第23話☆推理1
7月6日の夜。22時ごろ。
西には沈みかけた細い三日月が見える。
美智子は、白いセダンに送られて自宅に到着した。
両親と兄と暮らしている美智子の自宅は中野区にある。
美智子を自宅まで送ったのは箕浦と小川で、近藤房江が捕まったあと、美智子も四谷署で事情聴取を受けたのだ。
美智子が車から降りると、その美智子を見送るために箕浦と小川も車から降りて来た。
自宅の玄関を潜ろうとした美智子は、ふと思い振り返る。
「犯人のアリバイは、殺人事件とは知らずに仕事の事情だと思って口裏を合わせていた夫の証言で崩れたのは分かったけど……」
美智子は上目づかいで箕浦を見ながら話を続ける。
「守秘義務があるのは分かっているんですが、私も真鍋ちゃんを知る人間なので、真鍋ちゃんが殺害された動機が知りたいです。小説に書かないし、誰にも言わないので、犯人の動機を教えてくれませんか?」
箕浦は大きく呼吸をして、鼻からゆっくりと息を出した。
「近藤房江は、まだ自供してないんですよ。取調べ担当者によると、近藤房江は泣いてばかりいるようで、事情聴取ができる状態じゃないそうです。まあ、1時間前の情報ですが」
美智子は視線を落とした。
「きっと話せない事情があるんですね。真鍋ちゃん、バイトで一緒した時に言ってました。今度こそ本当の愛を見つけたから、フリーターは卒業して、定職につくって」
「なんで今頃になって、そんな話を」
箕浦の言葉に、美智子は口を尖らせる。
「私の話を聞いてくれなかったのは刑事さんたちじゃないですか。質問ばかりして。質問以外の事を話すと怒るし。今日もカツ丼食べれなかったし」
美智子は夜空を見上げる。中野区の夜空も天の川は見えない。
「確か容疑者は7人で、全員女性だったんですよね?」
「そうです」
小川が肯定の返事をしたので、美智子は喜んで一瞬だけ笑顔になる。
「中国にも七夕伝説があって、中国の織姫は7人もいるんです。一番年下の織姫が彦星と一緒になって、男女の子供を産むんです。関係が無いかもしれないけど、同じ7人だから、真鍋ちゃんが愛した女性は、中国の織姫のように、一番年下の人のような気がして」
箕浦は嫌味交じりで言う。
「小説家さんらしい発想だな」