第3話 平凡
6日という長いのか短いのかわからないほどには時間が経った。俺は普通の記者としてのこれまでのように職務を全うしていた。
「あんたこれ、頼むわね。」
すらっとし、スーツを着たショートカットの似合う女性は俺に用紙を渡した。
彼女の名は村田アキ。俺の先輩にあたる人だった。
「先輩、これは?」
「言わなくても分かるでしょ?」
先輩が俺に手渡された用紙には土岐田中学校への訪問と書かれた企画書だった。要はここに向かえという事だった。
「最近中学校の記事多と思いませんか?この前も俺の記事は中学生の剣道大会でしたし。」
「あの記事を見て編集長が手応えを感じたみたいでね、もうちょい深く掘り下げてみようって。」
先輩の意見は嬉しかったが、中学生と聞くとどうしてもあの異形の怪物と少年と巨人を思い浮かべてしまっていた。
「あの少年にも会わなきゃいけないな。」
俺はまだ俺を誘拐した組織に返答もしてなかった。
俺は取材の前にあの林へ向かった。
林は荒らされた気配はなかった。まるで何事も無かったように。
「こんなに整ってやがるのか・・・。」
俺は違和感すら抱いた。全てが自然過ぎたようにも思えた。怪獣と巨人が戦った跡なんて無かったのだ。
「あの組織が戦いの後に全部植えなおしたりしたってことか?」
俺はどうも納得できなかった。それだけの労力をしてまであの化け物の存在を秘匿する必要があったのだろうか。
「まさにその通りですね。」
そんな事を考えていると急に後ろから声がした。
あの少年が立っていた。
「誰かと思ったら君か・・・。えーっと・・・確か名前は・・・」
「結城淳ですよ。隆さん。」
俺が思い出すよりも早く少年は答えてくれた。
「申し訳ないね。でも悪気はないということだけは理解してほしいな。」
そう言うと俺は辺りをもう一度見渡した。
今までの事が何もなかったかのように緑が生い茂り、鳥はさえずり、虫が羽ばたく。
「僕はこの場所が好きなんですよ。」
淳はひとりごちるように語り始めた。
「僕は両親が僕がみっつの時に死んじゃったんです。そのあとすぐにここに引き取られたんです。施設では僕は有望な存在ではありましたが大切には扱われませんでした。あの力を生まれさせるためには仕方なかったんですけどね。」
俺にはあまり良く分からなかった。俺の頭が悪いせいなのか、淳の表現が不可解なモノにも思えてはいた。
そして「大切に扱われていなかった」という表現が引っかかっていた。
「そういや組織の件なんだが俺、入るよ。俺は記者だ。真実が知りたいんだ。それが開けてはいけないパンドラの箱でも。俺は見届けていたい。」
それを聞くと淳はニコリと微笑んだ。
「あと、今から取材で土岐田中学校ってところに行くんだが、近道知ってるか? 」
俺は淳に尋ねた。
「まぁ僕の通ってる学校ですからね。」
「本当か!」
助かる!と少し安心した俺に淳はある提案をした。
「その代わり僕をそこまで送って下さい。」
ニコリと笑った淳に俺は
「お安い御用だよ。」
と返し、バイクの置いてある場所へと向かった。