日々の中で
夜中の勢い第二弾。誰だってたまには考えることを題材にしました。まとまりがないのは夜中の勢いのせいってことで、ご了承下さいませ。
時々、不意にさ、俺は思うんだよね。……これで良いのかな、って。
【日々の中で】
今日は良くも悪くもない曇り空。不機嫌な空は地上への太陽の光を遮るけど、雨を降らせるつもりはないみたい。
人間で言えば、ちょっと拗ねてる、みたいな。そんな風に喫茶店の窓から空を見て思ってる俺だけど、実はいうと俺もそんな感じで。
ただ俺の場合、ある意味どうしようもないことに拗ねてるんだよね。だから本当にどうしようもなくて。出されてから少し冷えたコーヒーに口をつけるんだけど、やっぱりなんか納得いかずにまた空を眺めた。
「なにむすっとしてるの?」
「……あ、来たんだ」
喫茶店で会おうと約束してた親友が優しく、けど可笑しそうに微笑みながら俺の前に座った。
むすっとしてたかな、俺。気づかなかった。
でも、むすっとしててもおかしくはないかもしんない。……だってさ、なんか納得いかないんだよ。
――今の自分、ってやつが。
「なーに悩んでるの?」
「……悩んでるわけじゃないよ。納得いかないだけで」
「納得がいかない? 何に?」
目の前で不機嫌そうにしてるやつがいるってのに、それを楽しそう笑うこいつがちょっと気にくわない。でも男の中でもいい顔立ちをしてるこいつが笑うから、それに見惚れて逆に怒ることもできなくて。
結局何をどうすることもできないから、その質問に答えずに俺は再度冷え切ったコーヒーに口をつけた。
「教えてくれないんだね」
「……教えたって、お前は分からなさそうだから」
「そんなことないと思うけどなぁ」
「分からないって。自分の意志を貫いてまっすぐ自分の道を歩いてる人には」
「俺? あぁ、俺が医者を目指したことかな」
「自分で決めて、自分で貫いてるじゃん。そんな人にはわかんないよ」
そうだ、俺の気持ちなんてわかりっこないよ。
だってお前は今の自分に納得してるじゃん。親の反対おしきって医者になって自分が決めたことを貫いてる。でも俺はいつの間にか大学卒業して就職してひたすら言われた仕事をこなすだけ。
これも確かに俺が決めた道に間違いはないけど、仕方ないって思う反面、これで良かったのかって思って、納得しきれなくて。……あー、もうよくわかんなくなってきた。
行き場がなくなった俺の言葉は最終結論すら紡ぎ出せなくて、仕方なく口を閉ざす。
その時、少し小さな声ではあったけど、はっきりと、さっきとは違って真剣な顔をした親友の言葉が俺の中に入ってきた。
「……確かにさ、俺は自分で決めたよ。医者になることを決めた時、なんだって頑張ろうって思った」
「うん」
「でも今でも俺は迷うし、探してるよ。だから納得してる、とは、言えない。……たださ」
「ただ……?」
「不満があるわけでもないんだ。納得してないところもあるけど、これで良かったと思う部分もあるっていうか」
えーと、だから、その。
そう次の言葉をうまく見つけ出せなかった親友は、少し困った苦笑いの表情を俺に向けた。
「……お前も、そうなんじゃないかなって」
「俺、も?」
「納得いかないっていうけど、満足してないわけでもないでしょ」
相変わらず微笑んで俺を見てくる親友の言葉で気付いた。
……そうかもしれない。
ふらふらしていつのまにか辿り着いてた『今』ではあるけど、あの時他に何か選択肢があったんじゃないかって思って納得できないのに、『今』が嫌なわけでもない。
それはやっぱり、『今』に辿り着くまでに色々頑張ってきたこともあったからで。
毎日毎日繰り返される事が嫌になったりもするけど、それすら楽しんでる自分がいるのも確かなんだ。
「全てに満足してる人なんてそうそういないよ。やっぱり捉え方次第なんじゃないかな」
欲しい言葉をくれる親友をこんなに凄いと思ったのは初めてかもしんない。
何を考えたって過去を変えられるわけじゃないし、今が何か変わるわけでもないけれど、だからこそ『今』を精一杯見て、感じて。自分の中でいつか納得いくようにしたい。
こんな毎日もいいかもしれない、そう思った。
さっきまで胸の奥にあった蟠りがすっと消えていく。俺が拗ねてたのは結局のところどうしようもない『今』に対してだったくせに、その『今』が良いと思わされちゃったんだから、当たり前だよね。
「お前って凄いや」
「なにが?」
わけわかんない、と微笑みを崩して笑い出すこいつ。
自分が凄いこと言ってるのにも気づかないんだから、そういうところは腹立つけど今日は気にしないことにした。
俺はまた窓から空を眺める。
この先、嫌なことも色々あるかもしれない。きっとまた『今』に納得いかなくなって、でもどうしようもないことに拗ねるかもしれない。
けどその時もまたこんな風に言ってくれるこいつがいたなら、『今の自分』も『今』も悪くないかなって思えると思うから。
楽しもう、これからも『今』を。
ちょっと前まで不機嫌に太陽を隠して拗ねてた空は、地上に一筋の光を浴びせていた。
多分、ですが、親友くんは気づいてました。主人公のそれに気づいてるからこそピンポイントでその話をしたんです。恐らく怒らせたら一番怖いタイプの人ですね。
前の短編もそうでしたけど、気づいてる話が多い。確信犯大好き。