チートと忘れ物と
激しい光に対してとっさに目を瞑る。光が弱くなるのを感じてから目を開けると、そこは自分達が居た部屋ではなく、かつて見たことのある真っ白な空間だった。
「ここは、世界の狭間?」
「残念ながら少し違うよ。」
「「「ヒヤッッ?」」」
突然後ろから声が聞こえたことに驚く3人。振り替えると異世界召喚の際に会った、狭間の管理者なる男が立っていた。
わざわざ後ろから声をかけたことに悪意を感じるが。
「驚かせて悪かったな。君達なら良いリアクションをしてくれると思ってね。」
「「「・・・・・・・・」」」
男は3人の目線を受け流し続きを話す。
「それに、君達も悪いのだぞ。メッセージに気づくのが遅いから何時間もここで待っていたのだ。」
「まぁ、それについては、謝るぜ。」
「うむ。嗚呼、それと、ここは世界の狭間ではない。ここはこの世界、ディスガイヤの神域と呼ばれる所だ。神の住む場所と言えばいいかな? 」
「は、はぁ。それで、僕達に用事が有ると?」
「その通り、しかし、話をするのは私ではない。君達と話をするのは、我が主、創造神様だ。」
管理者がそう答えると、彼の隣の空気が揺らぎ、何処からともなく、1人の老人が現れた。
「初めましてじゃな、地球に住む少年らよ。儂は創造の神。数多くの世界を創り、管理している者じゃ。安司君、忍君、遼君、よく来てくれた、歓迎するぞ。」
背が全く曲がっておらず、身長は管理者よりも大きい。髪や髭は真っ白だが、充分過ぎる程の量があり、とてつもなく神々しい雰囲気を纏っていた。The最高神という感じである。
「立ったまま話をするのは疲れるの。どれ、椅子と机、ついてに何か食べる物も用意するとしよう。」
創造神がそう言うと真っ白な世界に丸テーブルと5つの椅子が現れ、テーブルの上には美味しそうな桃が置いてあった。
創造神と管理者が座り、俺達も空いている席に腰を降ろす。
「この桃は、儂の庭から採れた物じゃ。丁度、食べ頃じゃから持ってきたのじゃ。ほれ、遠慮なく食べるがよい。」
テーブルの桃は、いつの間にか皮が剥かれ、1つが綺麗に6等分されていた。俺達は、それぞれ1つ取り、引き寄せられるように口に運ぶ。
「ッ!?何コレ!?甘ぁぁ!?そして、うまぁ!?」
「それでいて、しつこくない丁度良い甘さだぜ!!」
「これを食べれただけでもここに来た甲斐があったといっても過言ではないでしょう。」
「嬉しいことを言ってくれるのう。ほれ、桃はまだ沢山有る。たんとお食べなさい。」
「「「ありがとうございます!!」」」
据え膳食わぬは男の恥!俺達は目の前の桃が無くなるまで食べ続けた。
「ふぅ~食った食った。」
「お腹いっぱいなんだぜ。」
「こんなに多く食べたのは初めてだ。」
「遼は少食だからなぁ。」
「嗚呼、自分でも驚いている。」
「ホッホッホ、良い食いっぷりじゃった。儂も育てた甲斐があるというものよ。」
「主殿の桃が絶品なのは間違いないが、これ程食べた奴は初めて見たよ。」
「あ、すいません。つい夢中になって。」
「よいよい。まぁ、腹も膨れたようだし、そろそろ本題について話すとしよう。」
そう言うと、創造神はさっきまでの穏やかな顔が嘘だったかのように真剣な表情になり、それに釣られて、俺達も姿勢を正す。
「此度の異世界召喚、救世主だけでなく、巻き込まれた一般人がおる。そして、君達がこのディスガイヤに存在が定着した時にステータスが固定され、ここに居る3人が巻き込まれた者だという事が判明したのじゃ。」
「救世主は、その格が世界に読み込まれ、大いなる力と特有のスキルを得る。彼らはそれを使い、成長して、この世界を救うために動き出すじゃろう。しかし、巻き込まれた者はそうはいかん。一般人と同等の能力では、これから起こる世界の危機を乗り切ることは難しいのじゃ。」
「ディスガイヤで死んでしまえば、元の世界に戻すことが出来ず、存在が消される事となる。このことは、狭間の管理者から聞いていると思うが、そのままでは生き残る可能性は低い。そこで、救済処置として、君達3人にはユニークスキルを与えることになったのじゃ。」
この時、3人は真剣な表情のまま思考をシンクロさせていた。
(((あぁ、これ、その1だ。)))
「さて、前置きはこのぐらいにして、君達にスキルを授けるとしようかの。」
創造神が片手を俺らに向ける。すると、手のひらから3つの光の球が飛び出した。フワフワ浮かんでいたそれは、1つずつ各人に向かって行き、俺らの体に触れると同時に消えた。
「ふぅ、無事に授けることが出来たみたいじゃの。」
創造神が安心したように息を吐く。どうやら、さっきの球体が、授けたスキルらしい。無事に済まなかったらなどうなるか気になるところだ。
「スキルの内容については、ステータスに刻まれているから後で見るとよい。もしかしたら、神域に住む神の誰かから加護が与えられているやもしれんしの。」
「加護って、そんな簡単に貰える物なんですか?」
「いや、神が定める条件を満たし、神域へ近づき、神の気まぐれで与えられる。普通は大きな教会で授けることが多いが、君達は神域そのものに居る。後は、元の世界で条件を満たしているか、神がその気になるかしだいじゃな。」
神の定める条件って、所謂、偉業ってやつだろ?ヤベェ、何にも達成出来てる気がしない。
「兎に角、確認してみるのじゃぞ。さて、スキルも渡し終えたから君達を元の部屋に帰すとしよう。狭間の管理者よ。」
「畏まりました、我が主。」
管理者がブツブツと何かを唱え始める。用事が済んだので俺達を元の場所に戻してくれるのだろう。その前にお礼を言わなくちゃ。
「「「ありがとうございました。」」」
「うむ、苦労も多いだろうが、この世界を楽しんでくれると嬉しいのじゃ。儂はいつでも君達を見守っているぞ。」
「準備完了いたしました。これから転移術式を始動します。」
狭間の管理者の言葉が合わせて、空間そのものが光り、視界がボヤけ始める。
「フフ、私も君達の成長を楽しみにしている。」
管理者が何か言っているが、五感があやふやになっていき、しっかりと聞き取ることが出来ない。
「先輩として最後に言える事は2つ・・・・」
だんだん意識が薄れていって。
「諦めろ、そして、頑張れ。」
何やら不吉な言葉を聞いた気がした。
◆◆◆◆
「ん?ここは?」
気付けばそこは俺が貸し与えられている部屋だっだ。そして、俺はベットの上。気絶または睡眠していたようで、視界に反応が無い忍と遼が写る。というか、俺にのし掛かっている。・・・・すごく、重たいです。
「ちゅうか、マジで重てえわ、コンチクショー!!」
忍と遼をベットの外へシュュート!!超エキサイティング!!!なんて訳には行かないが忍と遼をベッドの脇へ転げ落とす。
「起きろ、2人共。」
「イタタタタ、もう少し優しく起こして欲しいぜ。」
「お前らが俺の上に乗っていたのが悪い。さて、確認だが、ベットで横になる前に神域に居た記憶は有るか?」
「Yes、Yes。神との邂逅は確かに記憶している。」
「ああ、しっかり覚えてるぜ。」
「良かった、夢じゃないんだな。」
ふと、窓の外を覗くと、暗かった空が白くなってきていた。2人も俺に吊られて、外を見る。
「どうやら、徹夜しちまったみたいだな。」
「そのわりには、疲れがまるで無いぜ。」
「明日、いや、もう今日か。確か、披露宴が有るから、身だしなみを整えなければな。」
「まぁ、そんな事より、」
「「「ステータス、オープン!!!」」」
出でよ、新しくなった我がステータス!!!!
佐藤 安司《さとう やすし》
種族:人間
性別:男
職業:無し
年齢:17
<レベル>1
魔力:5
攻撃:8
防御:9
俊敏:6
【固有スキル】
・言語理解 ・アイテムボックス
・物体収集(創造神の恩恵)
・速読(知恵神の加護)
・神の遊技(娯楽神の加護)
【スキル】無し
【称号】巻き込まれし者
【所持金】無し
数値的な変化は無いが、創造神の恩恵に加え、他にも2人の神様から加護を貰い、固有スキルが3つも増えている。2人に聞いてみると、創造神の恩恵は個別だが、知恵神の加護と娯楽神の加護は同じようだ。
スキルに注目すると、その内容が浮かんできた。俺らは、適当な紙にそれを書き出すことにした。
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創造神の恩恵
佐藤 安司
物体収集:
消耗品はもちろん、大岩やそこら辺の小石、ありとあらゆる物体を無制限に集めることが出来る。収納したいものを意識しながら触れると収納される。しかし、生きている物を入れることは出来ない。
杉本 忍
完全解体:
解体精度、解体速度が最高値になり、解体した素材は最高品質となる。また、迷宮内のモンスタードロップは、普通のものから希少なものまでの全てが出現する。しかし、死体が消える前に触れなければならない。
古戸 遼
世界検索:
この世界のありとあらゆる物や技術について検索することが出来る。検索する物に触れる必要はなく、検索したい単語を思い浮かべれば良い。しかし、個人の行動、居場所、思考は検索出来ず、人柄や国の政略は周知のものしか知ることが出来ない。
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「チートや、こんなんチーターや!」
「確かにチートだぜ。」
「しかし、戦闘系ではなく、便利系のようだ。」
「忍は、天野達が倒したモンスターの処理係になりそうだな。」
「遼は、聖剣とかの作成法とかを探して、生産職になりそうだぜ。」
「なるほど、安司は荷物係か。」
「・・・・荷物係言うな。」
「1番期待してた創造神の恩恵だが、どうやら俺TUEEEにはならないみいだぜ。」
「内職で経験値が得られるか分からないし、得られたとしても、戦闘による経験値より多いことなんて無いだろうな。」
「なんなら、3人で商人でもやるか?」
「ハッハッハ、遠慮するぜ。」
「僕は、それでも構わないけど・・」
明らかなるチート、しかし、モンスター相手に無双することは出来なさそうだ。これは、王宮のお世話になるのは決定かもしれない。
続いて残りの加護も見てみよう。まずは、知恵神の加護だ。
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速読(知恵神の加護)
触れただけで書籍を一瞬で読むことが出来るスキル
一定量以上の本や書籍を読んだ者に授けられる。
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一定量以上の本?僕が元の世界で読んでいたのは、ライトノベルと物語やアニメのベースとなっている神話や伝承ぐらいなんですが、それは。
もしかしたらこの世界の文明は、中世ヨーロッパぐらいで、本なんて物は貴族や王家、教会ぐらいしか無く、一般人は触れることが少ないだろうか。
しかし、小説や漫画などを読んでいたのが偉業とされるのは、なんか違うような気がする。
まぁ、貰える物は貰いますがね。
最後は娯楽神の加護だ。
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神の遊技(娯楽神の加護)
1度だけ、読んだ本の内容を身に付けることが出来る。
本の内容が細かいほど、より具体的に再現する。
娯楽への探求心が娯楽神に認められた者が授かる。
追伸
忘れ物が有るから、アイテムボックスを見てね♪
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「娯楽への探求心か・・確かに人一倍な気がするぜ。」
「まぁ、僕も日頃は、新しい小説や面白い動画を探しているな。」
「加護が貰えた理由を天野達に教えたら、苦笑されそうだな。」
今回の加護を得た理由は、納得するものだった。インドアな趣味を皆して持っている俺達は週3日以上、本屋で立ち読みをすることもがあり、動画サイトのランキングのチェックを怠らない。その積み重ねが娯楽神に評価されたのだろう。
・・・・・・・・さて、
「俺、ちょっと、王様に秘伝書無いか聞いてくる。」
「俺、ちょっと、伝説の舞踏家の皆伝書を探してくる。」
「僕、ちょっと、教会の禁書をあさってくる。」
「「「俺らは、もう、止まらない!!!」」」
俺達の戦いはこれからだ!!!
結果を述べよう、惨敗だった。存在しないなど、見せる訳にはいかないなどで、誰1人、目的の物を得られなかった。得られたのは朝から騒ぐバカを見る王宮の皆さんの視線である。
「まぁ、救世主でもない異世界人に秘伝書や皆伝書、禁書なんて渡すような奴は居ないだろうよ。」
「当たり前だよな。」
「しかし、僕達のスキルは本が無いことには始まらない。」
「どえやらこの世界には迷宮、所謂ダンジョンがあって、魔法の書がモンスタードロップして出るらしい。と言っても、滅多に無いみたいだけどな。救世主一行は、迷宮でレベル上げをする予定って言ってたから天野達が入手した時に譲ってもらうしか方法は無い。」
「力を手に入れても、その時には、救世主達とのレベル差が大きくなっていると思うぜ。」
「出来れば、今すぐにでも力が欲しいな。」
「遼の世界検索で技術書について調べて、それを読むのはダメか?」
「既に検証済みで答えはNoだ。どうやら実物の本でないといけないらしい。」
「やっぱりダメか。」
「こりゃ、手詰まりだぜ。」
これ以上は良い案も浮かばず、俺達は、本を入手する方法についての思考を一旦、放棄した。
何もせず、ダラダラ過ごす。耳を澄ませると使用人の人達が朝の用意をする音が聞こえた。後少しすると、朝食の準備が出来、俺達に声を懸けるだろう。天野達が本を入手するまで、こんな生活が続くのかもしれない。
「なぁ、俺達、何かを忘れてる気がするぜ。」
唐突に忍が声を上げる。忘れ物?何かあったっけ?
「「「あっ」」」
娯楽神の加護にあった文を思いだし、俺達は、もう一度ステータスを見る。
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神の遊技(娯楽神の加護)
〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃〃
追伸
忘れ物が有るから、アイテムボックスを見てね♪
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直ぐにアイテムボックスのスキルを発動させる。
[アイテムボックス]
・忘れ物
アイテムボックスには忘れ物とだけ表記された物が入っていた。
「忘れ物って何だろう。」
「元の世界の物だと思うぜ。」
「まぁ、何にしても、それならば、この世界の物より優れたテクノロジーで作られた物がほとんどのはずだ。利用価値は大いに有る。」
俺的には、スマフォとかがいいなぁと思いながらアイテムボックス内の忘れ物を取り出すように念じる。すると、受け取るために広げた3人の両手、それの丁度、真上に1人1冊のノートがガがガガがガガがガガが画がガガがガガがガガが
親方ぁぁ、空中から俺の黒歴史がぁぁァァァ~~~
ノートが俺の手に触れる。
・本との接触を確認、スキル速読を発動・
・本の読書完了を確認、スキル神の遊技を発動・
・神の遊技により、ステータスを改竄・
・改竄を終了しました・
「「「はァァッッ!!!!」」」
どうやら、世界は俺達のスローライフなんぞ見たくないらしい。
それでは最後の1人、遼君についてです。
古戸 遼
ヲタク3人の頭脳。様々な原作知識はもちろん、神話や設定など多くの知識を持っている。3人の中で1番成績が良いが運動は得意ではない。顔面偏差値は平均よりちょい上、身長は忍よりも高い。趣味は特定出来ない。安司と忍があれってどうだっけ?と聴くと、大抵答えを返してくれる。結構、掴み所がない人物だが、他2人と同じく変態であることは確認されている。