閑話 (天野光希視点)
本日は天野 光希君の目線
誤字、脱字などありましたら、教えて下さい。
また、感想などもお待ちしております。
目を覚ますと、そこは、何も無い真っ白な空間だった。そこに居るのは自分1人、生徒会の仕事をするために使用許可を得ていた教室は、見当たらず、人工物や自然物、果ては空や地面までも存在していなかった。
(ここはどこだ?皆は?)
「どうやら起きたようだな。」
状況を掴めず、混乱していると、男の声がした。しかし、その姿は見えず、唯、声ばかりが聞こえてくる。
「現状を理解出来ず、戸惑っているところ申し訳ないないが、まずは落ち着いて聞いてくれ。」
男の声が慌てる自分を諫める。しかし、俺には、直ぐにでもこいつに問い質す必要があった。
(オイッ!他の皆はどこだ!!答えろ!!)
「質問をしている人が居るが、それに答えることは出来ない。時間が迫っているのでね。因みに、君達の居た教室の全員が同じ状況にある。身の安全は保証するので、話が終わったら会うことが出来るだろう。」
(良かった。皆は無事なんだな。)
「それでは、ここがどこか、私が何かについて話そう。」
「理解し難いだろうが、世界というものは、決して1つでは無い。何千、何万という数の世界が存在おり、世界は互いに干渉することなく、一定の間隔を保ち、接触することは無い。ここは、先ほど述べた間隔で、世界の狭間と呼ばれている。私は、世界を創造した神の眷属であり、ここの管理を任されている。」
(神様って本当に居るんだな。)
「次に君たちがこんな場所にいる理由だ。数多い世界の1つ、君らとは違う世界が崩壊の危機にある。その世界の住民は、危機を脱するには自分達だけでは力不足と判断し、異世界から救世主を探して呼び出すことになった。」
(俺達は、その救世主って奴として呼ばれたってことか)
「救世主を異世界から召喚する。それだけなら良かったのだが、魔方陣の組み立てが甘かったのか、救世主達と共に複数人が召喚されてしまった。我が主たる神は、君らが、召喚の際、この空間を通る時間を千倍にし、巻き込まれた者のための説明と、複数人の転移により生じた空間の歪みを直すために私を派遣したのだ。」
(巻き込まれた奴がいるだって?)
「いくら引き伸ばしたとはいえ、あまり時間は無いのだ。ここからは此度の出来事についての我が主の考えを話す。気づいている者もいるだろうが、君らは言葉を話せないようにしてある。静に、忘れぬよう聞いてくれ。」
「巻き込まれた者には申し訳ないが、今すぐ元の世界に返すことは出来ない。しかし、君らの行く世界を救済したのならもちろん、例え、失敗して崩壊となっても元の世界に戻すことを約束しよう。また、帰還の際は、元の世界の君らが召喚された時間に送るので、知り合いを心配させることは無い。今回のことを覚えてもらっては困るので、帰還と同時に記憶を消すことは、了承して欲しい。」
(巻き込まれた奴を元の場所に返して欲しかったが、こいつに文句を言っても仕方がないか。家族が心配することは無いみたいだし。)
「あと、召喚先の世界では、結して死なぬよう努力してくれ。死んでしまったら、元の世界に帰還することが出来なくなり、存在が元の世界から消されることになる。」
(なっ?死んだらそこで終わりってことかよ!?)
「伝えることは以上だ。暫くすると、向こうの世界に着くだろう。私が君らを手伝うことは出来ないが、無事に帰還出来ることを祈っている。それでは、全てが終わりし時、また会おう。」
男の声が聞こえなくなる。行き先は未知の世界、日本よように安全ではなく、死ぬ可能性がある世界だ。でも、誰も死なせる訳にはいかない。1人残らず、皆で帰る。そう考えているうちに真っ白な空間が目が痛く成る程の光を放ち、あまりの眩しさに俺は目をつぶった。
◆◆◆◆
気が付くと、俺は、日本では考えられないような大きな部屋にいた。先ほどの何も無い空間ではなく、生徒会の仲間やクラスメイトの姿も確認できる。
床は大理石、屋根を支える柱や壁には、きらびやかな装飾が施され、部屋の奥へと続くレットカーペット、その終着点には、豪華な台座がある。まるで外国の宮殿に来たかのようだった。
「初めまして、異世界から召喚されし救世主様。」
ぼんやりしていた所に声を懸けられる。聞こえた方に顔を向けと、そこには綺麗で可愛い女の子がいた。
彼女は、クレリア・バルダム・トゥアール。異世界召喚が行われたトゥアール王国の第一王女で、王国に仕える宮廷魔法士って人達と救世主を呼ぶ魔法を使ったという。
さっきも言ったが、とても綺麗で可愛い容姿をしている。純日本人の俺には、彼女の輝くような金髪や吸い込まれてしまいそうな緑色の瞳が新鮮に写った。
「皆様、突然のことで、驚いておられると思いますが、それについては、このトゥアール王国の国王たる我が父から説明があります。父上、どうぞ。」
「うむ、よくぞ参られた。異世界の民達よ。儂は、この国の王、ハイオリア・バルダム・トゥアールである。いきなりですまないが、落ち着いて聞いて欲しい。今、我が世界は、崩壊の危機にある。しかし、それは儂らだけでは、手に負えない事態と成っていおり、他国の代表との会談の結果、王家に伝わる魔法書の召喚魔法によって、救世主の素質の有る者を異世界から呼び出したのだ。」
いきなりで 突拍子な話だが、その前に神様の使いの説明があったからか、皆慌てることなく、王様の話を聞いている。
「救世主達よ、どうか、儂らに力を貸してくれまいか。其方らの助力が必要なのだ、頼む。」
「お願い致します。救世主様。」
王様と彼女が俺達に頭を垂れる。それに合わせて、周りに控えていた人々も頭を下げた。彼らは返事を待っているはずなので、ここは、俺が答えるとしよう。
「王様、頭をあげてください。他の皆様も。」
言葉を発しながらチラリと皆を見る。どうやら、対応は俺に任せてくれるようだ。安司達3人が後ろに下がったのが気になるが。
さて、相手は日本の天皇陛下のような存在だ。言葉遣いには気を付けないとな。あの事についても話さないといけない。
「先ほどの話ですが、私達は、そちらに協力します。しかし、叶えて欲しい願いが有るのです。」
「ありがとう。協力、感謝する。して、願いとは何であろうか。巻き込んだのは此方なのだ、何でも言うといい。」
(気前が良くて助かった。)
「まず、私達の衣食住を保証し、皆様と対等に扱うこと。次に、この世界の現状について嘘偽り無く話すこと。あと、この異世界召喚際、巻き込まれた者がいるようなので、その人に戦いを強要しないことです。」
(救世主は戦う素質があるかもしれないが、巻き込まれた奴は救世主以上に戦えない可能性が高い。皆で帰る為にもそいつらを戦場に出す訳にはいかない。)
「2つの願いは、もちろん叶えよう。だが、最後の願いは、どういうことなのだ?」
「御父様、救世主の召喚は、本来は4人、多くても5人のはずでした。しかし、ここには10人もの救世主様がいるのです。あと、救世主様に質問致します。突然の召喚にも関わらず、皆様は、落ち着き過ぎており、まるで、状況を理解しているようでした。ご説明頂けますか?」
「分かりました。全て説明しましょう。丁寧な言葉遣いに慣れていないため、気分を害されるかもしれませんが、許して下さい。」
「よいよい。どうせなら丁寧な物言いを解いても構わぬぞ。」
「それは、ありがたい。堅苦しい言葉は、苦手なんだ。」
~~~~少年説明中~~~~
「なるほど、神の手を煩らわせてしまったか。」
「元の世界に帰れることが決まっている。ゆえに、私達に協力することを即決なさったのですね。」
「まぁ、それもあるけど、困ってる人がいたら助けるのは普通のとだろ。」
やっと説明を終えることが出来た。皆は椅子に座っており、安司なんかは呑気に欠伸をしている。あいつは居眠りで有名だ。あっ、そういえば気になることがあったんだ。
「そうだ、クレリア。俺達の中から救世主とやらを探す方法は有るのか?」
「クレアでいいですよ。識別の方法は有ります。話も一段落したので、試して見ましょう。」
クレリア、いや、クレアは俺との会話を一旦切り、俺を含めた皆に話し懸ける。薫が不機嫌そうなのは何でだろ?
「皆様、お待たせ致しました。世界の狭間と呼ばれる空間での出来事はコウキから教えてもらいました。これから救世主の選別を行いたいと思います。この世界には、ステータスというものがあり、個人の能力値や職業を示しています。これは、基本的には本人しか見ることは出来ません。見せることを了承すれば、カードとなって出現し、他人に見せることが出来ます。此方で確認する為にも"ステータス"と心で念じ、カード化させてください。救世主の方には、職業の欄に個人の職業名と救世主の文字があるはずです。」
ステータス?ゲーム好きな友達がその単語を言っていたことがあるが何だったっけ?英語のstatusなら意味は地位や身分、状態だったはずだけど?
「すいません、クレリア様、この世界での能力値の平均とか有ったら教えて欲しいぜ。」
「能力値の平均ですか?確か、戦うことの無い国民の成人の平均が10程度、王宮の近衛騎士の平均が200前後だったはずです。」
「ありがとう、分かったぜ。」
能力値、つまり能力の値と言うこと。力の強さが数字で表せれているのかもしれない。まぁ、見てみれば分かることだ。
俺は頭の中でステータスと念じた。
天野 光希《あまの こうき》
種族:人間
性別:男
職業:勇者(救世主)
年齢:17
<レベル>1
魔力:110
攻撃:100
防御:90
俊敏:105
【固有スキル】
・言語理解 ・アイテムボックス
・成長促進:仲間
【スキル】
・四大属性(火・水・土・風)解放
・雷属性解放 ・氷属性解放
・光属性解放
【称号】
・王道を進む者
・不屈の精神
【所持金】無し
おっ、どうやら俺の職業は勇者らしい。
◆◆◆◆
自分のステータスを確認して顔を上げると、既に皆は、クレアの方を向いていた。どうやら俺が最後だったようだ。なんだか安司達が悲壮感を漂わせていたが、とりあえず、俺もクレアと目を合わせる。
「皆様、確認は終わりました?それでは、ステータスカードを回収致しま」
「その必要は無いよ。クレリア王女。」
「・・・確か、皇崎様でしたか。すいません、説明して頂けますまさか?」
「フッ、説明も何も、僕が救世主、しかも勇者だということさ。」
へ~~、誠も勇者か。勇者ってよく有る職業なのかな?
「皇崎様が勇者様なのですか?」
「二度も言わせるな。そうこそ、僕こそが勇者だ。この世界も僕が有能であることを理解しているようだ。さぁ、王女よ。勇者たる僕に、それなりの対応はしてくれるんだろうな。」
「皇崎様、私達は、世界の崩壊に備え、様々なことに力を裂いています。精一杯の努力は致しますが、我が王国も贅沢をするほどの財力はありません。」
「おいおい、僕は勇者だぞ。僕の言うことを聞かないと協力も止めちゃうけど、それでもいいのかい?」
「そうだ、誠さんは、勇者なんだ。言うことを聞け!!」
「この世界がどうなろうと、俺達は、知ったことじゃないんだぜ!!」
「そんな!!困ります!!」
誠の奴、何を言ってるんだ!!クレアは困っているし、元の世界に帰るには皆の協力が必要なんだぞ!!
「やめろ!!誠。王様には、俺達を対等に扱うようにお願いしたんだ。それには、捕虜のような扱いをされるのを防ぐだけじゃなく、特別扱いしないことも含まれているんだぞ!!」
俺の言葉に対して、誠は勝ち誇ったように言葉を返す。
「五月蝿いぞ、天野。勇者たる僕は、格下の存在に意見される筋合いは無い。喜べ、やっと格の違いというやつを知ることが出来たんだからな。」
「そんなものは、関係ない!!それに、勇者はお前だけじゃない、俺も救世主、そして勇者だ!!」
勇者が偉いのかどうか知らないけど、それを利用する誠を諫めるには、俺も名乗るしかない。
「コウキも勇者なのですか!?」
「ッッッ!?出鱈目を言うな、天野。勇者はこの僕1人だ!!」
「ステータスカードには、救世主、そして勇者と書いてある。クレア、確認してくれ。」
ステータスカードを実体化させ、クレアに渡す。
「分かりました。皇崎様もカードを。・・・・・驚きました。勇者が2人も居るなんて!?」
「なんだと、よく見ろ!!そうなことあるはずないんだ!!」
「落ち着け、誠。クレア、勇者ってのは、何か特別なものなのか?」
「はい、勇者は、他の救世主を率いて、皆の前に立つ者の職業です。救世主達のリーダーと言えるでしょう。」
「チームキャプテンみたいなものか。」
「きゃぷてん?まぁ、兎に角、重要な人物です。」
キャプテンなら皆をまとめる者として責任有る行動をしなければならない。
「誠、さっきからの発言は認めることは出来ない。お前も同じ役割を得たんだ。人をまとめる者は、他のメンバーの模範となるよう行動するのは、当たり前だろ。」
「・・・・・・・」ギリッ!!
誠が反論することなく黙る。異世界という異常にて充てられて、調子を崩しているだけだろう。一晩休んで頭を冷やせば、冷静になるはずだ。
「さて、皆様、お騒がせしてすいません。予定通り、カードを回収します。」
クレアが皆のカードを回収していく。巻き込まれた奴は、職業に救世主の文字が無いから、これで戦わずに済むのが誰か分かるだろう。薫や鈴が救世主でないといいが・・・
「それでは、皆様。様々なことがあってお疲れしているはずです。夕食を用意が出来ているので、案内します。食後は、各人に1つ、部屋を用意してあるので、そこでお休みください。カードについては、後程、給仕の者を部屋に向かわせます。その者に従って、書斎へ来てください。」
招かれて行った広間には豪華な食事が用意されていた。薄味な気もするが美味しい。ふと、暫くは日本食が食べられないことを考えると、無性に味噌汁が食べたくなった。
食事の後は、給仕の人に案内されて貸し与えられた部屋に入る。することも無いのでベッドの上で他の皆はどうしてあるかな?これからどうすんだろな?なんて考えながらゴロゴロしていた。だいぶ時間が経ったころ、給仕の人の声が掛かり、俺はクレアの居る書斎へ向かうことにした。