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不安の隠蔽、希望の出口

「そういえば、ねえ、まこと」

「ん?どうした、ユリ」

「どうして私たちは非常階段を目指してるの?さっき思ったんだけど私たちって、塀に囲まれてたけどグラウンドから空を見ることはできたよね。だったら階を移動しなくてもここが一階で、出口も探せばすぐにあるんじゃない?」

 そう問いかけるとまことは少し困ったような顔をして言う。

「説明していなかったか。確かにそれも考えたのだが、正式な出口は恐らく電子錠……今の私たちなら開錠できるかもしれないが、本来なら停電で鍵が機能しないはずだし、近くには当然職員さんがたくさんいるはず。それにこの階が一階だという保証も、出口が一階にあるという保証もない。だから非常階段を探すんだ。外へつながる階の非常階段には必ず非常口が一緒についている。少なくともその非常口なら正式な出口よりは簡単に外へ出られるだろう」

「ああ、そうなの……うん」

 たくさん一度に言われて圧倒されてしまう。だけど、本当にそれで正しいのかな?なにか、こう……あまりにも無理やりじゃないか。妙に落ち着かない。安心だ、安全だと言われていてそれに納得していても、やっぱり何か引っかかる。

「ねえ、レンは非常階段を使えば外に出られると思う?」

「え?うーむ、確かに少し無理がある気はするなぁ。でもまことが言うように、直接正式な出口に行くのはなんだか違うと思うな。だからそうだな……ねえ、まこと。もし非常口から出る計画がうまくいかなかったら、荷物の搬入口を探さないか?」

「荷物の搬入口?」

「そう。えっと……例えばほら、ここで菌の研究をしているなら専用の道具が必要だろ?そのために大きい機械とかを運び込む大きい出入り口がほら、あるんじゃないかな……って」

「おお、なるほど。確かにそれもそうだ。じゃあ……」

 まただ。

 また、私の理解が追い付く前に話が進んでいる。

 最初のうちはなんとなく後から分かればいいか、くらいの気持ちでいたはずなのに。

 何だろう、この違和感は。

 目の前にいるレンもあゆむも、自分と違う。

 いや、違うのは当たり前なんだ。

 ただ、何というか……


 なんなんだろう、この不気味な生物たちはーーー


「ユリ?」

「あっ!?」

「どうしたの?」

 ああ、違う。違う違う!

 私はさっき何を考えていた?

 今、二人のことをちゃんとまこととレンだと分かっていたか?

 駄目だ、不気味だ、怖い。何が?何が怖い?目の前にいるのはレンだ。レンで間違いない、間違いないけど……手を握ってくれている、心配そうな顔をしている、私のことを見ていてくれてて、私も大好きなレンが、きちんとそこにいる。

「どうしたの?ユリ!ねえ、大丈夫!?ユリ、ユリ!」

「レンっ!!」

 ああ、レンだ。抱きしめてくれている。温かい。

「ごめんね、レン。私、変なことばっかり考えちゃって……さっきから変なの。ずっと不安で、でもその不安が何か分からなくてっ!ごめん、レン。ずっとそばにいてね、このままでいて。私をおいてけぼりにしないで……」

「……ユリ」

 涙が流れる。嗚咽が止まらない。言葉にならない気持ちをもうせき止めることはできない。こうしてレンとくっついていればきっと伝わる気がする。ごめん、レン。謝ってばかりだけど、でも、もうしばらくだけこのままで……。

「ボクはユリを置いて一人で行ったりしないよ。大丈夫、ユリがそう望むならボクはずっとそばにいる。そうだ、外に出たら二人でいろんなところを見に行こう。ボクたちがまだ知らないことを探しに行く。まずはご飯を食べよう。まだ食べたことがない料理を。ケーキのほうがいいかな?太るからって、『あの日』以来、食べていないよね……」

 ボクも、ユリのことが大好きだよ。

 何を疑っても、何も分からなくても、その言葉だけは真実だと分かった。

「どう?ユリ、落ち着いたかい」

「……うん、もう大丈夫」

 レンから体を離す。涙をぬぐおうとして右手を上げようとしてやめた。レンが握ってくれている右手を離したくはない。左手で涙をぬぐう。

「ユリ、レン……」

「ううん。行けるよ、まこと」

 ようやく覚悟が決まった。

「みんなで外に出よう」


 菌を研究しているという研究室が並ぶ廊下の扉は鍵を開けることはできたけど怖かったので開けないままにして、その廊下をさらに進むと再び開けた場所に出た。椅子がたくさん並べられていて、大きなテレビが天井から下がっている。出口らしいものは見られず、代わりにこちらにもエレベーターがある。もちろん電源は入っていないみたいだ。

 この不思議な広場からさらに廊下が二つ伸びていて、また看板がぶら下がっている。

「片方は動物とか虫とかの生き物を研究するところのようだ。そしてもう片方は……」

 少し溜めて、まことが慎重に言葉を選ぶ。

「出口だね」

「うわ意外にあっさり見つかっちゃったね……」

「え!?本当に!」

 慎重に選ばれたはずの言葉はひどく直接的だった。

「本当だ。イグジット、出口という意味の英語が書いてある」

「……どうするのさ、まこと」

「とりあえず、今は少しだけ様子を見るくらいにとどめよう。さっきも言ったけれど、何の準備もなしに出口へ向かっても職員さんが出てきたとき対処ができない」

「そうだよね。じゃあ、何か武器とか探した方がいいのかな……」

 思わずそう言った私にレンとまことの視線が刺さる。な、なにかおかしいことを言ったかな?

「なるほど、ユリ。それは名案だね」

「確かに今の私たちなら武器があるような倉庫でも開錠できるかもしれないな。その中から私たちでも使えそうなものを持って来れたら心強いか」

「え、う、うん。そういうことだけど……」

 よ、よし!二人に思いつかなかったことを提案できたみたいだ。これでこそ、みんなで協力して脱出という感じ。握っているレンの手をより近くに感じる気がした。

「じゃあ、そうだ。まずは出口じゃない方から調べよう」

「そうだね、ボクもそうするべきだと思う。直接的な秘密兵器を見つけるんじゃないなら、何か使えそうなものもあるだろう。ユリはどう?」

「うん。私もそれでいい」

「よし。出発だな」

 まことは歩き出し、すぐに止まって振り返った。

「二人とも、あの看板の一番下を見てごらん」

 突然のことに少し驚いたけど、素直に振り向いてみる。

 そこにあったのは私たちが来た廊下の先を示す看板。

 一番下に『発電少女たちの部屋』と書いてあるのが、難しい漢字が分からない私でもわかる。

「私たちはもうここまで出てきたんだ。気を引き締めていこう」

 まことの言葉に頷き、廊下を先へと進む。


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