第13話☆容疑者:野口里子26歳
午前の昼近くに四谷署の取調室を訪れた野口里子は苛立った表情をしていた。
その後の取調べで、里子は26歳の新妻だと答えている。やはり里子も、瞳が大きく、長さが肩まである緩いウェーブがかかった髪形をしている。
この頃の箕浦は、既に殺害された真鍋が付き合っていた女性の共通点に気付いていた。
「昨日の2時半ごろ、どこで何をしていましたか?」
「新宿駅の高島屋で買い物をしていました。それだけです。真鍋さんを殺してはいません」
里子は、箕浦の質問に答えるが、落ち着きが無く、右手の人差し指がかなりの速さで動き、しかし音を立てないようにしながら机を叩いている。
箕浦は里子が動かしている右手の指を見てから次の質問をした。
「昨日の午前、真鍋幸彦氏の携帯電話に野口さんとの通話記録が残っているのですが、何を話したのですか?」
「別れ話ですよ」
里子はムッとした表情を横に向けて話し始めた。
「今の主人と結婚をするずっと前から、真鍋さんとは付き合っていました。体の相性がよかったんです。でも年収は主人のほうがあったので。昨日、真鍋さんから別れるって言われた時は悲しかったけど、結婚はよく考えてから主人を選んだので、未練はありませんし、殺す理由もありません。あの、もう帰っていいですか?」
箕浦は無言で首を縦に振った。その後すぐに小川に目配りをする。
小川は、里子にDNA採取キッドを手渡した。
「これで野口さんのDNAを採取しますので、終わったら帰って頂いていいですよ」
里子はDNA採取キッドを小川に返すと「何もしていないのに、なんで浮気の話をしないといけないのよ。不愉快だわ」と言い捨てて取調室を出て行った。
小川は里子を見送ってから箕浦に言う。
「箕浦さん、殆どしゃべらなかったですね。野口里子は苦手なタイプですか?」
「いや。害者と付き合っていた女性というだけあって、容疑者の特徴が似通っているから、難しい捜査になるなと思っているだけだ。DNA鑑定が捜査の決め手になってくれるのを祈るばかりだな」
既に昼食時間。箕浦は疲れた表情を見せて、目頭を押さえて疲れた目をマッサージした。