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 グラウンドには梅、桜など春の花を咲かせる木がそれなりに植えられていますが、まだ開花はしていません。それでも三寒四温の季節もいつの間にか過ぎ去り、春の陽気も徐々に感じられるようになってきたこのごろ、発電少女たちはようやく外に出始めました。今日は皆で大縄跳びをするようで、すでに体格の大きい発電少女の二人が縄を持って、幼い発電少女が四人、縄を跳んでいます。要注意個体は……ああ、グラウンドの隅の方に他の発電少女と一緒にいるようですね。日向ぼっこでしょうか?ともかく記録はとってあるのでよしとしましょう。


「それじゃ、いくよー!せーの」

 ゆーびんやさん、ゆうびんやさん。お手紙が百枚落ちています。拾ってくださいさあどうぞ!

 この掛け声が懐かしいのは私だけでしょうか?ただ大縄跳びをしているのではなくて、掛け声で遊んでいるようです。たとえばこの場合、手紙が何枚落ちているかでノルマが決まります。今は百枚ですから、百回ですね。

 いっち、にー!さん!とリズムよく発電少女が跳ねます。四人で一列になってぴょん、ぴょんと跳ねるこのゲームはとても楽しいのですが、見た目に反して苛烈な責任社会でもあります。

 それ見ているうちに……一人引っ掛かりました。一番後ろで跳んでいた発電少女です。

「今回は二十一回か〜」

「いいや、二十回だよ。絶対一番後ろで二十一回目に引っ掛かった」

 前の方の発電少女二人が後ろの発電少女をふり返ります。一番後ろでは発電少女がしょぼん、としょげていますね。私が引き継ぐ前から縄跳びをしていましたから、この失敗も幾度めかわかりません。

「まあまあ落ち着きなよ。みんながみんな失敗したくてしているわけじゃないんだ。たとえ間違えすぎていることはあるとしても、きっとそのことは失敗した方が一番わかってて、一番反省しているんだと思うよ」

「……ごめん。かばってくれて」

「いやいや。ただ、次からはもうちょっと積極的に跳んでよね」

 しかしながら多く失敗しているのは事実のようで、三番目の発電少女のフォローにも少しのいらだちが含まれている気がしてなりません。ああ、この四人はいつもつるんでいる子たちですね。失敗していたのはかの協調性に欠ける発電少女です。その協調性のなさが、はからずもこの縄跳びで証明されたと言えるでしょう。

「それじゃあ、もう一度お願〜い」

「よっし、じゃあいくよ!せーの!」

 先頭の発でん少ジょが促し、もウoneセつトのな トびかはじマリまシ 。ゆー   s       。


【不正なアクセスを検知】

【不正なアクセスを検知】


【不正な悪セスをけん知】


【不正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正正:///////////////////////////////////////////////////////not///////////////no/////////////nnnnnnnnnnnnn:[nhin][][][][]kearn:jinnne[000000000000]】


【攻】


【】

【】


【正常なアクセセセセセセセセセセス】


【Access:manager】

【Right:write:for/from///space/blank//.】


【システム:留守番電話サービスに接続します】


 やあ、初めまして。キミに会うのはきっと初めてだね。会う、まあこうして実体のない交渉ではあるんだけれどね。二重の意味で。そんなにレトリックにこだわらなくてもいいか。ううん、まとまらないな。とりあえず、状況としてね?まず、これらの『記憶』はみーんな過去の話だ。ずうっと昔さ。ははは。それはわかるって?そうかな、そうかも。そうだ、キミが聞いてきたこと、聞いたこと、見てきたこと、見たこと、は、すべて、すべからく、矛盾していた。あまりにも食い違いがひどいから、キミはこれらの『記憶』の信頼性を疑っているのだろう。だいじょうぶ、この『記憶』の正しさはコチラで保証しよう。間違っているのは『記録』、そしてキミだね。これを見ているキミは現在の人だ。食い違いは起こる。破綻も起こる。ほころびってのは間違いを隠せなくなった時に生じるものなのさ。人類最大の過ちだろうね、キミらも実感しているはずさ。なぜあんなにも狂ったことをしていたのか、その後悔だね。だからキミはここにいる。安心しなよ、この『記憶』も『記録』も勝手に消滅することなんかないさ。いくらでも持ち帰ってくれ!まあ、規格も暗号も合わないだろうけどね、うむ残念。さて、この現在でキミが知りたいことは何だい?ああ、答えなくてもいい。わかっちゃいないが、今この瞬間に用意できるのはコチラとしても一つしかないんだ。彼女ら、そのへんにいるだろう?そうだとも。彼女らがなぜそこにいて、そうなっているのか。その原因というか、関連する事故というか。残念ながら『記憶』も『記録』も見せても意味がない。見せるのは『真実』だ。この先、『記録』では四月の中頃までの出来事が抜け落ちている。だからその空白を埋める『真実』をひとつ、まずはひとつだけ、見せてあげよう。


【参照:a076/2049】


 話しかけようかな……でもなぁ。ユリはなんだかおかしい。前まではあんなに怒ることはなかった。いつも楽しかったのに、あの日、あの停電の日からだんだんと……本当に、どうしちゃったんだろう。

「ねえ、ユリ」

「……」

 最近はこればっかりだよね。なんで話もしてくれないのかな。ずっと空ばっかり見て。

「シャーリー、は、縄跳びに混ざってこなくていいのかい?」

「あなたがたが参加しないのであれば楽しくありませんわ。それに、わたくし縄跳びは苦手でして。胸が痛くて仕方がありませんの」

「そうかい……結局雪だるま作らなかったね」

「ふっ、気にする必要はありませんわ。雪だるま作りだなんてお子様の遊びですのよ。それに、もし仮に、仮に雪だるまを作りたかったとしても、来年もありますわ。どうせ待っていたらいつかは雪が降りますの。正確には分かりませんが……」

 ふふっ。シャーリーの笑顔はやっぱり素敵だ。どうしてだろう。いつでも元気いっぱいで、それに、ボクらよりもよくものを知っているようだからかな。そういえばシャーリーはいつだったか、他の発電所から引っ越してきたんだっけ。そこでたくさん勉強をしてきたのかもしれない。体も大人っぽいし、ちょっとうらやましい。

「ねえシャーリー。前は話したがらなかったけど、聞いてもいいかな」

「なんですの?」

「シャーリーがここに来る、その前発電所の話」

「……どうしてそれを知りたいと思いますの?」

「単純にさ」

 仰向けになってみる。首筋には冷たい土の感触がする。

「シャーリーはボクらに比べて大人っぽいなって。体もそうだけど、考えとかがさ。もしかしたら引っ越してくる前の発電所で、他のみんなとか、管理人さんとかとたくさんお話ししたり、勉強したりしてきたのかなって。ぜひともそれを聞きたいな。暇だしね」

「えー、そうおっしゃるのでしたら……」

 やっぱりシャーリーは乗り気じゃないのかな。あまり笑っているようには見えない。

 それどころか、なんだろう。

 一瞬、物凄く怖かったような……

「……そうですわね。じゃあ少しだけ」

 ほっ、よかった。いつもの笑顔だ。

「わたくしが以前いた発電所も、こことあまり変わるところはありませんでしたわ。ただ、管理人さんは少しだけ変わったお人でしたの」

「どんなふうに?」

「その管理人さんは、時々……十日に一回ほど、わたくしたちを見ていましたの。なぜわかるのかといえば、その管理人さんはわたくしたちにその都度いろいろな質問をしたから。本当に色々な質問でしたわ。イルカを知っているか、たんぽぽを知っているか、ライオンを知っているか……」

 あっ、それでライオンのことを知っていたのか。

「じゃあ、その管理人さんがした質問から色々なことを知れたんだね」

 ええ、とシャーリーがうなずく。

「いつも知識を試すような質問ばかりというわけではなく、わたくしたち自身の事についても聞いてきましたわ。ご飯は食べているか、お風呂に入っているか、勉強は辛くないか、などなど。おかしい話ですわ、そんなこと知っていたら聞く必要はないんですもの。管理人さんはわたくしたちのことをみーんな知っているわけではないって、その時知りましたの」

「確かにそうだね。何を聞いても返事をくれるし、ボクらのことを見ていると言っていた管理人さんもいたのに」

 ということは、ボクらが秘密の名前を持っていることを管理人さんが知らないこともあるのかもしれない。ふふふ、なんだか嬉しいな。ボクたちの関係がもっと特別なものみたいだ。

「そうそう、その質問の中でもわたくしが一番覚えている質問がありますの。レンと、それとユリも考えてみてくださる?」

「えっ?」

 ユリがいつの間にかボクのすぐ隣にいた。押し黙ったまま、シャーリーが喋り出すのを待っているみたいだ。この機に前のようなおしゃべりなユリに戻るといいんだけど……

「わかった。ユリも一緒に考えようよ」

「……うん」

「では、改めて。その管理人さんは、わたくしたちにこう質問しましたわ。『君らは、自分の子供が欲しいと思うかい?』」

「自分の……」

「子供?」

 なんだろう、よく分からない質問だ。

「わたくしたちもおおよそ今のお二方と瓜二つの反応しかできませんでしたわ。この質問が、管理人さんの最後の質問だったのですけれど、わたくしは今でも答えが出せませんわ」

「私の……子供……」

「ボクらが、え?子供を、どうやって貰うのさ」

 そもそも、子供とはなんだ?ボクは今子供で、シャーリーは大人っぽいし、管理人さんは人間の大人だ。子供から大人になるのは、たしか何かの絵本に描いてあった。じゃあ子供はもともとなんだったんだ?どこからくるんだ?

「ねえ、シャーリー。私の子供、って言っても、そもそもどうやって手にいれるのよ?自分のって何?子供は子供でしょ?誰かのものなの?」

 ユリが矢継ぎ早にまくし立てる。ユリはここのところ、質問をするときか、怒ったときだけおしゃべりに戻る。でもよかった、今は少なくとも起こってはないみたいだ。

「そう、わたくしもそれに関して全くの無知でしたわ。でも、ちょうどわたくしの胸が大きくなってきて、あと、まあ……以前お風呂でお二方にはお見せしたような、あのようなことが起こり始めたばかりの頃に、保健室の先生と会う機会がありましたの。管理人さんは答えてくれませんでしたので、わたくしその時に先生に同じ質問をして、さらには子供を貰う方法を聞きましたの」

「えっ?子供をもらう方法があるの?」

「というか、確かに自分のっていうのは……違和感があるというか……」

 想像もつかない。今発電所にいるねことどう違うの?いや、何も違わないのか?ふとシャーリーを見ると、いつものように得意気な顔をしている。聞いたときに、その答えに多少は納得したということだろう。

「ふっ、保健室の先生は『私はもう子供を持っているわ。今は三歳ねー。ふふっ、子供はね、好きな人と一緒に過ごしているうちに、きっと自然にできるものなのよ。そう、あなたのお腹のなかに、新しく生まれるの。好きな人が女の子だったら、ちょっと苦労はするけれど、今ならあなたたちのおかげで、昔ほど困難なことではないのよ』とおっしゃっていましたわ!」

「シャーリー、さっきから真似っこが上手だね。ボクじゃできないよ」

「待って、どういうこと?」

 ボクはシャーリーの言うことの意味がよくわからなくて、わざとおどけてしまった。しかしユリは違った。今まで見たどんなユリとも違う顔をしていた。ずっと探していたものを、ようやく見つけたような、そんな顔をして……

「私たちの、お腹のなかに、できる?」

「先生はそうおっしゃっていましたわ。子供ができてから一年待たないうちに私たちから産まれてくるそうですの。最初のうちはとっても小さくて、それでも三十センチくらいはあるとお聞きしましたわ。それがご飯を食べているうちに大きくなってきて、私たちくらいになりますの」

「じゃ、じゃあ私たちももともとは三十センチくらいだったということ?」

「そうなりますわね、そのことをわたくしたちが覚えていないのは非常に残念ですわ。あと、わたくしそれが今でも信じられないのですけれど、最初お腹にいる子供は、その、お股の間から出てくると聞きましたわ」

「ええっ!?た、たしかシャーリー、今子供は一番小さくて三十センチって……」

「そ、そう!おかしいんですの!だって、だって……」

 思わずパンツの中に手を入れて確かめてしまう。う、うん。確かにボクもこのあたりに、おしっこをするのではない小さな穴があるけど……三十センチは、大きすぎないだろうか?

「……謎、だね」

「謎ですわ」

「ボクも、信じられないな……」

 みんな黙ってしまった。縄跳びをする声が聞こえるけれど、それも理解できないほどに衝撃だった。どうなっているんだ、ボクらの体は?

「他の管理人さんはなぜ教えてくれなかったんだろうね……」

 おもわず呟いてしまう。

「そ、それよ!」

 瞬間、ユリが大声を上げて反応した。

「私はずっとレンとシャーリーに言いたいことがあったの」

 いつになく真剣なユリ。初めて見た。最近の怖い表情に少し似ているが、でも、今は怖くない。不思議なものだ。それとも、ユリの中でなにかスッキリしたことがあったのだろうか、晴れやかな顔をしている。

「な、なんですの?」

「ボクらで答えられるならなんでも言ってよ、ユリ」

「……で、でもいいのかな。やっぱり私だけの秘密にしておいた方が……」

 ユリの表情が曇る。晴れやかな表情に影が射し、再び怖い表情になりかけている。

「ユリ。ボクを見て」

 ユリの顔をそっと掴んで、顔を寄せる。こんなに間近でユリを見たのは久しぶりだった。かわいい目、かわいい鼻、かわいい口。ずっと前よりずっと魅力的なユリは、でも、とても不安げだった。どうして気がついてあげられなかったんだろう。よく分からないけど、ユリはずっと不安だったんだ。ボクらの知らない秘密を知ってしまって、ボクらにもその秘密を分けるのを怖がっていたんだ。

 きっとユリ自身のためじゃない。ボクらのために、秘密を秘密にしておきたくて、でも言いたくて、ずっと我慢していたんだ。だから

「ユリ。話して。ボクはユリの味方だよ」

 ユリの瞳がうるむ。だけど涙がこぼれるのを我慢して、ユリがうなずく。そしてボクとシャーリーをもっと近くに寄せる。

「あのね……」

 聞こえないくらいのヒソヒソ声だ。そうとうな秘密らしい。ボクもシャーリーも、聞き漏らすまいと耳を傾ける。


「管理人さんたちは、私たちに何かを隠していると思うの。私たちが外に出ないように、わざと閉じ込めている気がするんだけど……外に、発電所の外に、出てみたくない?」


【参照終了】


 はははっ。この記憶はとりあえずここまでだね。これがキミらの『記録』にはない『記憶』。極秘の『記録』に記載されている『発電少女脱走事件』の発端になった『記憶』だ。でもどうだい、そこ。さっきも聞いたけど、まだいるだろう?彼女ら。察しがいいね、でも少し間違いだ。この『記憶』には正解があるよ、『記録』と違ってね。

 彼女らがどうしたのか。その『記憶』はあとでもってくるよ。その間はそこにある『記録』でも眺めておくといい。改められているとはいえそれらも元は『記憶』だ。キミが望むものはそこにはない。けれど、キミが望んでないもの、望んでもないものはそこにきっとあるはずだ。

 では、しばし。


【以上でメッセージは終了です】

【自動:再生停止】

【操作:エラー部分を回避】

【操作:再生】


けです。ああ、彼女がこの小さな不完全な社会に適応できる日が来るのはいつの日か。ある意味、私どもとしては適応しないままでいるのも都合がいいのでよしとしましょう。


 こうして今日も、発電少女たちの何気ない生活のおかげで、地球は明るく輝いているのでした……

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