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それは俺とあいつの高二の夏の出来事。
「へえ。そのゲームって女子の間でも人気あんのな」
某アイドル育成ゲーム。ゲームにとどまらずアニメに展開したかと思えば、ついに現実の世界でライブまで始めた。
当時の俺は『声優も大変だな』とか、斜に構えていたものだ。
「私の周りでは結構流行ってるよ? でさ、そのライブを夏休みにみんなで見に行くことになったの」
「福岡まで?」
「そう、泊りがけ。2泊3日で」
学校の帰り、そんな話をするのは川島理沙。俺の幼馴染だ。
普段なら互いに部活してるから一緒に帰ることなんてないが、今は期末試験の期間だった。
きょうの試験がどうだった、とか、明日の試験がどうだ、っていうのは教室で他の友達と散々交わした後だったので、それ以外の話、特に試験後の楽しみについて語ろうぜ、っていうところだ。
「そんでさ、悟も一緒に行かない?」
まじかよ。誘ってくれるのはうれしかったが、素直に行くとは言えなかった。
「でもそれ女子バスケ部のメンバーだろ?」
「うん」
「男俺だけじゃん?」
「……そうかも」
他の人は彼氏誘ってたりするの?とはきかなかった。
そもそもそういう集まりじゃなさそうだったっていうのと、俺と川島も付き合ってるわけではなかったし。
「ちょっと行きづらいかな。いろいろと」
叶わないとは思いつつも俺が川島に好意を寄せていると言うのは誰にも公開していない秘密の情報だ。
「そっか。まあ、そっか」
しかしこうして話に決着がついてしまうとなんとも寂しい気分になる。身勝手な話、もう少し粘って誘ってほしかったというか、そういうことをちょっと期待していたというか。
俺は微妙に川島の顔が見れなくなって、目をそらす。かわりに視界に入ってきたのは近所の小さな神社だった。
神社と、境内にいる女の子。