第2話:異常な告白
振り向いた女性と目が合った瞬間、僕の背中は凍りついたようにゾッとした。口元を血に染めたその顔に、僕は見覚えがあったからだ。
人を食べていた女性は、同級生の希さん。僕が片想いしている相手だった。
目が合った時は驚いた顔をしていたが、彼女はすぐに笑顔を作って話し掛けて来た。
「新くん。どうしてこんな所にいるの?」
血に染まった彼女の笑顔は、妖しい美しさを纏っていた。そして美しい笑顔のまま、彼女は言った。
「見られたんだし、やっぱり食べなきゃね」
彼女は僕も喰おうとしている。でも僕はその場から動きはしなかった。僕は彼女に見とれていたのだ。
彼女は僕に飛び掛かってきて、僕は押し倒された。
___僕が希さんに想いを寄せるようになったのは、去年。つまり高校1年生の時だ。確か一目惚れだったと思う。いつのまにか好きになっていた。彼女とは席も近く、よく話していたためだろう。彼女の優しさに惹かれた___
そんな彼女に、僕は食べられそうになっていた。彼女はナイフを持っており、それで刺し殺してから食べる気なのだろう。このままでは僕が殺されることは確定事項だった。
「……新くん。何で怯えてないの?」
不思議そうな顔をして彼女はそう聞いた。怯えていない。確かにその通りだ。
問いに対して、この日、僕は初めて口を開いた。
「…希さんはさ、【食人性愛】っていう性嗜好異常を患っているんでしょ?」
“カニバリズム”と言うのは“人を食べたいと思ってしまう”パラフィリア(初めにも言ったが“性に関する精神疾患”)である。中には歯止めが効かなくなり、実践してしなう人もいるらしい。彼女はそれだ。
「だからさ、人を食べちゃうのも仕方ないんだと思うんだ。だって……」
僕はさらに続けて言った。
「カニバリズムじゃないけど、僕も性嗜好異常を持ってるから。」
パラフィリアというものは、普通の人からすると“理解出来ない性的嗜好”である。僕にも、そんな性嗜好異常がある。その嗜好のお陰で、今僕は怯えてすらいない。
彼女は明らかに困惑していた。なのでもう答えを明かそう。
「僕の性嗜好異常は【死性愛】なんだ。」
タナトフィリアとは、“自分を死に追い込みたくなる”パラフィリアである。要は、自分の死に憧れてしまうのだ。
「僕は今、好きな人に食べられそうになっている。タナトフィリアを患う僕からすれば、それはとても幸せなことなんだよ。その人の一部になれる訳だしね。」
この日僕は、
「もちろん、好きな人っていうのは希さんのことだよ。」
僕を食べようとしている女性に愛の告白をした。




