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寒さもついに底まできたかと思われていたこの数日間からすれば、今日は非常に陽気で朗らかな日だと言えるでしょう。平均気温が二度変わるだけでも体感できるものですね、改めてそう思います。環境というのは発電少女たちの発電効率に直接影響するのはこれを見ているあなたもご存じ(注:発電少女発電協会日本支部ホームページ『よくある質問』を参照のこと)の通りですが、例えば寒さは発電少女の発電力をささやかながらにも低下させるために警戒されます。
なぜこんな話をするのかといえば、それはつまり、現在発電量が減っているためです。もちろん部屋の温度調節は上手くいっているのですが、新人君が少しやらかしてくれたようです。
「こんなに、人間だからかなぁ」
「私たちもこのくらいにはなる……のかしら?」
彼女らは周囲への同調に障害が見られる発電少女と、要注意個体b052の二人ですね。珍しい組み合わせです。日頃bは他の要注意個体と共に過ごしていますが今日は違います。もとより社会性の薄い発電少女ですから、本来ならその程度のことで驚くべきではありませんが、彼女が『崩壊』初期段階に入っていることを考慮すれば貴重な場面です。
「これは、おおう……」
「やっぱりだめだわ。私たちには追いつけそうにないよ……」
そんな彼女らが食い入るように見つめているのは、食堂の隅の方にあるテーブルです。カメラの位置関係上、ズームが一番遠くなる位置ですね。狙ってそうしたのかは分かりませんが、カメラの寄りにくい位置で、さながら思春期の中学生のようにコソコソと雑誌を読んでいます。
そう、その雑誌とはグラビア雑誌。しかも号によっては法スレスレのヘアヌードまで載っているようなオトナ向けの雑誌です。今ごろ珍しい紙雑誌の中でも特異な、化石と呼べるほどの長寿雑誌で聞けば私の父が高校生の頃からすでにあったそうです。きっと未だに紙にこだわっているのが長寿の秘訣なのでしょう。あるいは十年ほど前の『労働者の春』(注:労働基準法、最低賃金法など労働に関連する法律の一連の大規模改正のこと。これにより違法な時間外労働や賃金形態への監視が厳しくなり、労働者の待遇が改善される反面倒産する会社も大量に出ました。詳細は発電少女発電協会日本支部ホームページ『社会貢献:失業者の大規模雇用』などをご覧下さい)以降値が釣り上がっても買い続ける野郎共の性欲が凄いのかもしれませんが。
彼女らは十分ほど前からそれを見ているようで、どこから拾ってきたのかはその瞬間を見ていないので現時点ではなにも言えません。
ですが一つの事実として、あの雑誌は明らかにうちの施設職員、すなわちつい先日厨房に転属となった新人君の私物です。間違いありません。
「なんだかこっちまでドキドキしてきちゃうよ」
「な、何をおばかなことを言っているの!?私はこんな写真なんかでドーヨーしたりしないもん」
「で、でもほら、こっちなんかほとんどハダカだよ?全く恥ずかしそうにしていないけれど、この人たちはどうしてこんなに動揺しないでいられるんだろう。私だったら絶対に嫌だな」
「当たり前じゃない!この人たちはこの本に載るのが仕事らしいわ。だからきっとすっぽんぽんでも大丈夫」
「そうなの?理解できないなあ。みんなの前でハダカなのも恥ずかしいのに、見えない人にも見られるだなんて」
「で、でも触られるわけではないじゃない。触られる方がよっぽど恥ずかしいんだから!」
ほほう、新人君はスレンダーなのが好みのようですね。ここからでも折り目がついているのが分かります。しかし本当に肌色面積が大きいですね。発電少女の言うように、マイクロビキニなんかで身体を隠してもそれはほとんど全裸ですからね。
それはさておきどうしたものでしょうか。発電効率を回復するにはあの雑誌を回収する必要があるのですが新人くんは時間外ですし、かといって今アナウンスで注意しても短絡を起こされる可能性があります。予備電源に余裕がない現状を考えると難しいところですし、何よりこの状況に手を加えてもよいものかという疑問もあります。
なぜ発電効率が落ちているのか。発電少女が性的に興奮している場合に発電効率が落ちるという研究報告があります。しかしこれはまだ仮説の段階です。発電効率が落ちることはあまり望まれないため、実際に実験を行った事例が少ないのです。
つまり現在のこの状況は、セッティングは雑ですが貴重な『実験』であると考えることもできます。そのままにして記録をとったほうがよいかもしれない、というわけです。
「お、おおおっ!?」
「ちょっと、静かにしてよ!」
「だ、だってこんなに、ほっ、ほほへへっどうしよう変な笑いが出てきちゃった」
「……たしかにおっぱいがとんでもなくおっきいわね。どうしたらこんなになるのかしら」
シャーリーが確かこんな感じ、とbがボソッと付け加えました。うーん、マイクもあまり拾ってくれませんねぇ。もとの声が小さいというのもあるのでしょうが。
発電効率は相変わらず落ちたまま。しかし見たところ他の部屋に異変が起こる様子はありませんし、観察を続けることにしましょう。
「おわっ。今度はまたギリギリすっぽんぽんだ」
「おっきい人と小さい人と交互になっているのかしら?」
「それにしてもなんだかさっきよりもギリギリだねこれ……もう少しで見えそうな気がするんだけど……」
「横から覗いたって見えるわけないでしょーに」
「ん?この次のページ……なんだかくっつけられているような……開くかな?」
「えっ!?ちょ、ちょっと見せなさい!」
袋とじですね、古風なことをするものです。開けるとよりいっそう過激な写真が載っているのでしょう。新人君はどうやらこの雑誌、スレンダーとグラマラスを比べるようなキャンペーンを行っているらしいこの雑誌をまだ通していないようですね。哀れ、新人君。君がもしかしたら楽しみにしていたかもしれない袋とじはたった今、無垢な二人の発電少女によって開封されようとしています。
ん、おおっ。発電効率がさらに落ちてきていますね。それだけ二人の興奮度合いが高まってきているということでしょうか。ああ、発電効率の低下が果たして脳に起因するのか心臓に起因するのか、あるいは他の要因なのかを調べるせっかくの機会なのですが。詳しい実験機材が無いのが悔やまれます。
さあ、はさみが見当たらなかったからでしょうね、彼女らは指で豪快に袋とじを破いていきます。新人君が几帳面な方でないことを祈ります、どのみち返しはしませんが。
「よし」
「……開けないの?」
「そ、そっちが開けてよ。私が破いたんだから」
同調障害のある発電少女がしり込みをしています。きっと袋とじの中から漂う禁断の雰囲気を感じ取ったのでしょう。少しだけ同感できます。
「な、なんでそれだけで開けるのを私に任せるのよ!まさか何かヘンなことを企んでいるんじゃないでしょうね!」
それに対してbがヒステリックに叫びます。隠されているものはいつだって厳かで、畏れ多いものです。ま、日常的に目にするものなら大抵はしょうもないものなのですけれどね。それこそ浮気をしている疑惑のある妻のSNSを除き見ようとしているのでもないのですから、きっと袋とじの中身もそうでしょう。
はぁ、嫌なことを思い出しました。
「よ、よし。せーので開けるよ」
「わかってるわよ……せーのっ!」
「えっそっちが言うのってわあっ……」
おーおー、遠くから見ていてもキツそうなのが載ってますね。太くて赤いロープが全身に食い込んだ女性らしきものが確認できます。『縛』乳ですって、でかでかと書いてあります。なぜそれを大小比べようと思ったのでしょうか。
「……」
「……」
ってあれ、もしかして二人とも短絡を起こしていませんかこれ。いや、発電効率に大した変動はありませんからそんなことは無いみたいですね。ただ同調障害の発電少女は完全に放心しているようで、bがパラパラと袋とじ内の他のページをめくっていますが無反応です。一方のbは、どうしたのでしょうか。袋とじ内のページを行ったり来たりして。あ、立ちました。そのまま……電話機の方に向かっていますね。
「はい、コチラ、コールセンター、でございます。ご用件をどうぞ」
「管理人さんにつなげて」
「すみません、もう一度、お試しください」
「管理人さんにつなげてよっ」
「すみません、もう一度、お試しください」
「管理人さんにつなげてってば!!」
「デスク、に接続しています。しばらくお待ち下さい」
あら。何か怒っているようにみえますね。もういっそのことあの電話機で直接コチラに繋がるようにすれば良さそうです。今度提案してみましょう。
はい、こちら管理人です。用件はなんでしょう。
『管理人さんに教えてほしいの』
こちらで用意できる範囲であればお答えしましょう。どうぞ。
『人間は痛いことでも、嫌なことでもやらなくてはならないことがあるの?』
……あー、そうですね。そのようなときもあります。
『どうして?どうして嫌なことでもやらなくてはならないの』
そうですねぇ……生きるため、ですかねぇ。
『生きるため……』
はい。ただ、あなた方は発電少女ですから、辛いこと、嫌なことなどありましたらすぐに要望を出してくださいね。我慢する必要はありませんよ。我々は常に快適な生活を用意しましょう。
『……それは、管理人さんたちが生きるためなの?』
……あー、これ以上のことはお答えできませんね。すみません。もうそろそろ消灯の時刻です。あなたも寝る準備をしてくださいね。
『わかった……』
通信が切れました。
さあて、いよいよ極まってきましたね。とりあえず上に報告するとして……新人君のことは黙っておいてあげましょう。これ以上彼がへまをしたことがバレると彼の命が危ない(注:もちろん冗談です)ですし。
bは雑誌を閉じると、食器の返却棚から厨房の奥へと放りました。きっとこれ以上誰にも見せたくなかったのでしょう、助かりました。そのままbは未だにボーッとしていた(注:数字に反映されない程度の軽い短絡状態であったと推測されます)発電少女を起こし、共に寝室の方へと出ていきました。えっと、どのボタンでしたっけ……ああ、きちんと寝室にいますね。なら私の今日の仕事はここまでです。報告書は、明日の昼でもいいでしょう。
こうして今日も、発電少女たちの何気ない生活のおかげで、地球は明るく輝いているのでした……




