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1.2x10^7kW

 秋もほとんど過ぎ去って、ここ発電少女発電所もだいぶ冷えてきました。自然と外で遊ぶ発電少女の数が減り、屋内で遊ぶ個体が目立ちます。先日、彼女らから落ち葉で焼きいもをしないかとの提案がありましたが危険であること、また、そもそも落ち葉が少ない(注:日本に限らず発電少女発電所のグラウンド周辺に植えられた木はそのほとんどが電気的遺伝子改良の試験個体で、ここでは常緑樹を寒冷地に適応させる試みで作られた種が多いです)ことから却下となりました。しかしその代わり……かどうかは分かりませんが、いくつかの要議物品が許可されたようです。その第一号が先ほどこちらに届き、たった今職員が設置し出ていきました。おかげで日頃退屈なこの仕事も今日は面白くなりそうです。

 発電少女はこたつの魔力に抗えるのでしょうか。


「管理人のおじさんが何か置いていったね~」

「机……かな」

「絶対違う」

「いやいや、明らかにあれは机でしょ」

「でも布団が挟まっているよね」

「ホントだ」

 さっそく発電少女が集まってきました。要求物品を受け取ってきたところですね。えっと、それぞれパズルに本にアイスクリーム、頭についているあれは……貝の髪留めですかね?我々の間でも時折話題になる四人の発電少女たちであるようです。

 訝しげにこたつを眺め回す四人。こたつは彼女らの要求ではなかったのでしょうか。ふふふ、まあいいのです。最初に捕まるのは誰なのでしょうか。

「とにかく座ろうよ~本が読みたいな~」

「いや、でも、これ……なんだ。絶対ただの机じゃないよ」

「あっアイス溶けるから冷蔵庫に入れてくる!」

 だだだっと一人去って三人。

「そういえばあのバカはなぜアイスなんか要求したんだろ……絶対寒いって」

「意外にこの時期のほうが美味しいのかもよ。そんなことよりとにかく座ってみようよ」

「あ~っ」

 おっと、その次に動いたのは貝の髪留めの発電少女です。残る二人が止める間もなくずぼっ、とこたつに足を突っ込みます。そして沈黙。

「どお~?なにかあるの」

「何もない。足が冷たい」

「そんな馬鹿な。布団なんだから絶対暖かいだろうに」

 ずぼっ、とさらにもう一人。

「えへへ、足がぶつかっちゃうけどこの方が温かいね」

「なるほど、これは絶対複数人で入って温める道具だ」

 うーん、惜しい。

「なら足を動かせばもっと暖かいかも」

「私も混ぜて~」

「よし。三人でやれば絶対暖かいはず!」

 ずぼっ。そしてかすかなドタドタという音。確かカメラが……ありました。切り替えて、と。はい。こたつの中では靴下を履いた足同士がぶつかり合う戦場になっていました。頑張って温めているようですが、彼女らはいつ電熱器に気がつくのでしょうか。電気を産み出す発電少女が電気こたつの使い方を知らないというのはなんとも奇妙なことです。

「あれ、それそうやって使うの?」

 あ、アイスを置いてきた発電少女が戻ってきました。彼女は仲間がこたつの下で一生懸命足をじたじたさせている光景に少しばかり面食らっているようです。

「多分、あってるよ~」

「でもこれ、絶対疲れる」

「裸足の方が良いかな?」

 気づいてください。床に落ちている電源プラグはそのこたつのものです。設置する方も思いやりがありませんね、電源プラグくらい差し込んでいけばいいのに。発電少女が人でないからと言ってこたつを知らないのはあんまりだと思います。

 放送で知らせてやろうか。

「いったあっ!?なにか踏んだけど……うん?」

 そんなことを思った矢先、アイスを置いてきた発電少女が電源プラグに気がつきました。じたじたするのに忙しい仲間に代わり、彼女は電源プラグをコンセントに差し込みました。流れでスイッチをオンにします。

「あ、暖かくなってきたね~」

「ふおっ!?ふおおおおお!?」

「なるほど。電気で動く機械だったんだねこれ」

 電源の入った直後こそ驚いた顔をしていた発電少女たちはあっという間にこたつに籠絡され、見るからに体から力が抜けています。だらーんとしたその姿はこの季節なら日本中(注:沖縄、その他の温暖な地域を除く)で見ることができるでしょう。もちろんその場合、だらーんとなっているのは人間ですけれど。

「よ、よし。私も入ろうかな……」

 さて、アイスの一件で明らかに出遅れてしまった発電少女は仲間たちの姿を見てこたつに入ろうとします。これでまた一人の発電少女がこたつの餌食に……って、あれ?こたつの中から複数の足が彼女を妨害していますね。

「どうしていれてくれないのさ!?」

「ごめ~ん。なんだかみかんが食べたくなっちゃった。食堂にあるのとってきて~おねが~い」

「自分で取りに行けば……」

「出られないの~。おねが~い。みかん剥いてあげるから~」

「……わかったよ、しょうがないな」

 発電少女は再び食堂に戻ることになりました。だだだっと駆けていきます。そして食堂にたどり着き、机の上のみかんをかごごと引っつかんでいそいそと戻ってきました。

「はい、これでいいでしょ!入れてちょうだいよ」

「いいよ~」

「ちょっと待った!」

「ええっ!?何?」

「ホタテ入りクラムチャウダーのインスタントのやつ、が、欲しいな」

「自分で取りに行ってよ!てかさっき言ってくれたらいれてきたのに!」

「いま思い付いたー。私はこれのなかにいる。あなたはそとにいる。そこは寒いがここは暖かい。でもあなたはまだこの暖かさを知らないから寒さに耐えられる。いっておいで」

「いっておいで、じゃないし!作ってきたらいれてくれるんだよね?」

「もちろん」

 だだだっと、みたび走り去る発電少女。彼女はきっとこの四人のなかで序列が一番下なのでしょう。社会的な繋がりが出来にくい(注:いままでの発電少女研究による一般的な解釈によれば、基本的には発電少女が何人集まろうとも政治的指導力、権力を有する個体が出現することはありません。ただし稀にその限りではない特異な個体が出現することがあります。詳細は『よくある質問:発電少女の社会性』を参照のこと)とされる発電少女ですが、少なくともこの発電所においては小学校児童間に見られる程度の社会性(注:特定の個体で群れる、けんかをする、他個体のために行動することがある等)は観察されています。今の彼女らの関係は姉妹関係が一番近そうですね。

 姉妹に酷使されると言えば、あくまで私事ではあるのですが、私が幼い頃に一度、姉にジュースを買ってこいと言われて使いっ走りをさせられまして。そのジュースの名前がどうも珍妙な上にどこにも売っておらず、仕方なく別のものを買っていったら殴られてまた買いにいかされて、本当に見つからなくて泣きながら帰ったところ姉がジュースの名前を間違えていたということがありました。おかげでここに就く以前に勤めていた会社では上司に何度も確認を、それこそ注意を受けるくらいにするようにしていました。もう二度と人の勘違いに踊らされるようなことはごめんですね。

 ちなみに私のこの経験が一応発電少女発電所の職員マニュアルに活かされています。意外かもしれませんがそれなりに社会で役立つ内容になっているはずですので新人職員の方にはもちろんそうでない方にも一読を奨めます。

 おお、クラムチャウダーを持った発電少女が戻ってきましたね。目に覚悟がすわっています。すなわち、もう絶対にこたつに入るんだという覚悟です。

「はい!どうぞ!スプーンも持ってきたよ。水がいるならこのコップの水でどうにかしてねっ!」

 ダァンっ!とはなりませんでしたがそれなりに力強くカップが置かれました。

「わあ。ありがとう、気が利くね」

「そりゃどうも。もう私も座るからね」

「なあ」

「嫌だ!!絶対に行かない!!!」

「そうか」

 なにか提案しかけた発電少女をなにも聞かずに退けました。これが覚悟です。

「さっきあなたがアイスを仕舞ったところはもしかして冷『蔵』庫じゃないかい?アイスは冷『凍』庫じゃないと溶けるからもしそうなら絶対後悔するぞ」

 それから彼女は再び食堂に走り、素早くこたつに戻ってきました。手にはアイスを持っています。

「ふっ、ふふふっ……もうさすがに邪魔されることはないでしょ。アイスはちょっと溶けかけだけど、今食べちゃえば問題ないし、ちょうど運動して暖まってたところだし。これが暖まるものなら風邪を引く心配もないのさ。ふふふふ」

 若干壊れぎみですが、ようやく彼女もこたつに入ることができました。さんざん走っていたのですでに暑そうですが、ここまで来たら意地のようです。彼女のアイスはバニラ味のカップアイス、その中でも少し高めの価格設定で有名なアイスですね。カップを取った中身は確かに少し溶けています。

「それじゃあ、いただきます」

 発電少女がアイスを口にしました。

「んっ!?」

 二口目が運ばれるまでに時間はかからず、しかし三口目までは少しスパンが開きました。

 どうやら気がついてしまいましたね。こたつとアイスの相性に。

 冬に溶けかけのアイスを少しずつ口に運び、冷たさ、甘さ、暖かさをすべて味わうことのできる禁断の組み合わせです。一度はまればその束縛から逃れることは難しく、大抵の人間はそのまま風邪、体重増加、禁断症状に悩まされることになります。その症状が消えるのはいい加減暑くなってくる五月頃であるというくだらない研究レポートが昨年提出され少しだけ話題になりましたから知っている人も多いのではないでしょうか。

 黙々とアイスを食べ、食べ終えた彼女はふぅと息をつくと後ろ向きにばたり、と倒れました。

「はぁ。しあわせ」

 発電少女に幸せの概念が正しく理解されているのかどうかは甚だ謎ですが、ともかく彼女はそう感じたようです。気がつけば他の個体は三人とも寝てしまっています。ここで彼女が三人を起こさなければ三人は風邪を引いてしまうことでしょう。

「……」

 彼女も寝てしまったようです。どうしましょうかね。放送で起こすのも無粋ですし、他の発電少女に起こしてもらうのを待ちますか。他の発電少女は何をしているのでしょう……ほとんど全個体が大浴場にいますね。しかも半数は湯船に使ったまま寝ています。これでは彼女らが起こされるのは当分先になるでしょう。

 ま、どうにかなりますか。風邪薬くらいならすぐに許可も降りますし、あんまり風邪も引かないようにしてもひ弱になるだけです。発電効率に甚大な影響があるわけでもありませんし、放っておきましょう。

 私のシフトももうそろそろ終わりですね。これを見ている皆さんはくれぐれもこたつで寝てしまうことの無いように注意してください。いわく赤外線では体の芯まで温まらないとか。あとは湯船で寝てしまうと起きたら湯が冷めきっていた、なんてことになりかねません。水温調節機の電源をオンにすることで防げますのでしっかりと確認することを奨めます。

 幸い、今の我々人類にとって電力は無限にあるに等しいのですから。


 こうして今日も、発電少女たちの何気ない生活のおかげで、地球は明るく輝いているのでした……

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