第22話☆犯人3
房江が急に振り返ったため、房江の腕を引っ張っていた美智子は、勢いが後ろへつき過ぎて、バランスを崩してほぼ真後ろに倒れ込んだ。反射的に上体を捻り地面に手をついて、倒れた衝撃を軽減したものの、この時の美智子には、覆いかぶさるようにして向って来た房江のナイフを防ぐ術はもう残っていなかった。
殺される! 美智子がそう思った時、箕浦が現れて護身術を使い房江の体を弾いた。
体を弾かれた房江はバランスを崩して果物ナイフを持ったままよろめく。
その房江の横に小川が現れて、護身術でナイフがある房江の右手の動きを封じて、足をかけて房江の体を倒して地面に押さえつけた。
箕浦が駆け寄り、ナイフを取り上げてから房江の両腕に手錠をかける。それから五分とたたない内に市民から通報を受けた警官が駆けつけて、房江は立たされて連行されて行った。
美智子は地面に尻をつけて、呆然とした表情で房江が取り押さえられて連行される様を見ていた。
小川は流れた汗を拭いながら、まだ地面に座っている美智子に歩み寄る。
「沼川先生、大丈夫ですか? お怪我は?」
「お怪我?」
美智子はハッとした表情をして、四つん這いになって地面を移動して、ショルダーバッグの中を覗く。衝撃吸収ケースに包まれたノートパソコンを取り出して、スイッチを入れて起動したノートパソコンの無事な状態を見てから、美智子はやっと口を開いた。
「大丈夫みたいです」
「いや。そうじゃなくて」
小川は、緊張がほぐれた事もあり静かに笑ってからもう一度言い直した。
「あなた自身は大丈夫ですか?」
「私自身……」
美智子はやっと物事が収まったと実感して目に涙を浮かべる。
「私も大丈夫だと思います」
そして美智子はノートパソコンを抱えながら泣き出した。
「怖かったぁー。死ぬかと思ったぁー。もうあんな事しない」
箕浦が四谷署との連絡を終えて美智子の所へ来た時、美智子は子供のように泣いていて、一緒にしゃがんでいる小川に宥められていた。
「刺されたように見えたが、大丈夫そうだな」
「ええ。身辺警護の者を待たず、沼川先生を追いかけて正解でしたね」
振り返った小川は、美智子の頭を撫でながら箕浦に返事をした。