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気味の悪い矛盾

 真っ暗な部屋。

 暗闇に慣れてきた目は部屋中に倒れる他の子たちが映った。しかし辺りに走り回っているであろう、かの黒い昆虫(ゴキブリ)は目に映らなかった。彼らは暗闇に紛れるためにあの姿をしているのだとその時に思い当たった。

 最も、私たちには彼らがどこにいるのかというなんとなくの見当はつくのだ。

 もちろん、あさりだってそれを知ってこの計画を立案した。

 私が虫かごからぶちまけた、とげのついた足で素早く走り回る昆虫たちに恐怖した他の子たちは気絶。何かの拍子に目を覚ましても再び昆虫たちの位置を把握して勝手に再び気絶するか、慌てて逃げ回って床に仕掛けてあった他の虫かごに足を引っかけ、這い出してきた昆虫たちの襲撃を……あまり考えたくない状況だった。

 計画の実行から暫く経って静かになったいつもの空間。

 静かになるなんてことは、普通はあってはならないことだった。

「普通」、は「普段」ではなく、この場合「常識的に」という意味合いを持っていた。

 気絶した発電少女たちの間に不気味なオブジェクトのように棒立ちする職員さん。

 それが、私が見ていた光景だ。

 彼らはこの停電を解決するためにやってきていた。予備電源に切り替わり次第部屋に入り、事態の収拾にあたる。いつだったかも、停電したときに彼らはここに来た。そのときはもう少し着込んでいたが、今回の彼らは白衣にマスクのみという軽装だった。

 それを見越していたのか?あさりに聞けば、そうだと答えたに違いない。

 でなければ、入って来た職員さんのマスクをはぎ取れなどという指示はしなかったはずだ。

 暗闇の中、ほとんど奇襲のような形で私はマスクをはぎ取って回った。一人、また一人。マスクをはぎ取られた職員さんは動きが鈍くなっていき、最終的に棒立ち状態になった。彼らに何が起こったのかよく分からなかったが、彼らが死んではいなかったことだけは確かだった。しかし、現象がどうして起こったかを考察している暇などなかった。それよりも深刻で、薄気味の悪い矛盾を感じ取ってしまった私は、そちらの方を先に考えずにはいられなかった。


「どうしたのあゆむ?こんなところまで連れてきて。シャーリーは?」

「シャーリーはやっぱり耐えられなかったようだった。気絶しているよ」

「そうなんだ。まあシャーリーだから仕方がないよね」

 暗闇の中、脱衣所まで連れてきたあさりはわざとらしく肩をすくめた。

 全てを見透かしたような動作。

「あさり」

「うんうん。やっぱりあゆむは気づいちゃったのかな」

 それとも我慢できなかったって感じ?微笑むあさり。

「……少し考えれば分かることだったんだ」

 覚悟を決めた。

 立案された穴だらけの計画が成り立っているという奇異な状況で、その矛盾点を指摘するというのは、悪夢を終わらせるというよりは悪夢へ呑み込まれてしまう行為なのはよく理解しているつもりだった。

 わざわざ踏み込まなくてもいい、無視していればそれで済んでしまう深淵へ、裏側へ、足を突っ込めばもう戻れないだろう。

 それでも私は我慢ならない。

 まこととは違う方向から、私は、私なりの真実を追求させてもらおう。

 そういう覚悟を。

「この停電は、絶対にあってはならないものだ」

「この国を支える心臓だからね、なんていっても誤魔化せないよね」

 いつもの調子をわざとらしく崩さないあさりがそこにはいた。

「そうだ。起こり得ないタイミングでありえない停電が起きている。私たちが自分の力でこの部屋から出ることはできないはずなんだ」

「予備電源、あるいは非常用電源」

 あさりは私の考えを先読みするように語り始めた。

 不気味に、気持ち悪く。


「私は計画の説明をするときに、最初の停電の『後』、非常用電源に切り替わると言った」

「すなわち私の説明だけで考えるなら、私たちが動かしていたのは通常電源だね」

「だけどそうであるなら、おかしいことがある」

「そう、私たちが二度目の、今の停電を起こすことはできない」

「非常用電源に切り替わり次第、問題の解決のために職員さんたちが部屋に入ってくる。このとき私たちがいくら起きたり気絶したりしても、独立した非常用電源が落ちることはないね。二度目の停電は起きない」

「じゃあ何かしら問題があって通常電源か非常用電源のどちらかが最初から使い物にならない状態だったのなら?」

「それなら二度目の停電は起きる。発電少女が起きだしたときに電源が復旧したのも頷ける。電源はたった一つしかなかったわけだからね」

「いつだったかの停電で職員さんは停電している状態で部屋に入ってこれたのに、今回入ってこれなかったのも一応の説明はつく。以前はおそらく非常用電源がまだ生きていて、ある程度停電の応急処置ができる状態だった、電子錠や必要な機器類の電源だけでも優先的に生き返らせて部屋に入って来たのだと」

「でも、これもやっぱりおかしい」

「職員さんは以前よりも軽装だった。慌てていたのかな?それはそうだ、きっと職員さんたちは片方の電源が使い物にならないということを知らなかった」

「停電になって真っ暗になってから初めて事態収拾の準備をしたんだ。完全停電を予期していたのなら、常に警戒しているはずだしね。それこそ映画なんて見せない」


「じゃあ、私は?」

「なぜ職員さんも知らないようなことを、私は知っていたのかな?」

「私が知りえないことを、なぜ私は知っていたのかな?」

 そう問うたあさりは安い演技で首を傾げた。


「おかしいね」

 あさりが笑った。

 まだたくさん言わなければならないことがあった。

 どうして停電を誘発するような映画がやっていたのか。

 あの三人が外に出るように仕向けたのもあさりなのか。

 マスクを外すと職員さんを無力化できるということを、なぜ知っていたのか。


 私たちに嘘をつく必要があったのか。

 私たちに嘘をつき続ける必要があったのか。


 だが、私が口にできたのは一言だけだった。

「あさり……お前は、いったい何者なんだ?」

 あさりは笑ったまま答えた。


「さあね?いつか調べてみるよ」            【****/2057】


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