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第十一章

 バシャバシャバシャバシャ。


「うはー!気持ちいいなぁ。ガルフもどうだ?」


 行水をするリック。


「俺はいいよ。いつ敵に会うかわからないからな」


 そういいながら剣を磨いていた。昔使っていた自分の剣はさびて使えなかったので途中の町で買ったのだ。


「ガルフ……ずっとその剣を磨いてるな?あの店の女の子に惚れたか?」


 店の女の子とは剣を買った店の娘だ。かなり可愛かった。


「…………っ」


 ガルフの剣を磨くリズムが早くなった。


「図星か……」


 リックはにやりとするとガルフに水をかけた。


「何するんだよ!」

「いや何……暑そうだったからな」


 相変わらずニヤニヤしている。


「ほら! もう行くぞ!」


 剣を鞘に戻すと足早に歩き出した。裸のリックを置いて。


「おーい! 着替えるまで待ってくれよー」


 ……俺が人を好きになる?……


「まさかな……」

「待てって言ってるだろ?」

「早くし……」


 振り向くといまだに真っ裸のリックが堂々と立っていた。


「はぁ……はぁ……とりあえず着替えさせて……」

「一分で着替えてくれ」


 ……一分後。


「よーし!出発だ!」


 いつもの格好にもどったリックと共にロブンテロに向かった。リリィという名の人物と会うために。


「ところでリック、後どれくらいでそのロブンテロにつくんだ?」

「そうだなぁ……一日もあればつくとは思うが……」


 リックは地図を片手に難しい顔をしている。


「リック……それ逆じゃないか?」

「そういわれてみればそんな気がしないでもない」


 見事に逆に持っていた。


「ガルフ……君に大事なことを言い忘れていたよ」


 神妙な面持ちでリックは切り出した。


「僕は地図が読めない」

「そんなことだと思ってたよ」


 ガルフは呆れ顔で地図を手に取った。


「とは言っても俺もこの状況じゃわからないな」


 二人は目印の何もない森の中にいるのだ。


「誰か分かる人が通ってくれたら助かるんだけどな」


 リックがつぶやいた瞬間少し遠くで物音がした。


「シッ。誰かいる……」


 ガルフは少しずつ足音を殺してそこに近づいていく。


「……誰……か……いる……のか……」


 かすれた声がする。


「誰か倒れてるみたいだ」

「リック、手当てをしよう」


 二人は倒れている人物の手当てをした。


「ほら、水だ」


 リックは先程の川で汲んだ水を与えた。


「げほっ……ありがとう」

「お前どうしたんだその怪我は……」


 ガルフは左目に眼帯をしている全身傷だらけの男を心配した。


「ジェイクという男と少しやりあいましてね……」

「ジェイク……」

「リック知ってるのか?」

「ええ……確かルワーノ軍狼牙の若手ナンバーワンだった男がそんな名前だったはず……」

「あなたたちジェイクを知っているのですか?」


 隻眼の男は少し身構える。


「まぁ少しだけだ……そう身構えるな。俺はお前を襲うつもりはない」

「そうそう。僕たちは戦う意思はない。それに怪我に響くぞ?」


 なおも警戒を解かない隻眼の男。


「少し訳アリでね……警戒するに越したことはないんですよ」

「それならこっちも訳アリだ」

「とりあえず礼は言っておきますよ」

「そうだ。あんたロブンテロという場所を知らないか?」

「ロブンテロ? 知ってますが……」

「それは良かった。教えてくれないか?」

「ここから北に三時間ほど歩いたところにありますよ」

「なんだ結構近づいてたんだな。ガルフ、今日には着くぞ」

「そうだな。ありがとう助かったよ」

「一つ聞きます。あなたたちはルワーノ軍ですか?」


 隻眼の男はマントの中で力を込める。


「ルワーノ軍……違うな」

「そうですか。それなら良い旅を……」

「ああ……」


 ガルフとリックは隻眼の男に教えてもらった道を急いだ。


「なぁリック。さっきの男只者じゃなかったな」

「ああ。かなり出来ると見た」

「それをあんなに深手を負わせるとは……そのジェイクはかなり強いのか?」

「僕もガルフとほとんどを地下牢で過ごしてるから詳しいことは良く分からないけど、狼牙のことは説明できるよ?」

「狼牙?」

「狼牙とはキングルド直属の部隊なんだ。強さは他の部隊とは桁違い。以前そこの若手ナンバーワンだったのがジェイクという男さ」

「ジェイクか……どこかで聞いた名前だな」

「今はその狼牙の隊長を務めているとか聞いたが……相当強いんだろうな」

「ほう……ん?ジェイク……思い出した」

「ガルフ知ってるの?」

「確か武道会の決勝で当たった相手だったかな……」

「そうか、当時からジェイクの強さはキングルドの次だと言われていたからな……当然誰もがジェイクが優勝すると思っていたんだろうが……」

「当時十歳の俺が勝ってしまったからキングルドはあせって俺を監禁したんだな」

「みたいだね……ガルフも充分すぎるほど強いな」

「ここ数年の地下牢暮らしですっかりなまってしまった可能性も否めないがな」

「今はあの薄暗い地下牢から出たんだからどんどん強くなるさ。ガルフはまだ十七歳なんだし。あ、ロブンテロが見えてきたぞ」


 ロブンテロの入り口までやってき二人は唖然とした。


「これは酷いな……」


 リックはその騒然とした雰囲気につぶやいた。


「一足遅かったようだな」


 見渡す限り略奪された後で一杯だった。


「こうなれば一刻の猶予もないね」

「さっそくリリィについて聞いてまわろう」


 二人は町の住人にリリィについて聞いてまわったが、手がかりは全くなかった。


「少し一休みしようかガルフ」

「ああ」


 二人はレヴォと言う喫茶店に入った。


「しかしよく考えてみれば解放軍のリーダーの事なんだから外から来た僕たちに情報もらすわけないよな」

「ああ。手がかりはゼロだったな。まぁこうやってリリィとか言う女のことを聞きまわっていればあるいはと思ったが……」

「ガルフ。どうやらビンゴらしい……」


 ガルフとリックはその喫茶店の異様な雰囲気に気がついた。


「リック。これはどう思う?」

「どうやらここは少なくとも関係があると見た」


 二人は喫茶店の客に囲まれていた。


「お前達か。リリィさんを嗅ぎまわってる二人組みってのは」

「まぁ間違いではないな。リリィはどこにいる?」


 ガルフが客をにらみつける。


「素性の分からないやつに話す必要はないな」

「まあまあガルフ、説明が足りてないぞ?」

「そうか。俺はルワーノ反乱軍のリーダーのガルフだ。リリィに話があってここまで来た」

「ルワーノ反乱軍だと?」


 客たちがざわめき始めた。


「す、少し待っていろ……」


 相変わらず客たちに囲まれたまま十分が過ぎた。


「リリィさんが会ってもいいそうだ。この場所へ向かえ」


 男は二人に紙切れを渡した。


「ふん……邪魔したな」


 二人は喫茶店を後にした。


「さて、ここにいればリリィに逢えるのかな?」

「さぁな。俺達をはめる罠かもしれないぞ」


 二人がやってきたのは町外れの今にも崩れそうな小屋の中だ。紙切れの指示ではここで待っているとリリィにあえると書いてあったのだ。


「お前達がリリィ様に会いたいという者たちか?」


 突然ドアが開かれ帽子を目深に被ったヒゲを生やした男が現れた。


「ああそうだ。会わせてもらおう」

「……ついてこい」


 ガルフとリックはヒゲの男についていく。どんどん森の中に入っていった。


「ここだ。入れ」


 二人が着いたところは洞窟の入り口だった。中に入ると屈強そうな男たちが数人いる。


「それでリリィはどこだ?」


 リックはそれらしい人物がいないことに気がつきヒゲの男に聞いてみた。


「ここにいる」


 ヒゲの男はそういうと帽子をヒゲを取った。


「なんだ。お前がリリィだったのか」

「ええ。直接見たかったし相手も油断するから」

「単刀直入に言おう。俺はルワーノ国で反乱を起こした軍のリーダーであるガルフだ」

「付き人のリックです」

「その軍のことは聞いてるわ。なんでもルワーノ本国を攻め落としたとか」

「ああ。紛れもなく俺の軍だ。そこで俺達と手を組まないか?」

「それは出来ない話ね。いくらあなたたちがキングルドに反抗する軍だとしても結局はルワーノの軍ですもの。あたしたちの目的はシャインテラスを再構築することなの」

「そんなことは分かってるさ。そこで提案がある。協力してキングルドを倒した後、元シャインテラス領はお前達解放軍に、ルワーノ領は俺達反乱軍がそれぞれ統治する」

「悪い話ではないわね……ただ、逆に怪しすぎるわね。そこまでしてあなたたちルワーノ反乱軍にメリットがあるとは思えないんだけど」

「そんなことは百も承知だ。だがそれ以上にキングルドを倒したいんだ」

「確かあなたガルフという名前だったわね」

「ああそうだが?」

「確か七年前から失踪しているキングルドの息子の名前もガルフだったと思うけど?年齢はあなたと同じくらいで」


 洞窟がざわめいた。


「確かに俺はキングルドの息子だ。だがだからこそ色々あるのさ」

「まぁいいわ。結論を出すのに一日くれるかしら?今日はここで泊まっていきなさい」

「そうさせてもらうよ」


 ガルフとリックは一日待つこととなった。


「なぁリック……どうなると思う?」

「そうだなぁ……反応はよかったね」

「この交渉が成功すれば一気に道は開けるな」

「成功することを祈って寝ようか」

「ああそうだな……おやすみリック」

「おやすみ……」


 次の日の朝、二人は騒々しい音で目が覚めた。


「何事だ?」

「さぁ? 火事でもあったのかな?」


 二人はリリィのいる洞窟の開けた場所までやってきた。


「どうしたんだリリィ」


 リリィは難しい顔をしている。


「シャインテラス解放軍の拠点のリード村とスナイ村が何者かに襲われたわ」

「誰かわかっていないのか?」

「今情報収集中よ」

「リリィ様! 状況報告を致します!」

「ええ、お願い」

「スナイ村の方はジェス様が撃退された模様。ただ、リード村の方は全滅です!」

「なんですって! 一体誰がやったの?」

「相手はルワーノ反乱軍と名乗ったそうです!」

「なんだと! その情報は本当なのか!」


 リリィが反応する前にガルフが食って掛かる。


「間違いないそうです!」

「そんな馬鹿な……」

「ガルフ……こうなった以上あなたを帰すわけにはいきません……」


 リリィは静かに剣を抜く。


「ちょっとリリィさん待ってください! これは何かの……」


 リックは必死にリリィを止めようとする。


「黙れ! やはりルワーノを信用してはいけなかった……二人とも無事には済まさない!」

「くっ……ガルフ! ここは一旦退きましょう!」

「ああ。それがよさそうだな」


 ガルフとリックは弾かれた様に出口へと向かった。途中数人立ちはだかったが全て当身で吹き飛ばした。


「逃がすなー!」


 そんな声があちこちから聞こえてくる。やっとの思いで洞窟から出る二人。


「くそ! 一体どういうことだ?」

「わからない……とりあえず僕たちは一回ルワーノに帰ろう」

「そうだな……グールを問いたださないといけなくなったな」

「もう少し……もう少しで上手く行ったのに……」

「ガルフ。落ち込むのは全てやってからにしよう」

「そうだなリック……」


 こうしてシャインテラス解放軍との協定は失敗に終わった。


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