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 発電少女発電所はまだまだ夏です。ここのところ晴れ続きのため、発電少女たちも数多くの個体がグラウンドで朝から身体を動かしています。しかしそうでない個体もそれなりにはいて、例えば部屋の中で将棋をしたり、本を読んだりしている発電少女がそうなのですが、実はついこの間に完成した体育館で汗を流す個体も徐々に増えてきています。今は……どうやら体育館の本館の他に、武道場(注:体育館本館に隣接した建物。柔道、剣道など文字どおり武道の他に卓球やダンスをするスペースが存在します)の中にも居るようですね。卓球、でしょうか。スポーツウェアで卓球をしている個体が二人ほどいます。


「絶対負けないからね!」

「ふっ。良いのかしら。わたくしはこれでも皆さんの中で一番早くラケットをさわった発電少女ですのよ?」

「一番早いっていっても卓球ができるようになったのはついこの間だし!私とそんなに差は無いはずなんだよ!おっきいからって調子に乗らないでよねっ!」

 見たところ、そうですねぇ……人の子で言えば小学五年生と、高校生でしょうか?体格差はかなりのものです。幼い個体に比べて、確かに、大きな個体はおっきいですね。何がおっきいか。無粋ですし、あえてここでの詳細な言及は避けることにしましょう。

「ふっ、考えが甘いですわね。これだからお子様は」

「なにをっ!?」

「わたくし、テニスもバドミントンもできますのよ?」

「……どうカンケーあるのよ」

「ふっ」

 大きな個体が片方の腕を組み、もう片方の手で髪をふぁさっとかきあげました。おおっ、おっきいですね。それでいて美しい。これはもう宇宙ですよ、っといけませんね。我らは些細な異変も逃さぬように交代で観ているのですから、集中しなくては。

「まだ分からないんですの?どちらもラケットを握って球を打つスポーツですの。すなわち、あなたよりもわたくしの方がよっぽどラケットの扱いに長けているということですのよ。お分かりかしら?」

「な、なるほど……」

【カメラシステムに異常を検知。不正なアクセスを遮断しました】

 げっ!こんなこともあろうかとせっかく仕込んでいた高解像度ズーム機能がブロックされている!?いったい誰がこんな酷いことを……

 はっ、そうでしたね。しっかりと観察しなくては。

「で、でもやらなきゃわかんないじゃん!」

「ふっ。勢いやよし、ですわ。そこまで言うなら相手して差し上げましょう。ですけど、このまま戦えばわたくしが圧勝することは確実。それではつまらないですわよね?どうしましょう。あらかじめアドバンテージを貰うのと、わたくしがハンディを背負うのとどちらが好みですの?」

 おっきい個体は何だか絵に書いたような高飛車振る舞いですが、これはいったい何に影響を受けた結果なのでしょうか。人の子で言えば周囲に馴染めずに集団の中で自己の立ち位置を模索し続けた結果、何かをこじらせてしまったような雰囲気を醸し出しています。

 ……ん?この個体はもしや、以前に他地区から移送されてきた発電少女ではないでしょうか。え~と、個体はどうやって識別するんでしたっけね……

 まあいいです。後で確認するとして、観察を続行しましょう。

「ばかにしてくれるじゃない!要らないわ、あどばんていじなんて。このままで十分よ」

 この個体、アドバンテージの意味を分かってないのに断りましたね。

「あら、そうですの。分かりましたわ。ならばわたくしがハンディを背負いましょう。十点くらいは必要かしら?」

 にこり、と嘲笑的に微笑むおっきい発電少女。

 ふむ。珍しいですね。こんな表情をするような発電少女は今までに見たことがありません。むろん記録にはあるのですが、この発電所に来て以来初めてリアルタイムで見ました。

「もうっ!ハンディも必要ないって……」

「ちょっと待った!」

 うわっ、びっくりした。私は二人だと思っていたのですが、どうやら三人目の発電少女が居たようですね。ちょうどカメラの影になっていたようです。えっと、こっちに切り替えて……よし。ああ、居ますね。カメラがついている柱のちょうど真下に一人、ボーイッシュな風体の発電少女が立っています。

「ハンディについてボクから一つ提案があるんだけど、いいかな」

「あら?なにかしら」

「ちょっと!ハンディは要らないって言ってるじゃない!」

「ああ、ごめんね。少し言い方を変えるよ。ボクが提案するのはハンディじゃなくて、別のものにしようってことさ」

「別の……」

「もの、ですの?」

「そうさ。ハンディは確かにバランスをとるために必要かもしれないけれど、少し戦いが味気なくなってしまう可能性があるからね」

 柱に寄りかかって腕を組み、ボーイッシュな発電少女はニヤリ、とした笑顔を浮かべました。明らかに何かを企んでいます。

「ボクが提案するのはペナルティ!すなわち、罰ゲームのことさぁ」

「なん、ですって?」

「ばつゲーム?」

 無邪気な悪意が絡み付きねっとりとした声色で、ボーイッシュな発電少女がそう宣言しました。その雰囲気におっきい発電少女がたじろぎます。一方幼い発電少女には特にそういうこともないようです。

 しかし、罰ゲームですか。どんなものなんでしょうね。一時間の間犬の真似をするとか、壁際に立たせてピンポン球をビシバシぶつけたりする感じでしょうか。……確かに面白くはなりそうですけど、何か物足りないですね。せめて筆と墨汁があれば期待できるのですが。

「そこのおっきいアナタ。アナタは今下着を着けているね?上も、下も」

「な、なんですの?そりゃ着けてますわよ。あなた方お子さまと違って、わたくしはもうオトナですのよ?ふっ。当たり前のたしなみですわ」

「下は私もつけてるよ!」

「一ゲームとられるごとに、アナタには下着を一つ取ってもらうよ」

「そんなっ!?」

【録画システムに異常を検知。不正なアクセスを遮断しました】

 くそっくそっくそっ!!なぜ録画データを迂回させて個人ストレージに保存するための回路まで妨害を受けているというのだ!いったい誰の仕業だ!?こんなことをしても誰も幸せにはならんぞ!

 ……どうやら面白くなりそうですね、この試合。しっかりと観察しなくては。

「アナタは卓球の腕前にそうとう自信があるようだからね。これくらいならやって当然さ。そうは思わないかい?それとも怖くてできない?」

「あからさまに挑発してきますわね……いいでしょう、その条件呑んで差し上げますわ。でもペナルティゲームとしては、あちら様にも何か条件をつけないといけないのではなくって?」

「もちろん」

 壁にもたれる発電少女は幼い発電少女の方を向き直ります。いまだに笑っていますが、その表情にはなにやら特別なものを感じます。

「キミが負けたときにはこの首輪と水着をつけてもらうよ」

「なにそれ……って!?いやいやいや!!ムリだよそんなの!」

 ボーイッシュな発電少女が得意気に手に下げているのは黒いチョーカーと、うわお。これは凄い。誰でしょうねこんな水着に物品搬入の許可を出した責任者は。後でその方にお会いしてお酒でもおごらせていただくことにしましょう。ナイスな判断です。

「それは……本当に水着、ですの?」

 おっきい発電少女がドン引きしています。いい反応です。

「もちろんアナタも負けたらこれをつけてもらうよ」

「なぜですのっ!?」

 っしゃあ!

「実力差は十分と判断したまでさ。そんなに不安なら、アナタが勝ったときボクらの秘密を少しだけ教えてあげてもいいよ」

「秘密……?」

「ちょっと!それはいくらなんでも……」

「ボクだって嫌だよ。だからこそ、キミには絶対に負けてほしくないということさ」

 ボーイッシュな発電少女は柱から離れ、幼い発電少女のあごをくいっと掴みました。ボーイッシュな発電少女の方が背が低いので、幼い発電少女が見下ろす形になります。しばし見つめあった後に、ボーイッシュな発電少女は何かを囁いてもとの位置へと戻りました。

 頑張ってね、とか応援してる、とかでしょうか。

「そ、そんな事ここで言う必要はないでしょうに……ばか」

 幼い発電少女はなにやら赤くなっています。何か別の事を言われたようです。それにしてもさっきからこの二人は様子が少し変ですね。どうやら秘密を共有しているようですが、そもそも発電少女同士で特殊な関係が構築されることは極めて希です。私自身は初めて見ました。幼い固体はただ翻弄されているだけにも見えますし、このボクっ子発電少女は要注意個体に登録するべきでしょう。

  「じゃあ試合を始めるよ。二ゲーム先取の三ゲームマッチだ」

「なぜあなたが仕切っているのかは分かりませんが……ふっ。いいですわよ、サービスかレシーブか、選ぶ権利はそちらに差し上げましょう」

「いいえ、いらないわ。その代わり、私にコートを選ばせてちょうだい」

「構いませんわよ。なら私はサービス権を頂きますわ」

「ありがとう」

「では、いきますわよ!」

 卓球。シンプルなように見えて実は複雑なスポーツです。まあこれはどのスポーツでもほぼ同様の事が言えますね。ともかく、私実は学生の頃卓球部に所属しておりまして。発電少女たちのこともそうなのですが、私は純粋に、本当に純粋に彼女たちの卓球に興味があります。

 どれ程の腕前なのか、私がしかと見届けることにしましょう。

「ふっ」

 スナップの効いた手首からピンポン玉が真上に射出されます。なかなかうまいトスです。あとはこれをどう扱っていくのか。初心者と玄人の別れるところですが、彼女はいったいどちらなのでしょう。

「秘技『氷上之曲芸士(クラウンロンド)』!」

 ……何て言いました?

「クラッ!?」

 おっきい発電少女は突如叫びながらサービスを放ち、幼い発電少女はそれに驚いて固まってしまいました。いや、それだけではありません。サービスボールは小さく跳ねたあと、ネットを飛び越えることなくおっきい発電少女の手前に転がりました。

 とりあえず、幼い発電少女に一点入ります。

「ふっ。運が良いのね、あなた。でも偶然はそう続くものではなくってよ?」

「そ、そっちが変なことして勝手に自滅したんでしょ?急に大声を出すから驚いちゃったわよ」

「『氷上之曲芸士』はボールを着弾点から滑らせるテクニックですの。本来はテニスのテクニックですからかしら、もう少し調整が要りますわね」

「誰もそんな事聞いてないし……」

 幼い発電少女はあきれ顔ですが、おっきい発電少女は得意気です。ボーイッシュな発電少女はただそれを眺めてニマニマしています。私と同じです。

「んじゃはい。0対1、試合を続行して」

「今度こそ打ち返してやるんだから!」

「ふっ。できるかしら?私にはあと十個の秘技がありましてよ!」

 その後の経過としては。

「『沈黙之潜水士(サイレントダイブ)』!」

「『流星之消滅地(メテオドロップ)』!」

「『蛇腹之轢殺(スネークランズ)』!」

「『白兎之享楽(ラビットバウンド)』!」

「『宙空之英雄(スペースイカロス)』!」

 以下省略。

 おっきい発電少女はともかく秘技を打ちまくり、結果として幼い発電少女は一球すら打ち返すことができませんでした。

 すなわち。

「なぜですのーっ!?」

「全部サービスミスするなんて、むしろこっちが聞きたいわよ……」

「というわけで、今ので0対11。ボクらが一ゲーム取った訳だから……」

「そうよ!ぱんつを脱ぎなさいよぱんつを!」

「いやいや、どちらを脱ぐかは決めさせてあげるのがルールだよ。さ、早く早く。どっちか脱いで」

 早く早く。早く早く!

「わ、分かってますわよ!脱げばいいのでしょう脱げば。ふっ、ふふふっ。よよ、余裕ですわよ。むしろそのくらいが良いハンディになりますわ」

 おおっ。おおおっ!!とうとうおっきい個体が、手を、下の方に!なるほど、確かにそっちからなら外部からその影響は分かるまい。だが、しかし!そちらの下着を脱ぐということはつまり!一瞬だがその上に着用しているスポーツウェアまでも脱がなくてはならないということ、すなわち下半身が全裸になることを意味する!録画機能などなくとも目に焼き付ければいいだけのことさ!

 ……ん?本部から連絡ですね。まったく、せっかく良いところなのに!しかし私はあくまで雇われている側、無視することはできません。

 はい、こちらモニター室。はい、はい。うん?どの機械のことです?スクリーンの、後ろのケーブル……あ、ああ。これなら、ええ、見たところ大丈夫そうですよ。不正アクセスの警告ランプ?赤い光が点滅……いっ、いえ。していません。はい。はい、了解しました。

「なんだか気持ちが悪いですわ……」

「ボクから見たらむしろ涼しくて気持ち良さそうだけどね」

「す、凄いぱんつ」

「キミはいつまで驚いているつもりだい?ささ、早く二セット目を始めるよ」

 ファァァァァァァァァァァ○ク!ファッ○フ○ックファッ○!見逃しちまったよ!なぜよりにもよってあのタイミングで本部から連絡なんか入るんだ!?さっきからことごとく妨害してくれやがって、これは俺を陥れるための陰謀か?ナントカ機関の意志ってやつか!?

 ……幼い発電少女がボールを投げ上げてサービスを打とうとしています。位置的に少しルール違反にも見えますが本人たちは気にしていないようですね。

 その後の経過としては。

「えいっ」

「ふっ。甘い甘い、甘っちょろいですわ!」

「ああっ!?」

 幼い発電少女は結構頑張ったのですが力が入りすぎていたのか、はたまた脱いだことでおっきい発電少女が気合いを入れたのか。終始おっきい発電少女優勢でゲームが進行し、そのまま二ゲーム目を取ったのはおっきい個体となりました。

「ううっ。あなたさっきのへっぽこが信じられないくらい上手じゃない……」

「ふっ。少し本気を出せばこんなものですわ。でも手加減した方ですのよ?今のゲーム、秘技を一度も使っていませんし」

「秘技なんて封印していた方が強いんじゃないの」

「そんな事ありませんわよ!」

「はいはい。とりあえず、キミにはまず約束の首輪をつけてもらおう」

「苦しそうなんだけどそれ……」

「大丈夫。ボクがちゃんと調節するからさ。少しあごを上げて……できたよ」

「本当だ、苦しくないよ。ありがとう!」

「ボクに礼を言うより先に、次のゲームのことを考えなよ。とりあえず今はね。でないともし負けたら大変なことになっちゃうよ」

「そうね!よっし、こい!最終ゲームを始めよう!」

 意気込む幼い発電少女の隣でボーイッシュな発電少女が何か呟きました。うむむ、こちらからでは確認できませんね。私事を抜きにしても、やはり高感度マイクやカメラは必要なのではないでしょうか。さっきの様子だと私が申請を出しても通りそうにありませんし、他の真面目そうな方にお願いしておくとしましょうか。

 さて、無事に首輪(チョーカー)を着けた幼い発電少女ですが、ここで今度はおっきい発電少女が訝しげな顔をしています。

「あの、もし?あなたが今着けたそのアクセサリー、札のようなものが付いてますけれど、そこには何と書いてあるのかしら。ここからではよく見えなくって、ぜひとも読んでいただきたいのですが」

「ん?何か書いてあるの?」

 首をぐりぐり回してどうにか自分の首を見ようとする幼い発電少女に、ボーイッシュな発電少女がそっと耳打ちします。

「ちょ、ちょっと!本当に?」

「だから言ったじゃないか。ボクは君に勝って欲しいんだ」

 二人が小声でこそこそ言い合っていますが聞こえません。首輪には何と書いてあるのでしょうね。ここからだと……んー。たかだか二、三文字程度の何かが書いてあることは分かるのですが。現在都合の良い位置には有りませんが、折を見て至近距離のカメラに切り換えてみましょう。

「では最終ゲームだよ。今回はファイナルゲームとしての特別な処置は行わず、通常と同じルールで進行するからね。おっきいのからサービス、開始!」

「ふっ、せえいっ!」

「それっ!」

 今回は普通に打ちました。キレのある鋭いサービスが飛びます。それに対して幼い発電少女もうまく合わせます。ファイナルゲームになって、ふざけてもいられなくなったということでしょうか。

 カコンカコンカコン。ボールが跳ねる音と、マイクが僅かに拾った両者の息づかいがここ、モニター室に響きます。真剣な表情で、ただ黙々とピンポン玉が飛び交い、ミスをしても試合が止まることはありません。すぐに再開し、再び激しく打ち合います。

 激しいといえば、おっきい発電少女は確かに大きなハンディを負っているようですね。薄々分かっていたことではあるのですが、やはりスポーツをするのにあの大きさは向いていません。それでも持ち前の手の長さ、テクニックで幼い発電少女を翻弄します。

 対する幼い発電少女も、あたふたしていたさっきまでのゲームとはうって変わって上手になったように見えます。元々相手に比べて小柄ですから、どんな球にも食らいついていきます。熱心なその様子にはきっと、柱に寄りかかってそんな二人を眺めているボーイッシュな発電少女が囁いた何かが関係しているのでしょう。

「9対10。マッチポイント!」

 そして気がつけばおっきい発電少女不利の状態でマッチポイントです。お互いに息を切らしたままにらみ合います。毎回見てて思うのですが、やはりこの打つまえの屈んだ姿勢は最高ですね。

「ふっ」

 おっきい発電少女がピンポン玉を投げ上げました。最後のサービスです。

「究極秘技……」

 まだあったんですかそれ。

「『孤高之戦乙女(スティールヴァルキリー)』!!」

 ゴッ、とピンポン玉とは思えないような音と共に強烈なサービスが放たれます。おっきい発電少女側のコートに着弾した後、Sの字カーブを描いて幼い発電少女側のコートに着弾、その場で激しく回転したあとネット側に跳ね、急カーブして台の角へと向かった滅茶苦茶なサービス球を打つのは不可能に思われました。

「ここだっ!」

 !?

「ふっ!?」

 しかし幼い発電少女は、そのどうやって打ったかも分からないようなピンポン玉をしっかりと捉え、打ち返しました。咄嗟のことに反応が遅れるおっきい発電少女は手を伸ばしますが、間に合いません。

 ブツッという奇妙な音をマイクが拾うと同時、打ち返された玉は台の縁に着弾、あらぬ方向へと跳ねて床に転がりました。

「はい、試合終了!勝者は、ボクたち~!」

 ボーイッシュな発電少女の宣言と共に、少女たちの熱き卓球勝負が決着しました。

「そ、そんな……どうしてですの?究極秘技が破られるだなんて」

 おっきい発電少女が露骨にがっかりしています。確かに今思い返してもある種おぞましいサービスであったように記憶しています。どうやって打ったのか、私も気になります。

「そうそう、ボクも気になるな。どうやって打ったのさ」

「声が聞こえたの」

「声?」

「声……」

 声、ですか。私は何も放送などしていないはずですが。

 幼い発電少女はへたりこんだおっきい発電少女へと手を差しのべます。

「なんだかね、変なんだけど……あなたがボールを打ったとき周りが真っ白になって。女の人の声がしたの。目をつぶって、右側で打てって。思わずそうして、目を開けたら目の前にピンポン玉が……」

「ふっ。あなたも秘技を覚醒させてしまったのね。完敗ですわ……」

 おっきい発電少女が諦めたように首を振り、差しのべられた手を掴み、立ち上がりました。

 しかし、なんて荒唐無稽な……スポーツ選手は時おり時が止まって見えることがあるそうですが、声が聞こえるというのは果たしてあるのでしょうか。まあ彼女らは人間ではなく発電少女ですし、もしかすると我々の研究がまだ行き届いていない部分に秘密が隠されているのかもしれませんね。

 さて、少し早いですがこの辺で切り上げるとしましょうかね。残業はあまり好みません。

「さあ、おっきいの。とっとと上の下着も取っ払うのだ」

「そうだ!そうよ!約束は守りなさいよね!」

 忘れてた!それがまだ残っていたではないですか。さあさあ、早く早く!カメラも……調度良いところに至近距離カメラがありますねぇ!切り換えて、よし!さっさと脱ぐのだ発電少女よ!

「おほほ、それなのですが」

「なに?今さら恥ずかしいとかはナシだよ」

「少しばかりアクシデントがありまして……」

「ん?どうして胸を押さえているのよ」

「確かに恥ずかしいのもあるのですが、実はさっき、下着が壊れてしまいましたの……よ、よければこのまま入浴しませんこと?あそこなら替えの下着も手に入りますし、水着は浴室で着けますの。だからその破廉恥な水着を着けて外に出る事だけは許してほしいですわ……」

「そういうことなら……いい、わよね?」

「キミが構わないなら、ボクはどちらでも。それに裸になれるならそれに越したことはないさ」

「……?今、何と?」

「何でもないよ。じゃあ行こうか」

 ええ。行きましょう。私もついていきます、風呂の中まで。もちろんモニター室での職務を果たすためですよ?


 お風呂にやってきた発電少女たちは体をさっと流して湯船に浸かっています。おっきい発電少女はかの水着を着けていますね。うわお、凄い迫力です。

「うわあ、こうして近くで見ると」

「ボクらじゃ全然敵わないね」

「あ、あまりじろじろ見ないで欲しいですの……」

「さわってみてもいい?」

「少しだけなら構いませんが……」

「えいっ!」

「ひゃうんっ!?」

「……スゴい声が出るんだね、アナタ」

「こら!意地悪しちゃだめだよ!またヘンな目で見ているし!」

「おやおや嫉妬かい?かわいいんだから」

「べ、べつにそんなしっとだなんて……」

「ああ、喧嘩はお止めくださいな。別にとても嫌というわけでは無いんですのよ?ただ恥ずかしくて……」

 おや、裸の付き合いというやつでしょうか。妙なおしゃべりが始まりましたね。

 せっかく浴槽の縁に設置した至近距離カメラは何故かアクセス不能になっていたため、マイクのみ近距離のものを使ってカメラは通常通り天井からです。うむむ、浮きますねやはり。その辺は人と変わらないということは存じていますが、百聞は一見に如かずというか。感動ですねぇ。

「ボクらは結構ここに来るけど、そういえばアナタには会ったことがないね」

「そうね。あなたはいつ頃お風呂に入っているの?いつもはシャワーだけ浴びているとか?」

「実はわたくし、いつもは朝早起きして入浴していますの」

「どうして?」

「あさの方が健康に良いの?」

「いえいえ、そうではなくて……恥ずかしいのですが、お二方ならお話ししても大丈夫な気がします」

「何?」

「少しお湯に潜って私の、その、お股の方を見てほしいんですの」

「股……?」

「少しお待ちくださいな……はい。今は水着を取っていますので、見てくださいな」

 とぷん、と二人の頭が水中へと消え、数秒で戻ってきました。なるほど、私も何となく分かりましたよ。

「お分かりかしら?」

「……そういうことかい」

「あなた、全体的にオトナね」

「そうなんですの。他のみんなとは全然違っていて、少し前まではお胸もここまでではありませんでしたし、お股だって。一人だけって何か変じゃありません?わたくしこれが恥ずかしくって、中々お友達も作れませんでしたの……」

 おっきい発電少女がうつむきます。発電少女の第二次性徴は我々も現在研究中の分野ですが、この個体に関して悩みは人の子思春期とあまり変わりがないようです。ふむ、しかしそれはおかしいですね。

 発電少女は人間ではありません。多少の社会性は有しますが、性の悩みが出るほどに社会が複雑化することはあまりないはずなのです。も、もしかして私はかなり歴史的に重大な観察の記録者に現在進行形でなっているのでしょうか?

「そっかあ……なら、友情の証として、アナタにボクらの秘密を教えてあげるよ。いいよね?」

「そうね。私たちはもう友達だわ。教えてあげるだけじゃなくて、あなたも一緒のことをしましょう?」

「わっ、わたくしは試合に勝っていませんわ。い、良いんですの?秘密とか、友達とか……」

「良いんだよ。ボクたち二人が良いって言っているんだから」

 ボーイッシュな発電少女は横から覗き混むようにおっきい発電少女の顔を見たあと、その隣の幼い発電少女の顔を見やります。

「ね、ユリ」

「そうよ。だから心配しなくて良いのよ。ね、レン」

 ユリ……?

 レン……?

 まさか、まさか、まさか!?

「えっ?あなたたち。いったい何を?」

「ボクらはね。ボクらの友達の証として、お互いに名前を付けたんだ」

「ほら、私たちって名前がないでしょ?管理人さんには単に発電少女とか、ちっこいの、おっきいのっては呼ばれているけれど、それは名前じゃないでしょ。だから特別に、二人だけの名前を付けることにしたの」

「お、おどろきましたわ……そんな事、考えたこともありませんでしたもの……」

 大変だ、大変なことになった……!?

「あなたにも名前を付けてあげるわ」

「どんな名前がいいか言ってみてよ」

「よ、よろしいんですの?」

「もちろん」

「私たち友達以外には秘密だよ?」

「じゃ、じゃあ……お姫様みたいな、綺麗な名前がいいですわ」

「お姫様……」

「そうだね。それならシャーリー、とかどうだろう。ボクが読んだ本に出てきたお姫様なんだけど……」

「それなら知っていますわ!とても綺麗で、聡明な人気者のお姫様ですの!」

「そう。それにアナタと同じように悩んでいることがあったけれど、ある日出会った王子様が運命を変えてくれるのよね」

「へえ、なるほど。いいと思うわ!シャーリー、確かにきれいなひびきね」

「なら、アナタは今日からシャーリーだ。もちろん、ボクらの間でだけだよ。三人でこうして集まったときに名前を呼び合うんだ」

「分かりましたわ!ユリさん、レンさん。このシャーリーと、ずぅっと友達でいてくださいませっ……!」

「あれ?シャーリー泣いているの?」

「ごめんなさい……つい、嬉しくて……」

「喜んでくれてよかった。さ、もう上がろうか。これ以上浸かっていたらのぼせちゃうよ?」

 ……はい。はい。ええ、今回私が担当したシフトの録画データです。ええ。発電少女の間にとうとう命名をする個体が……ええ。今日の零時までには発電量との相関を出しておきます。はい。では、後ほど。

 ふう。本部も今ごろ大騒ぎになっていますかねぇ。やはりあのボーイッシュな発電少女、要注意個体で間違いありませんね。とんでもない発見の当事者になってしまったものです。

 さて、それはそうともう交代の時間を大分過ぎてしまいましたね。さっさと帰りましょう。でも今日は眠れないかもしれません。ん、何ですか?早く交代を……か、隠しカメラ?知りませんよ?それより今日は重大発見が痛いっ!?すみません!そうです設置したのは僕ですごめんなさい!……はい、では、待っています待たせていただきます……

 やはり、女性は怖いですね。


 こうして今日も、発電少女たちの何気ない生活のおかげで、地球は明るく輝いているのでした……

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