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あのひ(リライト)  作者: 高橋 隆
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10

 病院で目が覚めた。天井を見上げていた。正確には、ベッドにあおむけになっている。

 忘れてしまったように、体の感覚が分からない。右腕を動かすのってどうするんだったか。目を開けたはいいが、閉じ方が分からない。

 そんな不思議な感覚も束の間で、だんだんと意識と肉体が重なってきた。

 瞬きをし、腕を動かし、手を握ったり開いたりして自分の体を取り戻す。ふと、寝返りを打とうと思って背中に違和感を覚えた。これは、痛みだ。

 寝返りをあきらめて首だけ動かして周囲を確認する。ふと、母親の姿が視界に入った。目が合った。


 大騒ぎになった。母親は俺の意識が戻ったことに気づいて涙を流していた。すぐにナースコールで看護師が呼ばれ、その看護師は大慌てで担当の意思を呼びに行き、そうこうするうちに電話で呼び出された父親が飛んできた。

 聞けば、この病院の植え込みで意識を失っているのを発見されたのはもう5日も前のことらしい。

 自殺未遂だった。5日前の夜、この病院に忍び込んだ俺は川島がいた4階の病室から飛び降りた。その状況から動機は明確だったし、俺自身、幻覚を見ていたとか心身喪失していたとかそういうわけではなく、はっきりと覚えていて100%意識的な行動だった。まあ、はたから見れば完全に心身喪失しているが――俺自身は『極冷静に絶望して自殺しようとしていた』だけのことだった。

 川島が亡くなったのはその前日のことだったからその病室――ベッドは1床だけの集中治療室――にはすでに誰もいなかった。夜中の病院の正面玄関や病室のカギがその日に限ってあいていたこと、俺が病室に忍び込む間――監視カメラにはばっちり映っていたとはいえ――誰にも見つからなかったことは、説明不能で正真正銘の偶然だった。


 今は、すべてのことを正確に認識できていた。つまり、すべては俺の妄想だった。妄想は川島の死を知った瞬間に生まれたが、それは過去にさかのぼって記憶を改ざんしていた。

 俺は川島が倒れる瞬間には立ち会っていない。神社でルカにあったとか、そこで川島が倒れたとかいうのは俺の意識が作り出した幻覚だった。

 現実と認識が乖離するきっかけになったのは川島が亡くなったと聞いた瞬間からだった。具体的には俺が自殺未遂を実行した日の帰りのHRのことで、テスト最終日のことだった。同時にお通夜の案内もあった。そのためテストは通常通り行われ、その日から解禁だった部活動には俺は参加しなかった。また、この時はショックで通夜にも参加しなかった。

 川島はもういない。これは現実だ。もう否定はしない。その必要は無い。



 俺以外誰もいなくなった病室に一陣の風が舞い込んできた。

「やっほー」

ふと、聞きなれた、どこか能天気な声が聞こえた。病室の窓辺、さっきまではなかった人影。

「……川島」


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