第3話:身勝手な私
私が人を食べ始めたのはごく最近の事。食べたのはまだ二人だけ。食べるのは痴漢だけだった。痴漢からなんて逃げることも出来たけど、でも食べたくて仕方なかったし、痴漢なら食べても心は痛まないと思った。私の心は完全に麻痺していた。
いつからだろう。人を食べたいと思うようになったのは。
私の初恋の人は、実は新くんだった。それまで告白されることは何度もあったけど、誰一人として好意を寄せることは無かった。そんな中で、人生で初めて“食べたい”と思った人。それが新くん。最初は“優しい人”としか認識していなかったけど、いつしか“肉”と認識するようになっていた。
でも、食べることは出来なかった。“肉”であると同時に“愛しい人”でもあったから。
「好きな人っていうのは希さんのことだよ。」
そんな新くんに、私は告白された。死性愛であると。私のことが好きだと。
私が新くんを食べようとしているにも関わらずに。
とても嬉しかった。だってこんなにも汚れた私に“好き”だと言ってくれたのだから。
気がつくと、ナイフを置いて私は涙を流していた。
彼は不思議そうな顔をしていたが、そんなことには気が向かなかった。
ただ“彼なら自分を救ってくれるかもしれない”。そんな気がしたのだ。
いつのまにか“彼に対する食欲”も無くなり、私の中にあるのは“愛しい”という感情だけになっていた。
人を殺めて食べていた自分が彼と釣り合うとは思わない。けれども、彼と共に幸せになれたら、と思う自分もいた。
私は本当に身勝手な人間だ。自分の食欲の為に他人を食べていたくせに、愛しい人と幸せになりたいと願っている。本当に身勝手。でも願うだけなら自由だから。
「私は……新くんが好きだよ……」
身勝手な私は、身勝手な返事を彼に返した。
彼を不幸にするだけかも知れないのに。
私は本当に身勝手。