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今日も今日とて平和な発電少女発電所。発電少女たちはいつものようにのんびりしつつ、人類のために発電しています。もっとも、彼女らのなかでも自覚を持っている個体は少ないのですがね。そんな彼女らのを画面越しに、マイク越しに観ていると、外で汗をかいている発電少女はまだ戻ってきていないのにも関わらず大浴場の方に二人の発電少女が確認できますね。何をしているのでしょうか。
「いち、さん、ろく……と」
大浴場の脱衣場には体重計が設置されています。その中でもひときわ古株な体重計の身長調節ダイヤルを注意深く回す発電少女が一人。今の今まで湯槽に浸かっていた(注:発電少女発電所の大浴場は送電時に発生する熱をリサイクルし、余剰電力も少し足して二十四時間お湯が張ってあります)ようで、いっちょまえにバスタオルで前を隠してはいるものの平均(注:調査対象はここにいる彼女ら)より少し長い髪が背中にはりついており、頭から湯気が出ています。
「よし。これで……」
「なんでそっちの古い方を使うの?あっちの……ムグムグ。青い方があたらしくてすぐ計れるよ」
身長をセットし終わり、意を決したように呟く発電少女にそう声をかけるのは、同じく風呂から上がりたてでマッサージチェアに深く腰かけながらバームクーヘン(注:脱衣場にある冷蔵庫に曜日替わりで補充されるお菓子。牛乳は毎日補充されます)を頬張る発電少女です。体重計を使用中の個体とほとんど同じような背格好ですが、こちらはたいへん髪が長く、そしてすっぽんぽんです。
「新しい機械はしんようできないのよ。身長も設定できないし、すぐ計れちゃうし、適当に計っているのよきっと」
「古い方はむしろ……ムグムグ。んっ、こわれているかもだよ」
「わたしはこの体重計にぜったいのしんらいをおいているわ。ずっとわたしの体重を計ってきたベテランなんだから」
「体重計り始めたのって一週間くらいまえなんでしょ。けいけんはあまり変わらないとおもうけどな」
「ぜんぜんちがうのよそれが!ふふふ、なんとこの体重計は身長を入力したらより精確な値が計れるようになっているの」
「へえ。確かにそれは新しい方にはできないかもね……はむっ、ムグムグ。でもさ、そもそもなんで体重なんか計ってるの?あまり気にすることはないような気がするけどなぁ」
バームクーヘンを頬張りながら話していた発電少女がくんっ、と口の中のものを飲み込みました。彼女は体重の事には無関心なようです。
「それじゃダメなの。わたしたちはお菓子ばっかり食べているから油断するとすぐにふとっちゃうのよ!女の子が太ってもかわいくなんかないんだからね」
体重計のまえでふんす、と胸を張る発電少女。
分かりますねぇ、その気持ち。ちょうど彼女くらいの歳になるとわたしの周りでも似たようなことを言ってダイエットに挑戦する子がいました。今思えば微笑ましいですね。背伸びをしたい年頃、といったところでしょうか。たしか私は同じタイミングで胸が大きくなってきてしまって、自分が太ってきてしまったのかも分からず、周囲から妙な羨望とからかいと嫉妬を浴びてとてつもなく混乱していました。はぁ、ちょっと嫌なことを思い出してしまいましたね。そのような意味で言えば一番羨ましかったのは今バームクーヘンを頬張っている個体のように思い悩むことなど無い!といった感じの子でした。
「よ、よし。じゃあ計るぞ……」
「がんばれー」
とうとう体重計に乗るようですね。発電少女が使用しているのは旧式の体重計ですから結果はこちらから目視で確認しなくては。このカメラからだと細かな数値が見えませんし、ちょうど体重計の真上にカメラがあったはずなのでそちらに切り替えましょう。ほいっ、これでよし……
って!誰ですか体重計にカメラなんか仕込んだのはっ、回線切断!まったく、法律上人間ではないからといってこんなに堂々と盗撮するだなんて理解できませんね。こちらに繋がったということは私の同僚の誰かでしょう。あとで犯人探しをして、発覚し次第報告です。
「れ、れいてんななも増えてる……」
「水の重さじゃないの?」
「えっ?で、でもだって。もぉー!なんでお菓子をガマンしているのに増えるのよ!」
「だから何かの何かの間違いじゃないの?……牛乳、牛乳はどれが一番冷えているかな」
あら、計り終わったようですね。接続接続っと。ああ……かわいそうに。33.6kg、表示された体重を見てタオルで隠すことも忘れて取り乱しています。一方マッサージチェアに座っていた発電少女はのんきなものですね。バームクーヘンを食べ終わったらしく、今は冷蔵庫を開けて牛乳を物色しているようです。というか、冷蔵庫の中に補充されているバームクーヘン少し多すぎやしませんかね。ん?よく見たら冷蔵庫の前に立つ発電少女が手に何か持っていますね。何かの紙のようですけれど……ああ、冷蔵庫を閉められてしまいました。
「ほら、牛乳でも飲んで元気だしなよ。おいしいよ」
「いらないっ!飲んだらもっとふとっちゃうでしょ!」
「そうかなぁ、だいじょうぶじゃない?たぶん」
「そ、そんなユーワクには乗らないわ」
「バームクーヘンもまだいっぱいあるよ~おいしいよ~」
「アクマのささやきだわ!耳をかたむけてはいけないのよ!」
「ボクも二個めが食べたいし」
「あなたぜったい太ってるわ!ほら、計ってごらんなさいよ」
「ふふふ、いいのかい?計っても」
「ど、どういういみよ……」
二人分の牛乳瓶を片手ににやりと笑う発電少女。
「これもってて」
「う、うん。あっ!あなた身長は調整しなくてもいいの!?」
「どーせおんなじくらいでしょ?でもってぇ、ジャジャーン!」
「うそっ……」
表示された体重は32.7kg。なんとバームクーヘンを、しかもホールでまるごと食べていた発電少女の方が一キログラム近くも軽いというのです。体重計の数値を見て、先程まで取り乱していた発電少女はもはや動かなくなりました。
「どうしてか知りたい?」
「ど、どうしてなのよ……?」
「簡単だよ。ボクの方がキミよりも身長が低いってだけさ」
「そんな、でもだって二センチくらいしか差なんてないじゃないの!」
「なら、もっと詳しい違いを知りたいかい……?」
「えっ?ちょ、ちょっと?」
持たされた牛乳瓶で手が塞がっている発電少女にもう一人がさっと近づくと、その手を相手の体の隅から隅まで滑らせ始めました。まさかこの子……なるほど、最初からそれが狙いだったのですね。
「こんなところに例えばね、ボクよりおにくがついている。あとはここ、おしりもかな……」
「やっ、やめて!何よ急に、ちょっと、なんかあなたヘンじゃない?」
「何もヘンじゃないさ……ほら、背中だって、ほっぺたも、くちびるもふっくらしている」
「や、やだ。なんだか恥ずかしいよぉ……ね、やめようよ。コワイよ……」
「こわがることはないよ。力をヌいて、リラックスして」
ついに牛乳瓶を持った発電少女が押し倒されました。手から離れた瓶が転がります。
これは絵的にまずいですね。しかし、発電少女があからさまに欲情している場面なんて滅多にないので映さないわけにもいきませんし……。一般公開されるときに修正を入れてもらうことにしましょうか。
「ふふふ、キミはいやがっているみたいだけどボクはむしろこれくらいの方がイイと思うよ。ボクのもさわってみてよ。ボクにはキミのようなやわらかさはない。だからずっとまえからうらやましいって思ってたんだ。ココだってこんなに……」
「待って待って!どこさわってるのよ!」
「良いじゃないか、べつに。発電少女どうし、何も隠すことなんかないだろう?もっと広げてよ、ほら」
「いやあああああああっ……あっ」
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「もー!なんでまたお風呂に入らなきゃいけないの」
「汗をかいたからだよ。でも気持ちよかったでしょ」
「う、それは……そうだけど」
「顔が赤いのはお風呂に入っているせいなのかな?」
「なな、なによ。何が言いたいのよ」
「かわいいね」
「……ばか」
すっかり仲がよくなってしまいましたね。でも中々に激しいというか、なんというか。私も学ぶべきなのでしょうかね……でも、その辺の男よりはむしろ紳士的だったようにもみえました。
今回のようなところまでいってしまったのは他に例がありませんし、妙に発電効率が下がったことといい、発電少女にはまだまだ謎が多いですねぇ。
「さっきおもったんだけどさ」
「なによ」
「キミは今成長期かもしれない」
「……そうなの?」
「だから今はたくさん食べるといいよ。きれいな大人の女性になるにはそうするのがいいと人間の本にも書いてあったし」
「わたしたちは発電少女だけどね」
「発電少女だって少女さ。いつかはたぶん大人になるし、ボクはオトナになったキミを早く見たい」
「そ、そういわれるとうれしいわね。でも食べるにしてもばらんすは大事よやっぱり。あなたもお菓子ばっかり食べないでちゃんとご飯を食べないと……」
「キミのおねがいとあっては仕方がないな。バランスのよい食事でもっとキミをユーワクできるような魅力のある大人になると誓おう」
「じゃあわたしもこの成長期をだいじにすると約束するわ」
「なら」
「指切り、ね」
「あ、あとさ。今度お互いヒミツの名前を考えよう。二人だけの特別な名前をさ」
「それいいね。わかったわ。とびきりかわいいのを考えてあげる」
「楽しみにしているから、楽しみにしていてね」
「そっちこそ。ふふふっ」
ああ、美しい。無垢な愛情ほど美しいものはありません。盗撮カメラを仕掛けたり、彼女らの気を引くためにわざわざ沢山のお菓子を補充して、手紙まで渡していた私の同僚とは大違いです。カメラはあとで回収するとして、手紙が破られてしまったことは報告するべきなのでしょうか。どのみち記録を見れば判ることですし、必要ないですね。
さて、勤務時間も終わることですし、とりあえずは次に交代する同僚から問い詰めてみましょうか。
こうして今日も、発電少女たちの何気ない生活のおかげで、地球は明るく輝いているのでした……




