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 秋の初め。一時不安定であった外気温は少し肌寒さを感じるような秋らしいものになりました。それに合わせて発電少女たちの暮らす部屋のエアコンの設定温度も変更され、温度が高めの冷房に切り替わりました。季節が移り変わりましたがわれわれ人類の電力消費量は依然大きいままでしょうから、彼女らにはこれからも通常通りの発電を行うことが求められます。さて、そんなわけでいつも通り外で元気に遊ぶ発電少女たちのなかに、夏は外にいるのをあまり見かけなかった個体がそれなりに外に出てきています。涼しくなったからでしょうね。少し注目してみることにしましょう。


「じゃあ鬼を決めるよ~」

「私が一番大きいし、私が鬼でもいいよ?」

「いや、ここは公平にじゃんけんをするのが絶対良いよ」

「そうだな。じゃんけんなら一回の試行ごとにどんな手が出ても勝率は全員にとって平等だ」

「難しいことはいいよ……アタマ痛くなるし。それよりそっちは何食べてるの?今からかくれんぼするんだよ?」

「ホタテパン貰ったから。美味しいんだよねこれが」

「ホタテか……秋が旬だったか?」

 あらあら、だいぶ集まっています。どうやら今からかくれんぼをするようですね。たしかにここの運動スペースはそれなりに隠れる場所もあって楽しそうです。

 なんと言いますか、人間の子供たちがそろって小さい端末に目を釘付けにして指をすいすいやっているこの時代に外遊び。時代の最先端を作っているはずの彼女らが昔ながらの遊びに興じるだなんて、数奇な話ですね。

「そんな馬鹿な、絶対、ありえないっ。チョキが負けるなど……」

「んじゃ、鬼よろしくね。その場で目をつぶって、一分待ったら始めて」

「では皆、隠れろ~」

 鬼が決定したようで、集まっていた発電少女は一人を残して皆散らばって、それぞれの発想力で思い思いの場所に隠れていきます。

 おや、こちらに向かってくる個体が居ますね。彼女は確かえっと……ああ、いつも四人で居る集団の中の、ちょっと空気が読めない子ですね。彼女らが形成する不完全な社会(注:発電少女が形成する社会関係は現在研究が進められており、ある程度我々の恣意により発電所内の社会は構成されています)において、我々によって『軽度の社会不適合』の烙印を押されている珍しい個体です。

 ちょうどよい機会ですし、今回は隠れている間の彼女の様子にクローズアップしてみましょうか。

「ふっへっへ、みんな頑張って隠れているなぁ。結局最後には見つかるのに、必死になっちゃってさ。だかしかし、私は絶対に見つからない場所を最初から知っている!」

 うわ独り言凄いですねこの子。しかも結構しっかり喋っています、誰に話しかけているつもりなんでしょうね。複数のマイクで拾う必要が無いので楽でよいのですけれど。

 社会不適合の発電少女は手前の植え込みの中に隠れようとしているようですが……そうですよね。その植物にはトゲがあります。潜り込むと怪我をしてしまいますよ。ほら、他のところを探してください。

 すると、思いが通じたのか、発電少女はふと閃いたように立ち上がるとその隣の木に向かって突進していきます。どうやら木(注:発電少女発電所に植えられている木は基本的に寄付されたもので、特別な事情の無い限りは花粉症の原因となりうるか否かということ以外にこだわりはありません)の上に隠れることにしたようですね。『絶対に見つからない場所を知っている』と言いつつ方針がぶれています。

「五十一、五十二……」

 鬼役の発電少女が動くまであと十秒もないことに焦ったのか靴(注:日本の発電少女発電所では靴の型は統一されています。ただし望むのなら装飾品などをある程度追加することができる規則です)と靴下を脱いで植え込みの後ろに放り投げ、社会不適合の発電少女は裸足で木の上まで這い上がりました。器用な登りっぷりです。

 木の中のカメラに切り替えて……と。

「ふい、危なかった。でもここならもう安心。これだけ葉っぱがあるし、座れるし。やった、絶対に見つからないぞ……」

 彼女が隠れたこの木は亜熱帯で広く見られる常緑広葉樹で、ガジュマルという名で知られています。俗にひげと呼ばれる発達した気根が特徴で、沖縄県の少年少女なら一度は手をかけてのぼった経験があるそうで。ここに植えられているものは発電少女発電による電力を使った研究の末、いくつかの亜熱帯植物を寒冷な気候に適応できるように改良されたもののうちのひとつで、改良の副作用なのか豪快だと話に聞く根は控えめであるといえます。

「見つけたぞ、絶対あそこだ……ほらな」

「あれ、見つかっちゃった」

「体が大きいからな。絶対的に見つけやすい」

「あはは……じゃあ次は私が鬼になるんだね。ほらほら、いつまでもここに居ないで他のみんなも見つけておいでよ。私が暇になっちゃうよ」

「絶対、すぐ見つけてくる」

 他の個体を見ている感じだとかくれんぼは順調に進んでいるようですね。ああ、楽しそうで微笑ましいです。カメラさえ切り替えればこちらからは簡単に全個体を見つけ出すことが可能です。

 ……ちょっとだけ探してみましょうか。えっと、ああ、こことここに、これもですかね?落ち葉に身を隠すとは考えたものです。ってんん!?鬼を尾行している個体が居ます。あえて至近距離に居ることで見つかりにくくしているのでしょうか。あ、見つかってしまいました。

 一緒に隠れていたり、あるいは見つかった仲間が尋問に屈したりして一度に複数の発電少女が見つかるのが興味深いですね。私もそういえば幼少の折には友人を売るプレイヤーだったような気がします。 ともすれば制限された環境下であっても、人間と発電少女にはある程度共通の社会性が見いだせるというのは本当だったようです。只野博士(注:発電少女を活用した発電の第一人者。発電少女発電協会ホームページにも簡単ではありますが紹介文を掲載しております)の論文は本物であると再確認させられます。

「なっ!なぜここが分かった?」

「私がアドバイスしたんだ」

「貝になりたい……」

 そんなこんなで発電少女たちは次々鬼に発見され残すところはあと一人。見ておくと言いつつ忘れていましたが、この社会不適合の発電少女だけですね。

「はあ、誰も見つけにこないのもやっぱり暇だ……。ここからじゃ他のところはよく見えないし、でもさすがにもうそろそろ他のみんなは見つかったかな」

 なんか一人で不安がっています。うまく隠れすぎることが問題になるのはなんとかならないのでしょうか。私にだって経験があります。そうですね、例えばそろそろ……

「なにしてるの?みんなで集まって」

「かくれんぼだよ~」

「ふっ。かくれんぼ、ですって?言い忘れていましたがわたくし、かくれんぼは大の得意ですのよ!」

「いや、君には何も聞いていないのだが」

「というより初めて見る顔だな」

「初めまして!好きなホタテは何?」

「えっ?なに、ホタテ、ですの?」

「初めて会うのにそんなことを聞くのは絶対変」

 あれよあれよと。

「それよりさ、いきなりよそから来て快く思わないかもしれないんだけど、ボクからひとつ提案があるんだ」

「どうぞ。あんまり堅くなさらずに」

「では遠慮なく。かくれんぼの代わりに、缶けりをしないかい?」

「缶けり?なんだそれは」

 あれは例の要注意個体たちですね。ボーイッシュな発電少女が缶けりの説明を始めました。

「それはいい。絶対面白い」

「ふむ、やってみたいな」

「じゃ、今から缶けりしま~す!」

「おーっ!!」

「ふっ。缶けり、ですのね。わたくしやったことはありませんが先程の説明で心得ましたわ」

「遠くに蹴る!これが重要なんだねユ……」

「しっ。それは三人だけのときにね……」

「そうだった……」

 おお、さすが改良型マイク。きちんと要注意個体たちの小さい声も拾っています。まだ台数は少ないのですが、設置を決定して正解でした。

「じゃあさっき負けた私が最初の鬼やるから、みんな散れー!!」

 わーっ、と散りゆく発電少女たち。

「……誰も探しに来ないな」

 そう、この展開に、社会不適合の発電少女はガジュマルの上で一人おいてけぼりになってしまうのです。

 かくれんぼというものは得てして見つかるくらいに隠れるのが暗黙の了解となっているもので、なぜそれが不文律たるかといえば、すなわち、見つからないとみんなが忘れてしまって永久に探されない子が出てきてしまうからなのです。

「でもなんか今ここを降りたら負ける気がする」

 不安を振り払うように気合いを入れ直す発電少女。こう思ってしまううちはまず見つかりません。現時点で鬼は行方不明の個体のことなど忘れており、虎視眈々と缶を狙う他の個体が彼女の不在にまで頭が回るわけもありません。

 そうして時間が過ぎていき、缶けりが二順したとき、少し変化がありました。

「ん?なんだこの靴は」

 缶けりをしているうちに隠れ場所として植え込みの後ろを選んだ個体が、木の上の個体が脱ぎ捨てた靴に気がつきました。もちろんその声は木の上まで聞こえています。

 おお、そわそわしています。上気した頬が少し赤みを帯び、身体を隠しながらも一生懸命に身を乗り出して下を見ようとしています。

 ようやく見つけてもらえる、という気持ちと、まだ見つかりたくない、という欲望が渦巻いているのでしょう。危なっかしいですね。そこから落ちたとしてあまり損傷は無いでしょうが、下手をすると私が始末書を書くはめになってしまいます。

 さて、落ちていた靴をしげしげと眺め始めた発電少女。将棋が好きという個体ですね。彼女は賢いとの報告を受けていますが、はたして木の上の個体に思い至るでしょうか。

「……少し星を散らしすぎじゃないのか。誰か知らんが、もう少し控えめにして他のを代わりにつけるべきだろうに」

 靴の装飾にダメ出ししただけでした。木の上の個体のことなど考えもせずに、好機と見たのか缶を蹴りに走っていってしまいました。

 缶がすこーん、と蹴り飛ばされて鬼役の絶叫が聞こえる中、木の上の個体はとうとうふてくされ始めました。そりゃそうです。これで缶けりに混ざるせっかくのチャンスが不意になってしまったのですから。

「自信作だったのに……」

 違いました。どうやら靴の装飾にケチをつけられたのが嫌だったようです。ガジュマルの太くて安定性のある枝に座ってぐずぐずしています。目の端に涙が浮かんでいますが、何やら真剣な眼差しです。

「大きな星にしたら……でもそれだと単純すぎかな。組み合わせる、とか……」

 ダメ出しの反省か、靴の装飾に関することを考えているようです。かくれんぼでこんなところに隠れたりすることからも考えて、負けず嫌いな性分なのでしょう。あまり表に出していないか、本人も気がついていないかのどちらかでしょうね。

 強いこだわりを持ちながら、それをもてあまし、結果として周りの雰囲気に合わせることを失敗する。

 普段の彼女が軽く社会不適合である理由がなんだか分かった気がします。

「……」

 おや?静かになりましたね。寝てしまいました。木の上で寝るのは危険だと考えられます。仕方がありません。本来ならあまりよろしくないのですが、こちらから声をかけて他の子たちに起こしてもらいましょう。

 ピンポンパンポーン。

『えー、みなさんこんにちは。今日の管理人さんです。植え込みの隣の木の上で寝ている発電少女が居ます。落ちるとケガをするので起こしてあげてください』

 自分の声がモニター越しに聞こえてきて変な気分です。

 放送の声に反応して発電少女たちが動き始めました。缶けりをしていた子たちから、いつも木の上の個体と一緒にいる三個体と要注意個体の中でも体格の大きい個体、そしてそれ以外の個体も何人か木の下に集まってきています。

「あ~、いるね~」

「木の上で寝るだなんて、絶対ばかだね」

「誰か木に上れる?」

「私には少し無理そうなの」

「なら、私がやってみよう」

「ここで落ちてけがをしてもめんどくさいよ」

 じゃあどうしたら、と考え込み始めた発電少女たち。まさか木に上れる個体が居らず万事休す、とはなりませんよね。

「ふっ。何を悩むことがありますの?」

「何か案があるの?」

 よくぞ聞いてくれましたの、と、ふぁさっと髪をかきあげようとして、運動用に髪を束ねていたことに気がついたのかあわてて何でもないようにごまかしたのは要注意個体です。彼女が木に上れるとしたら相当なものですが。

「下から呼べば良いのではありませんこと?おい、だのえい、だのいくらでも呼び方はありますわ」

 それはそうですが、嫌な予感がしますね。

「絶対驚いて落ちると思うよ」

 それです。

「やってみなきゃ分かりませんわ」

 そういった彼女がすっ、と息を吸う音をマイクが拾いました。周りの反応を見る限り、相当大きく息を吸ったようです。

 そして、モニターの前の私はもちろん周囲が止める間もなくそのまま肺にたまった空気を音にして吐き出さんとし、

「起きてくださぁぁぁい!!」

「はっ!?」

 ビリビリとマイクに響く音量の絶叫が聞こえる響き渡りました。同時に、木の上のカメラに映っていた発電少女が文字通り飛び起きました。

 そして、案の定と言いますか、勢いでよろけて転落し始めました。ああ、始末書を書くことが決定してしまいました。本当に当たりどころが悪くて発電不能になってしまったらどう弁償したらいいのか検討もつきません。

 カメラから社会不適合の発電少女の姿が消えました。もうおしまいです。

 と、思ったのですが。

 驚きのあまり無言で落下した発電少女は、彼女を起こした要注意個体によって抱き止められました。要注意個体はそのまま落下の勢いを受けてくるくると回り、仰向けに倒れこみました。きりもみ落下と同じ原理です。これなら彼女たちのどちらかが怪我をしたとしても軽傷ですむでしょう。

「ふっ。まさか本当に落ちてくるだなんて、おばかさんですのね。私が重いものを受けとる練習をしていなければどうなっていたことか」

「……」

 なぜそんな練習をしていたのでしょうか。今の場面以外ではおそらくあまり役に立たない技能です。

「黙っていないで、何か話してはどうですの?こう見えてもわたくしとても寛大ですの。怒ったりなんかしませんわ」

「あのさ、ボクはキミが抱きしめたままだから喋れないんじゃないかと思うんだけど」

「あら。これは失礼いたしましたわ」

 ボーイッシュな発電少女の一言で、落ちてきた発電少女は受け止めた発電少女の胸からようやく解放されました。もしかすると呼吸に困っていたのかもしれません。

「えっと、その。ありがとう……」

 あ、この発電少女まんざらでもなさそうです。確かにしっかりと抱きついていましたけれど、自分にはないものの感触はそんなに気持ちのいいものであったのでしょうか。

「ふっ!いえいえ、わたくしの手にかかればチョロいものですのよ!それより、お怪我はありませんこと?わたくし、こんなときのために絆創膏ももっていますの!」

 まんざらでもないといえば、受け止めた発電少女の方もそうです。以前別の支部で管理していたとき彼女に軽い社会不適合が見られたとは聞いていますが、その反動というものでしょうか。他個体に頼られるのがたまらなく嬉しいようです。

「あ、そういえばこの靴は君のか?」

「そ、そうだよ。ちょっと星が多いかなーって思っていたところなんだ」

「そうでしたの?わたくしはすてきだと思うのですけれど」

「私はもう少しハートを増やすべきだと思うわ」

「とりあえず早く靴を履いてよ。絶対缶けりを再開する時間が無くなる」

「今誰が鬼だったっけ~?」

「む、そういえば記憶にないな……」

「まあ、いろいろあったのだし、もう一度じゃんけんをしなおすのがいいわね」

「それなら私たちも混ぜてほしいの」

 わいわいがやがや。全個体無事だったおかげで始末書を書く必要が無くなって、発電効率も落ちずに一石二鳥、すばらしいです。さて、特に報告することもなさそうですし、今日はぴったり定時であがることにしましょう。久々に娘と顔をあわせて食事ができます。要注意個体の大きい方には感謝しなくてはなりませんね。


 こうして今日も、発電少女たちの何気ない生活のおかげで、地球は明るく輝いているのでした……

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