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第二章

 俺は悩んでいた。この国はなにかがおかしい。果たして何なのか?俺がおかしいのか?


「くっ……なんで俺がこんなところに……」


 少年は暗い地下牢に閉じ込められていた。歳の数は十歳くらいだろうか。


「すまないなぁ……これも親父さんの命令なのさ」


 人のよさそうな看守が俺に向かって言う。


「親父……なぜ……」


 本来ならば少年はこんなところには決して閉じ込められるような身分ではない。少年の父親はルワーノ国の国王なのだ。隣のシャインテラス国とは仲が悪い。


「なぜ……か。それはな、お前さんが強いからさ。父親の命さえも危ないほどにな」


 少年は七歳ごろから戦闘のセンスの頭角を現してきた。先日行われた武道会に至っては優勝するほどに。国王の息子で十歳にもかかわらず武道会で優勝したことは人々のあいだに瞬く間に広がった。


「武道会で優勝した。つまり出ていない国王を除いてお前さんは一番強い人間になっちまったのさ」


 淡々と看守は話を続けた。


「そうなると国民の間で国王と国王の息子、どっちが強いかという話が出かねない。そこで国王は息子であるお前さんを幽閉したのさ」

少年の父親はこの国で一番強い人物だ。ルワーノ国は代々国王を決闘で決めてきた。常に一番強い人間が国王でなくてはならないとの思想の元そうなったのだ。つまり現国王キングルドに唯一勝てるかもしれない可能性がある人物が息子のガルフなのだ。

「お前さんには正直同情するよ。まだ十歳なのに実の父親からこんな扱いうけちゃぁなぁ」

「ここから逃がしてくれ……」

「すまない……そんなことができる様な国じゃないのはわかってるだろう?」


 今この国は父親のキングルドによって独裁支配体制に入っている。そんなことをすればどちらもタダではすまないだろう。


「なぜだ……親父……俺は親父に少しでも近づきたくて猛特訓したのに・・・」

「この国はどうなっちまうのかなぁ?」

「さぁ……お前さんの親父に聞いてくれ」


 その時、奥の階段から誰かが降りてくる音がした。


「気分はどうだ?」


 口ひげの立派な巨躯の男が立っていた。その姿をみるやいなや看守はすぐに敬礼をした。


「キングルド様!このような地下牢にどうなされましたか?」

「フン……ガルフの様子を見にきたのさ」

「ここから出せ!親父!」


 言い終わった瞬間鼻先に剣が止まっていた。


「俺は国王だ。言葉遣いには気をつけるんだな」

「くっ……」

「俺はまだまだ国王から退くわけにはいかないからな。そのためには今はお前は邪魔なのだ」


 緊迫した時間が流れる。ほどなくしてガルフに向けられた剣をおろし、キングルドは厳しい顔をしたまま続けた。


「俺はこれからこの国の勢力を拡大しなければならない。そのためにはまずは隣国のシャインテラスを落とす。密偵の話では一週間後、向こうの革命十周年と王子の十歳の合同記念パーティーがあるらしい。油断しきっているところに奇襲をかけて今の小競り合いの関係を一気に大きな戦争に発展させる」

「親父!そんなことをして何になるんだ!?」

「フン。戦争というのは儲かるのさ。国を動かすというのはお前が想像してる以上に金がいるんだ。シャインテラスは十年前に革命が起きたばかりの地盤がしっかりしていない国。勝てる戦争をしかけないでどうする?」

「なんて卑怯な・・・」

「卑怯?俺にとってはほめ言葉だな。だが忘れるな。そんな俺の血をお前は受け継いでいるのだ」

「それじゃシャインテラスの人々はどうなるんだ!?」

「そんなものは知らん。俺は俺の国を考えていればいいんだ。それがリーダーと言うものさ」

「さて。これ以上お前と話をしている暇はない。奇襲のための準備があるからな」


 言い終わるとキングルドは不適な笑みを浮かべた。


「そうだ。ガルフ。お前にプレゼントをやろう。恨みというプレゼントをな」

「看守のお前!」

「は、はい!」

「特別任務だ」

「はい!」

「これから向こう十年間、ガルフを禁固刑にする」

「そんな……それはあんまりでは?」

「看守が口答えするな!罪状は反逆罪だ。下手なことをするとお前もぶちこむぞ!」


 ドスの聞いた声で看守を脅すと、ガルフを一瞥して元来た道を帰っていった。


「……看守さん」

「なんだい?」

「この国はどうなってしまうんだろう」

「さぁ……ただ、このまま行くと大変なことになる」

「みんなかわいそうだ。この国の人もシャインテラスの人も」

「君はキングルドのように冷徹な人間じゃないみたいだね。どこか温かみがある」

「なんだかわからないけど……ありがとう」

「どういたしまして。なんかこうなっちゃったから自己紹介しておくね」


 牢屋越しに看守が手を伸ばしてきた。


「僕の名前はリック。歳は二十三歳だ。よろしく」

「俺はガルフ。十歳だ。」

「はは……知ってるよ。有名人だもの。でも十歳にしては大人びた感じだね」

「この喋り方もこの国で生き残るためには必要だったから……」


 そういうと不意にガルフの目に急に涙があふれてきた。


「つらかったんだね。これからはおそらく僕とガルフ君の二人だけの時間がかなり長く続くと思う。できる限り協力するからよろしくね」

「……リックさん……」


 少年は初めて人から優しくされたのか、その場で泣き崩れた。


「俺、強くなる!」

「うん。ガルフ君はまだ十歳だ。これからいくらでも強くなれるよ。肉体的にも精神的にもね・・・」


 ここより数年、ガルフとリックだけの時間が地下牢で流れることになる。上の世界がどんなに変わっても二人だけの時間が……。


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