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本日の天気は雨。発電少女たちは濡れるのを嫌う(注:一部の個体を除く)ため、こんな日は屋内でおとなしくしています。例えば、今そこにいる発電少女たちの様に本を読んだりしています。
「じゃあ読むぞ」
「うん」
「はぁい」
「こほん、『イモムシはいつもはらぺこで、いろんなものをたべます……」
三人の発電少女が一つの絵本に額を寄せあっています。一番身体の大きな個体が本を持ち、それを発電少女たちの平均と比べても比較的幼い二人が覗き込むかたちです。
読んでいるのは……ああ、なつかしいですね、『はらぺこイモムシ』です。個人的な記憶として、最後にイモムシが立派な蝶になるのがどうにも不思議で納得できず、何度も読み返しては首をかしげていた覚えがあります。結局最終的にはイモムシを一匹捕まえてきて羽化させることで解決しました。イモムシは蝶ではなく蛾になりましたけど……
「『……そして、立派で美しい、大きな蝶になりました』おしまい」
「へんだね」
「イモムシってちょうちょだったんだねぇ」
「あなたたちにはもっと他の感想はないの?蝶の美しさに驚いた、とかそういうの」
外見で推定するに読み聞かされていた発電少女はどちらも人年齢の五歳くらい、本を読んであげている個体とは感性が違います。
ところで発電少女発電所では、発電効率が変わらないのである程度の個体差は基本的に無視されています。それゆえに見られる光景ですね。
「じゃあ次!『ステキなろくにんぐみ』」
「カオがこわい」
「まっくろだぁ」
『ステキなろくにんぐみ』、いいところを突いてきます。それぞれの個性を活かして全員で前に進む、言わずと知れた絵本界屈指の不朽の名作です。人の子がそうであるように、発電少女たちも絵本を通して他個体との間に生じる社会性に順応していくのでしょう。
おやおや、読み終えたようです。感想は先程と似たり寄ったり。次にどの本を読むかで議論が始まりました。
「あなたたちはどんな本なら読みたいの?」
「おもしろいほん」
「えぇっと、おもしろいだけじゃあつまんない」
「おもしろいならつまらなくない」
「んー、ちがうんだよぉ」
「真剣な話の本を読みたい、ということ?」
「そうかなぁ」
「もうなんでもいいよ」
「じゃあ……これなんかどう?私も読んだこと無いけど」
大きい方の発電少女が本棚へと歩いていき、一冊の本を手にとって戻ってきました。こちらからでも題名が読めますね。どれどれ……あ。
「なにそれ」
「はやくよんで!」
「はいはい、よっこいしょ」
これはちょっと……どうなんでしょうね。感情の起伏に発電効率が関連しているという論文もありますし、記録をとってみましょうか。
「じゃあ読むよ。『星になったゾウ』」
数分後。ああ、やはり。そこにはうずくまる三人の発電少女の姿があります。
「うっ、うっ。何でなのよ……」
「おもしろく……ないよ。こんなの」
「やだぁ……」
しくしくめそめそ。発電少女たちは気分が完全に落ち込んでしまっています。体育座り、うつぶせ、横になるなどして全身から哀しみをにじみ出させています。
『星になったゾウ』。戦時中、動物園の獣たちを殺処分する命令が下り、泣く泣く殺した元飼育員たちが語るノンフィクション絵本です。毒入りの餌を食べようとしなかったゾウの話を筆頭に、短編集のような体裁で日本全国で起きた同様の話が五個載っています。
異様な空気に他の発電少女たちも集まってきました。
「どうしたの~?」
「だって、トンキーがかわいそうで……なんで……」
「大丈夫、もう絶対大丈夫だから泣かないで……」
「そこの二人も。こっちに来てホタテの天ぷらを食べようよ。さっき貰ったんだ、美味しいよ?」
「……たべる」
「どくとかぁ、はいっていないよね?」
「入ってるかもよ?」
「へええぇ……」
「またお前は変なこと言って~」
「絶対空気読めない」
「ホタテの天ぷらはあげないよ」
「酷くないそれ!?」
結局集まった発電少女たちはみんなでがやがやと台所に向かって去っていきました。彼女らが悲嘆にくれていても発電効率に極端な低下は見られませんでしたし、涙を流すことも普通の日常から逸脱していないということなのでしょうかね。ただ、観測しているときに少し気になる動きがあったので油断はできません。いずれまた集中して実験する必要が出てくるかもしれませんね。
と、あれ?泣いていた発電少女を慰めに来ていた一行が戻ってきましたね。落ちている絵本を手にとって皆で読み始めました。
「何が悲しいんだろうね~これ」
「読んでみないと絶対わからない」
「じゃああなたが読んでよ」
「何で、まあいいけど。じゃあいくよ。『星になったゾウ』」
……なるほど。ついちょっと前に帰りかけていた同僚を呼び戻さなくては。観測二回目、スタートです。
こうして今日も、発電少女たちの何気ない生活のおかげで、地球は明るく輝いているのでした……




