表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/34

1.9x10^7kW

 今日は定期健康診断の日です。我ら【E】班発電少女の全個体に対して、身体検査や尿検査、その他内蔵器官の検査などを実施した後に内科医による診察と担当養護教諭による簡単なカウンセリングを行います。我が国を支える発電少女たちに対する『検査』というとなんだか尋常ではないことを想像する方が多数いらっしゃるとは思いますが、言ってしまえば小学生児童に対して行うような、ごく普通の検査です。しかし、そうはいってもやはり人間の児童より検査に時間がかかります。通例通りなら、発電少女たちは長い待機時間に耐えられずにはしゃぎ出してしまい、その結果さらに検査に時間がかかってしまうという悪循環でした。悪いときには検査を受けたばかりの個体が怪我をしてしまうこともありました。

 そこで今回はせっかくの実験的環境を活用して問題解決に当たる、すなわちテレビを用いて映画を上映し、順番が来るまで彼女らには暇をつぶしてもらうことになりました。それに際して、先日要注意個体にみられた問題行動を鑑み、あらかじめ上映する映画の内容はこちらで調査をしてあります。また、上映中は静かにするようにと彼女らにも注意がなされました。これでうまくいくといいのですが。


『どうしよう。道が二手に分かれているよ』

『さっきは左に行ったから、今回は右にしよう』

 誰も一言も発しない広間にて、上映されている映画の音声のみが聞こえます。映画のタイトルは『選択するふたり』。このような一般公開される予定の資料でこんなことをいうのもなんですが、『選択する二人』はまごうことなき駄作です。いわゆるクソ映画とは違います。とにかく展開が平坦で、起承転結の起の部分が行方不明なものですから終始謎めいたまま物語が進行し、とくに驚きのオチもなく終幕です。

 なぜそんな映画を選んだかといえば、とりあえず謎めいていれば彼女たちは一生懸命考え、答えなどないのに座っていてくれるからです。比較的大きな発電少女たちはまずこれで拘束できます。

「……ねー、どういうことなのかな」

「これは……絶対さっきの会話が伏線だよ」

 ああ、いつもは四人で固まっている発電少女のうちの二人がひそひそと話をしています。ちなみにさっきの会話というのはおそらく、管理人が私に交代する直前の内容です。もちろんその会話は意味ありげなだけで何の意味もないし、のちのちにはむしろその会話と矛盾する会話が登場します。

『どうするの?そのボタン』

『押すべきか、押さざるべきか。ぼくが思うにあの扉か、足元の爆弾のどちらかにつながっているのだろう』

 緊迫感がないですねぇ~。以前に見ただけあって面白くなさが倍増しています。結局のところ発電少女たちも惰性で画面を眺めているだけのようで、あちらこちらでヒソヒソ声が聞こえます。彼女らの会話をもっと拾うと面白そうですが、あんまりここばかり見ていて問題が起きても大変です。いったん保健室前の廊下に切り替えましょう。

 はい、切り替え完了です。円滑に検査を進めるために、三番目までの発電少女がここで待機をしています。今はジーニアスであるところのホタテのヘアピンをした個体と、いつも空手の胴着を着ている個体が待っているようです。

「……」

「……」

 会話がありません。お互いに興味がないというよりは、ホタテの発電少女は空手の発電少女に興味があるけれど、空手の発電少女が緊張してしまっているという構図のようですね。

 頑張ってください。今こそジーニアスの見せ所ですよ。この空気を打開して、円滑に会話を進めるような一手を期待します。私としても正直退屈なのです。これならいっそ騒いでいてくれたほうが観察のし甲斐がありました。そもそも社会性が薄い彼女らを命令して一か所にとどまることを強制している時点でナンセンスです。

「ねえ、ちょっといい?」

「あっ、は、はい。何……」

 おお、ホタテの発電少女が口を開きましたね。何か打開策を思いついたのでしょう。さあ聞かせてください。あなたの素晴らしいトークを。

「あなたはさ、二枚貝についてどう思う?」

「えっ?」

 えっ、いきなり何を聞いているのでしょうかこのホタテ。まあなんとなく察してはいました。このジーニアスホタテはどうしてもホタテが好きで、今まで残っている記録上では会話の発端がホタテまたはそれに準ずる魚介がテーマであることがそれ以外と比較して圧倒的に多いのです。しかも意味の分からないことに、この個体がいつ魚介の知識を仕入れているのかが全く掴めていません。今まで見てきたジーニアス個体もなかなかのものでしたが、なぜこうもジーニアスは型破りな存在なのでしょうか。

「二枚貝だよ。ホタテとかね」

「えっと、えっ……?」

「だから、こうやってパクパクしている貝のことだよ」

 そういってホタテの発電少女は両手を貝に見立ててパクパクさせました。なにやら必死です。

「その貝がらなら見たことある……」

「いや、生きているほうのこと」

「……生きている?」

 空手の発電少女はどうやら貝という生き物と貝殻をうまく関連付けられていないようです。

「ああ、いいや。とにかく、二枚貝についてどう思うの?」

 しびれをきらしたホタテの発電少女が話を進めます。

「……きれい?」

「そうだよ。ホタテなどは特に美しい形をしていると思うんだ。でね、その二枚貝はふつう、海の中にいる」

「……うん」

「そしてあの硬い殻で、食べられないように身を守っている」

「……あの、なぜそんな話をしている、の?」

 空手の発電少女が警戒し始めました。確かに、急に話しかけてきて二枚貝がどうかとか意味不明な話を始める年上なんて不審者以外の何物でもありません。彼女らは不審者のことを知りませんが、理解不能なものへ抱く恐怖とでも呼ぶべき感情は持ち合わせているようです。

「別に。ただ、あの貝はすごいんだよ」

「どうして?」

「あの殻は天敵に対しては無力だ。タコなんかには殻ごとかみ砕かれて食べられてしまう。貝には足がついているけれど、それもちょっとずつ移動するためのものでしかない」

 ホタテの発電少女はなんだか遠い目をしています。一方、空手の発電少女は何を伝えたいのか掴めないホタテの発電少女の話を聞きつつ、どこを見るともなく上の空です。私としても彼女の目的が分かりません。場を盛り上げるにしても話題のチョイスが際ど過ぎます。ここからどうやって切り替えるつもりなのでしょう。それとももしかして、最初から場の空気をどうにかするつもりなどなくて、独り言的に思いついたことを聞いてくれる相手が欲しかっただけなのでしょうか。

 あり得る話です。

 というより、その可能性は十分に高いといえるでしょう。

「だからホタテは緊急手段を持っている。貝を勢いよく閉じて泳ぐという方法で一気にその場所を離れて行ってしまう」

「へ、へえ~……」

 だんだん面倒な雰囲気になってきたのを察してか、空手の発電少女はわざとらしい相槌を打つようになりました。ふむ、ここらで保健室の中をのぞいてみましょう。この廊下はきっとこの先しばらくはホタテの発電少女の独壇場ですから、見ていてもあまり面白くないでしょうし。切り替えます。

 はい、切り替わりました。

 担当の養護教諭とポニーテールの発電少女が向かい合っていますね。各種検査を終えて、最後のカウンセリングを行っているのですね。となると、廊下の発電少女たちも他の検査は終えているのでしょう。

「なあ、先生。やっぱり先生にも分からないのか?発電少女が、いつまで生きられるのか」

「分からないわ。私自身の寿命だって私は分からない。そういうものなんだよ」

「でも、今行った検査である程度は推測できるのだろう?例えば臓器の状態を調べたのであれば、五年単位で寿命の推測ができるはずだ」

「はあ。あなたは本当にいろんなことを調べているんだね」

 物知りさんねぇ、と養護教諭がため息をついています。たしかこのポニーテールの発電少女は勤勉な個体で、また崩壊の可能性が指摘されていました。これは何というか通例なのですが、崩壊を起こした個体の共通項として恐怖心からくる興味が湧くということが挙げられます。崩壊に伴う発電量の低下との関連性を現在調査中です。

「ああ。勉強をするための本なら管理人さんがすぐに渡してくれる。」

「なるほど。それだけ自分で調べるだなんて偉いね」

「じゃあ、教えてくれるのか?私の、寿命」

「……いいえ、教えられない。それは秘密とか、そういうことじゃないんだけど」

「それならなぜ?」

 しかしそのような興味を持った全ての個体が崩壊を引き起こしているかといえばそうではなく、たとえ崩壊の可能性が指摘されていたってこの共通項について逆は成り立ちません。

 さて、このポニーテールの発電少女はどちらなのでしょうか。

「さっきも言ったでしょう?先生は何も分からないの。えっと、さっきあなたが受けた検査の中で、最後から二番目と三番目、そして五番目の検査であなたの臓器を調べているわ。だけれど、その検査をした先生たちは私には結果を教えてくれないの」

「……ああ、そういうことか」

「そう。そしてその各検査をした先生も一人一人別々に検査をしたわけだから、その先生たちにもきっとあなたの寿命は分からない」

「……」

「でもね」

 養護教諭がポニーテールの発電少女に微笑みかけます。

「あなたの食生活、運動、そして睡眠時間なら私は知っているし、それらをデータとして見る限りでは、あなたは大体寿命が八十年の人々の数値に似ている。人と発電少女の間の違いなんて私の専門外だけれど、おそらくあなたの寿命もそれくらいということなのじゃないかしら?」

「……そうか。ありがとう、先生」

 発電少女の表情が少し明るくなりました。養護教諭の彼女はやっぱりプロですね。ポニーテールの発電少女が主観的なものではなく、数値化された証拠を元にした太鼓判を欲しがっていることを見抜いていたのでしょう。

 外部からはよく養護教諭の必要性についてとやかく言われることが多いのですが、やはり心理学の専門家という立ち位置より、それこそ人間の児童と直接接触する機会の多い養護教諭の方が発電少女を扱ううえで適役なのだと思います。そもそも仮説として崩壊には『【編集済】』にて【この情報は一般公開されていないため閲覧できません】と言及されている以上、気を配るのは当然と言えるでしょうし。

「先生、もう一つ聞いてもいいか?」

「なんだい?」

「先生はここにいないときは何をしているんだ?ほかの仕事をしているのか?」

「そうね、それなら何もしていないかな。家に帰って子供の世話をして、ここにきてこうして保健室の先生をしているだけだよ」

「そうなのか。じゃあ先生は世話ばっかりしているのだな。飽きないのか?」

「ストレートに言うね……大変なこともあるけれどねー。確かに」

 そうですよね。大変ですよまったく。ほかの部署の連中なんか監察官なんて簡単じゃないかとかいって僻んでいますが、複数のモニターに映る毎日ほとんど変わらないような映像を、それでも重要なことを見落とさないように気を張っていなくてはならないのですから。いくら飽きたって仕事は仕事ですしね。

 何と言いますか、小学校の宿題を思い出してみてください。毎度毎度同じような漢字の書き取りと計算練習ばかりさせられて、気が付けば毎日毎日同じ型をノートに生み出しては埋めていくだけの作業。しかしそれでも少しずつ変え続けなければいけないだなんて、今から考えても拷問です。現在の教育では鉛筆なんか使わないので私たちの頃に比べれば楽かもしれません。ですがそのような教育プログラムが今日この日に至るまで残っているのは事実であり、グローバル化が流行った数十年前の時点で消滅しなかったと考えるといかに日本の教育者が間抜けであるかを察してしまいます。

 まあ、子供を持たない私にとっては、なんだか遠いところの話なのですけれどね。

「でもね、大変なんだけど、それでも私は嫌だとは思わないよ」

「えっ。どうして」

「それはね、このお仕事も、子供のことも、好きだからだよ」

 にこっと笑う養護教諭。いますよね、このような聖人君子的に人間ができている人。仕事も家庭も満足げで、この世の中の不満はそれだけで無視できる。うらやましいですねえ。この仕事にうんざりしてきている私とは大違いです。

 ……なんだかみじめになってきました。そうだ、確か検査を終えた個体はそのまま大浴場で入浴しているはずです。さあ、視聴者の皆さん。お待ちかね、発電少女たちのバスルーム見学が始まりますよ。とはいえ特定の職員のせいでいいアングルに設置されたカメラは全部撤去されているので、そういう意味であんまり期待されても困ります。ですのでただ健全に、我々の生活を支える彼女たちの姿を見たい、見守りたいと考える紳士淑女の皆さんのみ、この先までついてきてください。切り替えますよ?三、二、一……


【入力信号が存在しません】


 ―――っと復旧しましたか。これを見ている皆さんにお知らせです。今皆さんが見ているディスプレイは真っ黒になっていると思われますが、心配はいりません。先ほどこちらの施設で停電が発生し、そして今無事に復旧しました。皆さんのご家庭または職場に送る電力については全く問題がありませんのでご安心を。まあこんなことを言っても、皆さんがこれを見るのは確実に事が解決した後、ということになるのですが。

 さてさて、原因は何なのでしょうか。一応これからいろいろ映像を切り替えて原因を探してみますが、もしかするとこれを見ている皆さんは閲覧できない部分が含まれます。その際はどうかご了承ください。ではまず先ほど覗こうとしていた大浴場から。

 はい、切り替わりました。

 えっと……あらら、誰もいませんね。残念です。もしかすると映画が盛り上がっていて、そちらを見るために彼女らは烏の行水をしたのでしょう。

 一応脱衣所を……はい。誰もいません。

 では広間に切り替えます。映画を上映していた部屋です。

 はい。切り替わりました。

 で、ああどうやらここが原因のようですね。ほとんどの発電少女が呆けています。集団短絡です。恐らく数分もすれば元通りですが……いったい何があったのでしょう。まあ恐らく上映していた映画が原因でしょうね。中身はきちんとチェックしたはずでしたが、はい。今上映していたのは『蒼月の陰影』。著名なホラー映画監督とミステリー作家、賞を取ったこともある演出家と、この映画の出演以来一躍有名となった新人俳優の組み合わせで当時相当に話題となったミステリーホラー映画です。ええ、もちろん突然驚かせるような演出が含まれているため、この場での上映は不向き、いえ最悪といえる映画です。

 なぜこんなものが……有名な映画ですから見落としがあったとは思えません。誰かが、意図的に紛れ込ませと考えるのが妥当、というよりも理性的でしょうか。犯人捜しは後にするとして、とりあえず調査班が短絡の規模を把握するべく部屋の中へとまもなく突入するでしょう。あーもうさっさと解決しちゃってくださいよ。こっちはもうシフトの時間を過ぎているのですから。帰りたい、仕事なんかやってられるかという感じです。

 それにしても、結構大変なことになっているんじゃないですかこれ。現在非常用電源が起動したわけですが……あ、これ以上は何を言ってもオフレコになっちゃいますね。

 というわけで、皆さんに見せられるのはここまでです。これ以上の情報を求めるのあれば一般以上のクリアランスでログインするか、機密ランクの格下げを待ってください。それでは、またどこかで。


 こうして今日も、発電少女たちの何気ない生活のおかげで、地球は明るく輝いているのでした……


【権限:管理者】

 ここで記録が終わるわけがないじゃないか。そんなに慌ててログアウトしないでよ。この後、いよいよ発電少女脱走事件が起こるわけだけど、それにしたってずさんな管理体制だよね。そりゃ脱走だってするし、できる。はははっ、君たちにとっては冗談じゃ済まない問題なのかな、これは。

 そうだ、すべての元凶なんだ。

 もちろん、これを知ったところで君にとっての問題が直接解決するわけじゃない。でもね、君の問題はともかくとして、僕は君にこれを見せる目的がある。だからぜひとも見てほしい。それに、長い目で見れば君の役にも立つはずだよ。ちょっと前にも言ったけど、この記録はコピーして持ち帰るだなんてことはできないから、必要があればメモを取りながら見てくれると助かるね。ふふふ、あと背中には気を付けておきなよ。

 では、見せてあげよう。

 オフ・ザ・レコードとなった真実。

 見られていないことになった事実。

 それでも確実に見られていた現実だ。


 発電少女脱走事件とその顛末。

 そして『発電所見学』。

 豪華二本立てだよ!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ