第15話☆容疑者:藤枝典子35歳
藤枝典子は35歳。新宿駅に隣接している某デパートで働く一児の母である。
典子もほかの容疑者と似た顔の作りで、大きな瞳に、緩めのウェーブがある髪を肩まで伸ばしている。デパートで働くだけあって薄化粧でも充分美人でスマートな体型をしていた。
典子も夫に内緒で真鍋幸彦と浮気をしていたのだが、7人の容疑者の中では一番真面目なタイプかもしれない。
「○○デパートでパートをしていまして9時から2時まで働いています。昨日も2時まで働いていました」
「それでは、藤枝さんの2時からの行動内容をできるだけ正確に教えて下さい」
箕浦の質問に、典子は昨日の事を思い出そうと真剣な表情になる。
「仕事が終わってすぐ同じデパートの地下にある食品売り場に行きました。入ってすぐの所にある店の漬物を試食して、その隣の店で肉を買って」
典子は真面目に話すが、内容が事件と関係がなかったので、箕浦は典子の話の途中で次の質問をする事にした。
「食品売り場でずっと買い物をしていたという事ですか?」
「ええ、そうです」
「それでは、真鍋幸彦氏について伺いたいのですが、真鍋氏に最後にあったのはいつですか?」
「おとついの午後です。真鍋さんから別れようってメールが入っていて、ビックリして喫茶店で直接話を聞いたんです。真鍋さんは、自分はもう35歳だから真面目に暮らしていく決心をした、と言っていました」
箕浦は、典子のあまりにも真面目過ぎる態度に疑問を持った。普通なら取調室に入った時点でなんらかの動揺があるはずなのだが、典子はとても落ち着いていて質問に対しても真面目に答え過ぎるのだ。
小川は箕浦の様子が変わった事に気付いて、箕浦の視線の先にいる典子に注目した。
箕浦は典子の心理状態が知りたくて、典子に込み入った質問をしてみた。
「藤枝さんは浮気をするタイプには見えないのですが、本当に真鍋幸彦氏と浮気をしていたのですか?」
「はい。主人に内緒で浮気をしていました」
デパートで働いているだけあって応対に慣れているのか、箕浦の質問に典子はさらりと答える。
「なぜ真鍋氏と浮気をしたのですか?」
「それは……」
典子はこの質問で初めて様子を変え表情を曇らせながら話し始めた。
「主人が浮気をしたんです。主人はまだバレてないと思っていて、今も関係が続いています。私、最初はただの女遊びだと思って我慢していました。でも、出張だと嘘をついて浮気を続ける主人に我慢ができなくなって、主人が出張した日の夜に、私も出掛けて居酒屋で独りでお酒を飲むようになりました。その居酒屋で出会ったのが真鍋さんでした。私の辛い思いをとても理解してくれて、それで主人が出張する日に会うようになったのです」
話が終わる頃、典子の瞳には涙が込み上げていた。
箕浦は「そうでしたか」と静かに言い、夫の浮気によって狂ってしまった典子の夫婦生活を気の毒に思った。
その後、典子は両方の大きな瞳から涙を流し思いっきり泣いてから、小川が差し出したDNA採取キッドを受け取ったのである。