第6話☆沼川海湖3
警官は目ぼしい物を見つけては、その地面にチョーク線を書いて印をつけている。
刑事と警官が、死んでいる真鍋とその周囲を調べているうちに、今度はスターバックスコーヒー店の前に救急車が到着した。そのすぐ後ろに鑑識の車も到着する。もうスターバックスコーヒー店の前は、車が停車できるスペースは無いのだが、それでも更にあとから来たパトカーなど警察関係の車が到着し、取材関係の車も到着し、スターバックスコーヒー新宿新南口店は、様々な目的の客が増えて賑わいをみせていた。
野次馬は、スターバックスコーヒーのテイクアウトをしたアイスコーヒーを片手に、路地を行き交う警察関係者と取材関係者を見ている。
蒸し暑い中に立っている美智子は、冷たくておいしそうなアイスコーヒーを見て、飲みたくても飲めない思いを我慢し、生唾を飲み込んでから、担架に載せられて移動する真鍋を追いかけた。
美智子はノートパソコンを抱えて駆け足で救急車に近寄って担架に載せられた男の顔を見る。
目が開いている男の死に顔に恐怖し、美智子は救急車に背を向けるが、青白くなっていたあの顔は紛れもなく真鍋ちゃんだったと美智子自身も死の恐怖を体験して体を強張らせた。
「うそぉー。なんで真鍋ちゃんが……」
目を見開いた人の死に顔というのはああも気持ちの悪いものなのか。それは葬式で見る瞳を閉じた死に顔とは余りにも違っている。
美智子は寒気を覚え、それに加え胃が掴まれたような感じがして唾液すら飲み込むのが辛いほどに吐き気もして「今日はもう小説を書くのは無理だ」と呟き、家に帰ろうとした時に、左右から両腕を掴まれて、美智子は歩こうにも歩けなくなった。
美智子が左右を見ると、先ほど覆面パトカーから降りた二人の男が美智子の左右の腕を掴んで立っていた。
中年の男は、持っていた手帳を美智子に見せる。
「四谷署の刑事一課の箕浦です」
箕浦が見せた手帳にもそう印刷されている。
「箕浦次郎さん……」
箕浦は美智子の右腕を掴んでいた。
反対側で美智子の左腕を掴んでいる若い男も手帳を見せて言う。
「僕は同じ刑事一課の小川です」
運がいいのか悪いのか、小川は美智子好みのハンサムな顔立ちだった。死に顔からハンサムの顔に変わり、美智子は救われた気分になる。早速、美智子は手帳の中にある小川の個人情報を収集する。
「小川和也さんですね」
腕を掴まれているにも拘らず、美智子は頬を赤らめ声のトーンが高くなった。