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陰陽高校生 大戦記 後日譚:年明け~未来への願い~

作者: 風間 義介

 本当だったら、大晦日か元旦に投稿したかったのですが、ずれにずれて二日に投稿する(こんな)ことにorz

 遅ればせながら、新年のあいさつをば。

 謹んで新年お慶び申し上げます。本年もよろしくお願い申し上げます。

 大晦日。

 二十四に分けられた節気を十二の月にまとめ、そして新たな一年のめぐりへとつなげるための最後の日。

 その日の夜、勇樹は一人、この町で唯一、あの戦いでの被害を逃れた土御門神社の鳥居の前に立っていた。

 到着してから少し待っていると、数少ない友人であるニコルと耕介がやってきた。が、肝心の発起人である女子三人は一緒に来ていなかった。

 「……桜たちは?」

 「うん?一緒じゃなかったのか?」

 「あぁ……お前らと一緒に来るのかと思っていた」

 勇樹の問いに答えた耕介は、顔に疑問符を浮かべ、逆に勇樹に問いかけてきた。勇樹は半ば眠そうな目を耕介に向けながらそう答えた。

 ニコルは両手を合わせて口の前まで持っていき、少しの間、目を閉じて何かを思案していたが、すぐに何か得心したようで。

 「……あぁ、なるほど。ま、少しすれば来るんじゃない?」

 と、一人だけすっきりとした顔でそう返した。

 耕介は、それもそうだな、とつぶやき、勇樹と同じく鳥居に背を預けた。一方の勇樹は、さっさと温まりたい、とでも言いたげな顔をし、それでもなお、鳥居に背を預けていた。

 理由がわからないでもないのだ。

 何しろ、集合時間が大晦日の二十三時、集合場所は神社なのだから。その時点でカウントダウンと初詣を一緒に行おうという魂胆であるということは、すぐにでも理解できる。そこから推測するに、おそらく晴れ着を着てくるのではないだろうか、という推理ができる。

 その着付けのために時間を取っているのだろう、ということも。

 「……ふぅ……」

 勇樹はあくび交じりに、そっとため息をつき、空を仰いだ。

 わずかばかりの街灯と、月の光のおかげで真夜中近くであるにも関わらず、比較的、明るい夜道なのだが、かつてのような明るさではないためか、星の光がしっかりと見える。

 しかし、勇樹の心はその光景に対する優雅な感想ではなく、明日は寒いだろうな、という未来(あした)の予想とそこに付随する苦労しかなかった。

 そんな感想を抱いていると、勇樹の予想とは別の方向から、待っていた女子三人の声が聞こえてきた。

 「ごめんね、着付けに手間取っちゃって!!」

 「ごめん!ちょっと遅れた!!」

 「晴れ着の着替えに時間取っちゃって遅れちゃったの。ごめん!!」

 その、三者三様の声が響いてきたのは、ニコルと耕介が来た方向ではなく、今まさに自分たちが背を預けている鳥居の向こう側からだった。

 なぜ彼女たちがそちらの方にいるのか、こちらのほうはなんとなく、いや、ほぼ間違いないと確信できる予想があるので、勇樹は特に文句を言わず、彼女たちの方へと向かっていった。

 「……ほれ、さっさと行こうぜ。護と風森を待たせるのは申し訳ないし」

 「そうだね。込み合う前に、早く行っちゃおう」

 「だな~冷えちまったから甘酒、飲もうぜ」

 と男子三人がさっさと境内へ向かおうをする態度に、憤りを抑えることのできない女子が一人いるわけで。

 「ちょ……ちょっと!!なんかないわけ?!『可愛いねぇ』とか『きれいだ』とか!せっかく苦労して晴れ着に着替えたのに!!」

 さっさと歩を進める男子の背に向かって、彩の怒りを孕んだ声が響いていた。

 むろん、彩はその後、この神社の管理を任された同い年の神職によって、しこたま絞られたということは言うまでもない。


----------------------------------------------------------------------------------------------


 勇樹たちが合流する少し前。

 護は初詣の準備に追われていた。

 月美も手伝いを買って出たのだが、雪美によって強制的に晴れ着の着付けに連れていかれてしまった。

 そのため、実際に準備をしているのは、()十二天将(式神たち)だった。

 「……っし、お守りはひとまずこれくらいで足りるだろ。あとは……」

 お守りやおみくじの支度を整えた護は、あとは何を準備すべきか脳内で整理し始めた。

 ――販売するものはこれで終わったから、あとはそれ以外で必要になるものか……毎年恒例の甘酒は、今、自治体の人が作ってくれてるし、修祓(しゅばつ)は実質、明日からだし……

 自分の人差指をこめかみに、とんとん、とリズミカルに当てながら思考をめぐらせていると、翼の声が背中越しに聞こえてきた。

 「護。ひとまず、ここは大丈夫から、友達のところに行ってきなさい」

 「え?大丈夫なのか??」

 「十二天将たちもいる。ひとまず、カウントダウンが終わるまでの時間は持つさ」

 翼は穏やかに微笑みながら、無言で行くように告げた。

 許可が下りた護は、少々後ろ髪引かれる思いではあったが、約束を優先させるために、神職の装束をまとった状態で、境内へと出た。

 境内に出た瞬間、聞き覚えのある声が鳥居の近くから聞こえてきた。

 「ちょ……ちょっと!!なんかないわけ?!『可愛いねぇ』とか『きれいだ』とか!せっかく苦労して晴れ着に着替えたのに!!」

 視線を向けると、せっかく美しい晴れ着をまとっているというのに、その形相で台無しにしている彩と、それに追いかけられている耕介が目に入った。

 ――あの二人が来てるってことは、勇樹たちも来てるな……てか、大晦日でしかも深夜帯ってこと、忘れてないだろうな?

 その、ある面ではほほえましい様子を見た護は、一個人としての心情ではなく、あくまでここ「土御門神社」の管理を任されている――正確には、任されることになる、なのだが――人間として、これ以上の迷惑行為はやめてほしい、というのが正直な心情なのだ。

 そのため。

 「おい、今、何時なのか、わかってるか?」

 殺気のこもった視線を彩に向けながら、声を低くしてそう問いかけてしまった。

 声をおさえるだけで十分に威圧的であるが、その眼に殺気が宿ると、もはや注意勧告ではなく最終警告以外に他ならない。

 彩は、申し訳ありませんでした、と一瞬でしおらしくなり、護に頭を下げた。

 護はその様子を見て、わかればよろしい、と声色と殺気をおさえた。

 そのタイミングを見計らったかのように、護の背に向かって護の名を呼ぶ少女の声が聞こえてきた。

 護の方に視線を向けている彩、リーネ、桜の三人はぱっと輝かしい笑顔を見せ、声のした方へと向かっていった。

 「ちょっ!三人とも、やめ……」

 「うるさい!遅刻しちゃって、この惚気~!!」

 「の、惚気って……惚気てないもん!!お仕事手伝ってたんだもん!!というか、お仕事の衣装に着替えてたんだもん!!」

 彩が背中から抱き着いてくることに、どこか恥ずかしさを覚えたのか、巫女装束をまとった月美は、顔を赤くしながら、反論を繰り返していた。

 護はその光景を見て、そっとため息をつき、彼女たちが着た方向へ目をやった。そこには、数か月前、ともに戦った友人たちがいた。

 護は彼らに近づき、片手を上げた。すると、耕介がそれに答え、片手を上げた。

 「待たせちまったな。悪ぃ」

 「すまんな、わざわざ」

 「いやいや。それよか、あいつ止めないと、お前の彼女の貞操が危ないぞ?」

 耕介に言われ、護は月美たちのいる方に視線を向けた。

 すると、その視界には、顔を真っ赤にし、何かに耐えるような表情を浮かべながら、装束の隙間に手を突っ込まれている月美が入り込んできた。

 それを見た瞬間、護の中の"何か"が盛大にぶちぎれる音が聞こえてきた。

 そして、耕介とニコルは、これまでに感じたことのない、どす黒い何かを見にまとわせた護が無言のまま彩に向かっていく様子を見て、なぜか、脳裏に経文が浮かび上がってきていた。


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 カウントダウンを終え、護たちは拝殿の前に立っていた。カウントダウンはあくまで目的の一つであり、ある意味でもう一つの本命である初詣をしている最中なのだ。むろん、護と月美は土御門神社の神職とはいえ、順序は守っている。

 十円玉を賽銭箱に投げ入れ、鈴をじゃらじゃらと鳴らす。

 その後、二礼、二拍、一礼。

 その間、手を合わせたり、することはない。本来、これが神社を訪れたときの正しい作法であり、手を合わせたまま、長い時間、心のうちに願い事を唱えるのはあまりよろしくない。

 が、何も願っていないわけではない。

 二礼のあと、顔を上げたとき、護の視界には巫女装束をまとっている月美の姿があった。

 護はその姿を見て、どこか神々しさや美しさを感じていた。

 何度も言うが、決して惚気ているわけではない。それだけ、護は心の底で月美のことを思っているということに他ならない。

 思えば、結ばれないかもしれないことが当然だった月美と、こうして想いを通わせ、両親がいるとはいえ、一つ屋根の下で暮し、ついには婚約することまで誓う間柄にまでなれたのだ。それは、数年前であれば、想像することすらなかっただろう。

 だが、月美との縁はこうして確かにつながれ、それは今もなお続いている。

 だからこそ、願わずにはいられないのだ。

 これから先、幾星霜の時間が過ぎようと、たとえ、彼女を置いて永遠(とわ)に近い時間を過ごすことになろうとも、今、隣にいるこの少女(大切な人)だけは、何が何でも守り抜きたい、と。

 だが、護がこの社の神に祈ったのは、全く別なことだ。

 いや、まったく、というべきではないだろう。

 願うのはただ、彼女との日常が平穏であってほしいということ。彼女がどうか、穏やかに暮らしていけるように、と。

 参拝を終え、護と月美は並んで拝殿の前から降りていった。

 「ね、護。何をお願いしたの?」

 「……月美。それ、わかってて聞いてるだろ?」

 隣に並び、幸せそうな笑みを浮かべながら問いかけてくる月美に、護はやさしげな、しかし困惑したような微笑みを浮かべ、逆に問いかけた。

 会話とも言えないような言葉のやり取りをする中、二人は互いの手をしっかりと握っていた。

 離さないように、離れないように。


 ――離れたくない、離したくない。ずっと隣で笑っていてほしい。

   ほかに何もいらないわけではない。

   けれども、自分の心を満たすために、自分が"生きている"と実感するために。

   どうか、この人の笑顔が曇らないように。笑顔を曇らせるような怖いことが怒らないように。

   ただそれだけが、未来への願いごと。

   どこまでも続く明日(未来)に紡ぐ、唯一の願い。


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