第14話☆容疑者:瀬田香織17歳
瀬田香織は、新宿駅近くの東京都立新宿高等学校に通う17歳である。
箕浦と小川は、幸彦の携帯電話にあった電話番号で瀬田香織に連絡をとり、新宿高等学校の門で待ち合わせる事にした。
今は期末テストの期間中のため高校は昼で終わる。
約束どおり門の前に現れた香織は、校則どおりのきちんとした身なりをしている。香織もほかの容疑者と同じ特徴を持っていて、髪型は肩下5センチくらいの長さで軽いウェーブがかかっている。
箕浦と小川は電話で話をしただけでまだ香織を見た事がない。なぜ門の前に来た女子高生が香織だと思ったのか。それは箕浦の長年の捜査経験からくる勘だった。
「瀬田香織さんですね」
「はい。そうです」
箕浦の言葉に香織は返事をする。
香織は丸顔で目がパッチリと開き、色白の肌にピンクの薄めの唇をしたあどけなさが残る女性だった。
美人というよりキュートでかわいいといったほうがいいのかもしれない。
香織は長い睫毛でパチリパチリとゆっくりめの瞬きをしながら箕浦と小川を交互に見た。
小川はスーツの内ポケットから手帳を出して香織に見せる。
「四谷署の刑事一課の小川です」
「私は箕浦です。テスト期間中というお忙しい中、お呼びして申し訳ありません」
箕浦は手帳を見せずに話を進める。
「電話で話したとおりなんですが、真鍋幸彦の携帯電話にあった通信記録者のDNAを集めております。あなたのDNAを採取させて頂きたいのですが、ご協力頂けますか?」
「DNA?」
香織は高校3年生。既に授業で習っているのでDNAがなんなのか知っているのだが、それでも訳が分からないといった表情をして、どういう事なのか聞き返してしまうようだ。
小川が紙袋からDNA採取用のキッドを取り出す。
「この綿棒で口内粘膜を提供して頂きたいのです。頬の内側を軽く擦って頂くだけでいいのですが」
「分かりました」
香織は小川に言われたとおりに綿棒を受け取り頬の内側を擦ると綿棒を小川に返した。
「ご協力感謝します」
小川はすぐに綿棒を専用のケースに入れる。
香織は小川が持っている綿棒をじっと見ていた。
箕浦は取り出したメモを読みながら言う。
「昨日の午後2時から3時にかけて新宿駅内でウインドウショッピングをしていたというのは間違いありませんか?」
「はい」
瀬田香織は箕浦の質問に素直に答えていく。
一通りの質問の答えをメモした箕浦は香織に頭を下げた。
「テスト期間中なのに、大切なお時間を取らせてしまってすいませんでしたね」
「いえ、別に」
「今後も真鍋幸彦について分からない事があった時は、お尋ねすると思いますので、宜しくお願いします」
話が終わりに近づき、瀬田香織は初めて笑顔を見せる。カバンの中から携帯電話を取り出した。
「分からない事はメールで聞いてくれればいいですよ。メルアド交換します?」
「はい?」
箕浦は驚いた表情をする。
小川は慣れた様子で箕浦の代わりに返事をした。
「お気持ちはありがたいのですが、捜査は守秘義務が生じますので、今後の話は署の中で伺うことになります。メルアドの交換ができなくてすいません」
「いえ」
香織もメールアドレスの交換を求めた相手が警察の人間だったと改めて思い、軽率な発言を静かに笑って誤魔化した。
箕浦と小川は瀬田香織と別れてから車に乗り込む。
助手席に座った箕浦は座席シートにどっぷりと深く座り腰を落ち着けた。
「最近の若いもんは、しかも嫁入り前の娘が、俺のようなオヤジとも平気でメールアドレスを交換するのか。信じられん時代になったもんだ」
小川は運転席に座りながら言う。
「僕たちが警察の人間だったから、安心したんじゃないですか?」
「それならそれでいいが……」
何か言いたそうな箕浦を乗せて、小川が運転する白いセダンは走り出した。