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発電少女たちが机に寄り集まっています。どうやら電子レンジで温めたのに忘れてて、冷めてしまった惣菜のピザを囲んで話し合いが行われているようです。
「やっぱり、そのまま食べよう」
「もう一度温め直した方が美味しい。絶対に」
「え~?温めるのに賛成の人~」
挙手は三人。おやおや、一人の発電少女が孤立してしまいました。
「ほらね」
「むう」
「味なんか変わらないって。冷めてても温かくても」
「そこにホタテが入っているなら」
「シーフードへの情熱はそう簡単には冷めないよ」
「……」
「……」
「……」
「……あれ?」
「うまいことを言ったつもりなの?」
「それ滑ってるよ。絶対」
「ホタテに若干繋げてるし。私を巻き込まないで」
「えっ。ちょっと……分かったよ。黙るよ」
一人すねてしまいました。残る三人は何事も無かったかのようにピザ談義を続けています。可哀想に。
意見が孤立した一人を見て調子にのった結果、むしろ自分だけが孤立することってありませんか?
発電少女たちにもそのような傾向があるようですね。これは新発見です。
「ねえ~。もうそのまま食べようよ~」
「チーズが溶けてない。絶対」
「溶けてるよ。ほら、よく見てよ」
「チーズに包まれたホタテはおいしいよ」
「中身が大事。人もチーズも……絶対」
あら、温める派の発電少女が先ほどの発電少女の二の舞になりそうです。その事を察してあとから言葉を付け足したようですが、それだけではリカバリーになりません。
「ふんっ!」
「あいたっ!?」
なんということでしょう。自分が滑った事実に耐えられなかった発電少女が温めない派の発電少女を殴りつけました!
「なにをするんだコノヤロ~!」
「絶対私が正しいんだから!」
「はぁ~!?」
ぼかすかという擬音語がとてもよく似合う取っ組み合いが始まりました。髪を引っ張ったり引っ掻いたり、時おりグーで顔面をねらう危険な攻撃も見受けられます。ああ、どうしましょう。こんなことで個体数が減ってしまったら所長に何て言えばいいのか……
「だから温め直してる時間がもったいないでしょ~!!」
「そのまま食べたら絶対寸暇を惜しんだことを後悔する!」
温める派の発電少女がマウントを取りました。温めない派の発電少女は連続して振り下ろされる拳からどうにか身を守っていますが、とても不利です。
と、そこで、すねていた発電少女が動きました。マウントを取った発電少女を後ろから羽交い締めにしたのです!
「文字通り私の身代わりになってもらうよ……」
「こんなの絶対卑怯っ!」
「よっしゃ~よくやった」
立ち上がり、ブンブンと腕を振り回して勢いを付けた温めない派の発電少女が拘束されている発電少女に痛恨の一撃をくらわせました。
「ぐっ……」
「そ~れ、もう一回」
ひどい。いくら対立しているからって共同体の中でこんなことが起きるものなのでしょうか。リンチですよリンチ。ああ、そんなことしたら……
「うっ、ううう……」
「えっ?」
「えっ?」
すん、すん、と鼻をすすり始めた温める派の発電少女。ときどきしゃくりあげています。あ~あ、泣かしちゃった~。気が強そうだからってやり過ぎると誰だって涙を流すんですよ。発電少女たちはそれを知らなかったようです。
温める派の発電少女が拘束から解かれました。すると温める派の発電少女はすぐさま走り去り、机の下に潜り込んでしまいました。
「ど、どうしよう……」
「えっ、あれ?えっ?」
あとにはオロオロしている温めない派の発電少女と、調子にのって拘束していた発電少女が残されています。
そして醜い争いの火だねが用意されました。誰が責任者か、ということです。
「私はつかんでただけだし!殴ってないし!」
「きょ、共犯でしょ~!自分だけ逃げるのか卑怯者!」
「だって、最初に私を仲間はずれにしたのはあなたたちでしょ?私悪くないよ。ミヒツノコイ、ってやつだよ」
「意味わかんないし!何よミヒツノコイって。また上手いこと言ったつもりなんでしょ?いつも滑ってるからやめればいいのに」
「なっ!ミヒツノコイも知らないバカが悪いんですー!私の方がアタマ良いよ」
「ねえ、本当に分からないんだけど、ミヒツノコイってなんなの?」
「え、えっとねー」
「ほらあなただって分からないんじゃん!バーカバーカ」
「どうやら本気で死にたいみたい……」
あああっ、殺してはダメです!元はと言えばたかだかピザ一枚のために起きた喧嘩だということを思い出してください。そして馬鹿馬鹿しさに気がついたら取っ組み合いをやめるのです。
そこにようやく助け船がやって来ました。
「ん~?この匂いは……」
「シーフードピザの匂い……」
人知れずピザを温め直していた発電少女が居たようです。あれは……最初から机に集まっていた四人のうちの一人のようです。最初の取っ組み合いが始まったときにこっそり離脱してピザを温めに行っていたんですね。
「そこの二人。ホタテが美味しいよー!」
温める派の発電少女も机の下から出て来て、すすり泣きながらもピザを食べています。温める派の発電少女と卑怯な発電少女はもぞもぞと机まで戻ってきました。
「ほら、早く謝って」
「……ごめんなさい。絶対私が悪かったです」
戻ってきた二人がどう振る舞えばよいのか戸惑っていると、温める派の発電少女から謝罪がありました。これをされるともう仲直りするしかありませんね。それくらいは発電少女にも分かるようです。
「こちらこそごめんなさい。お腹痛くない?」
「絶対痛い」
「ご、ごめん」
「ゆるす」
「……卑怯でごめんなさい」
「絶対ゆるさない」
「ええっ!?」
「うそだよ。絶対ゆるす」
「よし!じゃあみんなで食べようよ。美味しいよ、特にホタテが」
ほっ。良かった良かった。一人も失わずにどうにか切り抜けましたね。喧嘩しても殴りあっても共同体は共同体、ということなのでしょう。発電少女たちの仲直りを祝って、同僚とピザでも食べましょうかね。もちろん、温めてすぐ食べますよ。
こうして今日も、発電少女たちの何気ない生活のおかげで、地球は明るく輝いているのでした……