと変わってくれ。こちらに戻らせて作戦会議となぜもっと被害を減らせなかったかについて話さなくてはならんからな。」




拓也は淡々と喋る。電話越しにペンの走る音が聞こえる。何か作業をしている合間を縫って俺と喋っているのだろう。




「悪いが、それは後にしてやってくれないか?」




俺は提案する。あのあいつの今の生きてるか死んでるか分からない状態では意味はないと思ったからだ。




「何故だ?」




拓也は聞き返す。




「それはだな・・・・」




言葉に詰まる。




「なんなんだ?早く答えてくれ。俺だって暇ではない。」




拓也が回答を迫る。ボールペンの走る音が止まる。




俺は迷う。拓也に淳のことを言うべきか否かを。




「淳のガールフレンドがUBとの戦いに巻き込まれて記憶を無くしたんだ。そればかりか淳を拒絶したんだ。」




言ってしまった。取り返しのつかないことをしてしまったと心は思う。だが、拓也とて悪魔ではないはずだ。少し位は時間をくれるだろう。これで少しの間だが淳は自分と向き合う時間が出来るはずだ。俺はそう考えていた。




「ははは!なんだそれは!」




電話越しの拓也はいきなり笑い始める。




「何がおかしい!」




俺も声を荒らげてしまう。それに対して拓也は




「たったそれだけの事で悲しい?馬鹿すぎる!」




と笑いながら答える。




「てめえ!大切な人が!淳にとって大切な人がこんな目にあってるんだぞ!なんとも思わないのか!」




「思わんよ。」




俺の言葉を拓也はバッサリと切り捨てた。




「所詮は他人。あいつは俺たちにとってUBを倒すための兵器でしかない。」




「お前それ本気で言ってるのか・・・・?あいつは!淳はお前らの為にも戦ってるんだぞ!そしてお前らと同じ志を持ってるんだぞ!」




隆の逆上した怒りは電話越しで伝わったのだろう




「そう感情的になるな。そしてお前とは一度似たような話をしている。前と同じ回答をしよう。俺たちはあいつの唯一、UBと戦えるあの巨人の力の管理をしたいからあいつを養っている。力のないあいつはただのガキだ。なんの意味もない、そこらにいるガキと変わらない。そんなガキなんて引き取りはしないさ。金は有限だしな。」




拓也は話を続ける。




「それに自分の好きな人間に被害が出た?それはあいつの過失だ。うまく戦えなかったあいつの責任だ。」




なっ・・・・!俺はその言葉にまた怒りが吹き出そうになる。




「そしてもう一つ、生きていればどうにでもなる。ということだ。」




最後の言葉に俺は少し困惑してしまう。




「例え記憶が無くなっても生きていれば、生きてさえいればどうにでもなる。死ぬ以上に悲しい事などないのだ。死んでしまっては何も・・・・。俺の姉さんはもういない。だが、あいつのガールフレンドは生きているのだろう?なら悲しむことはない。また1から愛を育めばいい。生きているんだからな。」




最後の拓也の言葉で俺はとある事を思い出す。




「そうかお前の姉さんは・・・・」




拓也の姉はロシアでUBの研究をしている際、UBに研究所を襲われ、犠牲になっていたのだ。その犠牲になる瞬間を拓也自身が見ているのだからより言葉に重みが出てくる。




「何故知っている?誰から聞いた?」




少しだけ拓也の語調が強くなった気がした。




「実から・・・・」




実というのは拓也の幼なじみであり、そしてUBが拓也の姉が犠牲になる瞬間を見ている1人でもあった。




「余計な事を・・・・!」




ちっ!と舌打ちをうつ拓也。




「とりあえずさっさと来るようにしろ。こっちはバカの実がタバコを買ってきたら会議を始める。」




そう言い残し拓也は一方的に電話をきった。




「それでも俺は向き合う時間を与えてやらなきゃいけないと思ってるんだ。拓也。悪いな。」




俺はボソッと独り言を言ってしまう。




とりあえず淳が落ち着くまでは待ってやろう。それだけはしてやろう。

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