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呼吸をするだけで肺の中が冷たくなるような中で、幾人もの学生達が門をくぐって学舎へ向かう。

落ち着いた赤色のマフラーに顔を埋めて、まだ眠気眼な鳴成巴もその一人。だが、校舎の入口でピタリと立ち止まり、目を僅かに見開く。

「巴、おはよう!」

「…なんでいるわけ?」

巴の声かけに、満面の笑みで答える。それに巴の眉間のシワがぐぐっと寄るのはいつもの事である。

巴の靴箱の前でにやけた顔で待ち構えていたのは、夏休み明けに転校してきた小波嵐雪だ。この男、前の学校ではサッカー部のエースだったらしく、それに見合った容姿をしていた。

いわゆる爽やかを地でいっているような、イケメンである。

そんな、女子なら見惚れるはずの嵐雪が巴は苦手である。何一つ、全てにおいて理解できない、いやしたくない。何故なら変人だから。というのが巴の嵐雪に対する評価である。

嵐雪の染めた訳ではない自然な焦げ茶の髪がさらさらと流れると同時に、女子からの黄色い声が沸き上がる。それは、一部の男子から嫉妬めいた舌打ちを巻き起こし、巴のイライラを促進した。

…これだから顔の良い男は厄介だ!

地味に生きるをモットーにしている巴にしてみれば、この女子からの痛いぐらいの視線は想定外の出来事である。それもこれも目の前にいるにやけた男のせいであるとじっと睨む。

「そ、そんなに見つめられたら恥ずかし…」

「頬を染めるんじゃない!睨んでるの!」

相変わらず、睨むと見つめるを勘違いしている嵐雪に巴はドン引きである。そんな巴の表情に気づいているのか、わざと見て見ぬふりをしているのか、嵐雪は笑みを浮かべる。

「巴、今日は来るのが遅かったんだね?すごく心配したんだよ」

ただのクラスメートでありながら、まるで彼氏のような口ぶりに巴は早くこの場から去りたいと強く願う。

…いつもより5分遅れただけなのに。うん、もう何も言うまい。早く靴を置いて教室に行こう!そうしよう!

巴は嵐雪の存在を完全に消そうと決意した瞬間、悲しいかな嵐雪のあるところが目について離れない。巴の口元がピクピクとひきつっているのが、赤いマフラーから少しだけ覗く。

「ねぇ、小波くん…。不自然にお腹膨らんでるんだけど…」

…それは、何。あえてツッコミたくはなかったが、寧ろスルーしたかったが嫌な予感がして仕方なく尋ねる。本当の本当に仕方なくね!

嵐雪は待ってましたと言わんばかりに無駄にいつもの五割増しの爽やかな笑顔を浮かる。

…いや、その笑顔逆に怖いから。やめて。お願い。本当に!

嵐雪はいそいそとお腹に隠し持っていたブツを取り出した。その瞳はご主人様に良い子にしたから褒めて!とねだっている犬の様である。

そしてそれを見た巴は。

「今日寒かったから、人肌で巴の上履きを温めておい…」

「そんなの履けるかああああ!!!」

巴は嵐雪に華麗な右アッパーをお見舞いし、早足で職員室にスリッパを借りに行く。

そう、嵐雪はどこにでもいる平凡な巴の彼氏(自称)と名乗る変人だったのだ。

「待ってよ、巴ー」

「ひぃ!近寄るな変態!」

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