不思議な本
今回投稿直前に寝落ちして内容が半分近く消えて泣きました・・・。
保存はしっかりしないとですねー。
内容変な書き方されてたら申し訳ないですが、お楽しみくださいー。
「んーあー、腰いたー・・・」
歳かなぁ、とは言わないでおいた。
言うと、本当にもういい歳なので微妙にヘコむからだ。
ギリギリに自宅を出て、何とかバスに間に合い新幹線に乗ること一時間半、アパートのある最寄り駅に到着し、改札を抜けながら百合江は呻くように独り言をもらし大きく背伸びをする。
まだ明るい時間と言うこともあり、人が多かったが一時間以上も同じ格好をしていると、体が固まって流石に運動嫌いの百合江もストレッチをしたくなる。
隣を歩いていた人が少し迷惑そうな顔をしたので、慌てて心の中で謝罪しながら腕を下ろし道を譲る。
辺りを見渡せば、まだ正月休みと言うこともあり、沢山の人で混み合っていて、この中を通りアパートに帰ることを考えると新幹線に乗った疲れの色濃い百合江としては少しうんざりとしたものを感じてしまう。 改札を抜けた百合江が駅の構内に立つと、福袋を両手に持つご婦人方や、正月早々デートに繰り出したらしいカップル、百合江と同じく帰省帰りらしき家族連れ、その誰もかれもが長い休み特有の少し浮かれた空気を纏い連れ立って歩いていた。
そんな中で、一人仕事に疲れたサラリーマンの様な雰囲気で歩いている百合江の姿は若干浮いていたが、それをあまり考えない様にして肩に掛けたバックを持ち直し百合江は人ごみのなかに足を進めた。
(あー、ごはん作んのめんどいなー・・・、どうするかなぁ・・・)
今日明日はまだ休みだとは言っても、掃除に洗濯、今晩の晩ごはんのための料理に明日の家事のこともある、仕事が始まるまでにやるべき事は沢山あるのだが、それを考えると疲れが増す気がして、現実逃避だとは分かっていたが百合江はあえてそれらを意識の外に追い出した。
祖母には家事もしなければ、などと言って実家を後にしては来たが、正月早々掃除や料理など面倒で、ぶっちゃけやる気はゼロである。
こんな姿を祖母に見られたら、またため息と共に小言を食らいそうだな、と思いはするが、一人だと思うとどうしてもやる気が出ない。
元々家事は祖母や母がしていたため、百合江は大して料理や家事が得意と言う訳でもない、なので、一人のアパートに戻るとどうしても家事は手を抜きがちになってしまう。
恋人がいたら少しはやる気も出たのかもしれないが、いないのだから考えても詮のない事だと諦め、結局百合江は駅の中で何か出来合いの弁当でも買って帰ろうと決め、家事を後回しにする事にした。
(まあ、休みは明日もあるし、いっか・・・)
祖母の、早くいい人を見付けろと言う言葉が頭の中をぐるぐる回るのを感じながら、売店の並ぶ駅ナカを歩き始めたが、余りの混雑振りに五分と経たぬうちに百合江は買い物をするのを諦めた。
普段はこんなに人がいることはないのに、どこから沸いて出たと言わんばかりに人、人、人だらけだった。
こんな事なら新幹線の中で駅弁でも買えば良かったと思ったが、降りてしまった今となっては後の祭りである。
ごちゃごちゃと混み合う駅の構内を抜け、人の波にもみくちゃにされ疲労困憊しながら外に出る。
今晩の食事をどうするか考えていなかったが、ここで人の波に揉まれていても疲労感が増すだけなので、最悪コンビニ弁当か家にある買い置きのカップラーメンでも食べることにして百合江は駅を後にした。
外は雪こそ降ってはいないが恐ろしく寒かった。
「ひぃー、さぁーむーい」 帰省していた実家の方は雪が積もっていたが、外に出る機会はほとんどなかったため、寒さはあまり感じなかった。
なので、久々に感じる凍える様な寒さに百合江はぎゅうぎゅうと衿を掻き合わせ小さく身を縮めた。
実家に帰省した時とは逆にアパートに向かい足を進め、途中にコンビニを発見し寄ろうかと百合江は一瞬目を向けた。
けれど、持っていたバックが地味に重くて、コンビニに寄るのすら億劫になり、今晩はカップラーメンを食べればいいかと、ブーツを履いた足をアパートに向け急ぐ事にした。
駅から歩くこと二十分程、見慣れたアパートが目に入り、寒さにガチガチに固まっていた体から力が抜け百合江はほう、とため息を吐いた。
「寒かった〜、取り合えずお湯沸かさなきゃなぁ」
部屋がある二階に続く階段を足取りも軽く登りながら、百合江は部屋に付いてからやることを考え、ポケットに手を突っ込んで鍵を探す。
しかし、右のポケットにも左のポケットにも慣れた鍵束の感触はなく、鍵が擦れ合う金属音すら聞こえてこない。
「あれ?・・・鍵どこやった・・・」
コートのあちこちに手を這わせてみたが見当たらず、少しイライラと言うか、実家に忘れて来たのではとヒヤヒヤしながらバックを確認しようとした時、バックから何かが、こぼれ落ち百合江はそれを目で追いかけた。
「・・あ・・・」
灰色の表紙をした大きな本。
そう言えば、実家を後にする時に、祖母からアルバムの様な物を押し付けられたのを今更ながらに思い出し、百合江は落とした本をしゃがみ込んで手に取ってみた。
「・・・本貰ったの忘れてた・・・」
暗い灰色の表紙の本で見た限り見える所にタイトルなどは書かれていない。
拾い上げた本の裏表にさっと目を走らせるが落とした時の汚れはなく、百合江はほっとしつつ渡された事すら失念していた不思議な本の表紙を撫でながら、ポツリと呟いた。
渡された時、開く開かないは自由だとか、ブーツを履いたまま読めとか祖母が変な注文を付けていたが、あれは何だったのか結局時間がなくて聞けないままだったなと思いながら、手を這わせた表紙をゆっくり開いていく。
「靴履いたまま見なきゃいけない本ってなんぞそれ・・・??」
不思議な注文に首を傾げつつ、ぱらぱらとページを開いてみた結果、一言で言うとこの本は・・・。
「・・・これは・・・」
読めない・・・。
中は全て見たことのない文字で書かれていた。
「・・・・」
開く開かない、靴を履けどうこう言う前に読める本渡してよ。
百合江は思わずそこにいない祖母にお笑い芸人の様に突っ込みそうになった。
つまりこれは、いつまでも恋人を作らない孫に、恋人を作らないならぼさっとしてないで、勉強でもしろと言う遠回しな皮肉だろうか?
それとも、これで外国語を勉強してインターナショナルに伴侶を探せと言う催促だろうか?
どちらにしろ、いくらページを捲っても日本語が見当たらない本一冊では、何語かも判別できず、勉強の仕様がない。
しばらく知った言葉でもないかと本を捲り続けたが、全く理解不能で百合江はこの本を読むのを放棄した。
思えば今は鍵を探している真っ最中で、ここは外である。
「玄関前で凍死とかシャレにならん・・・」
半分ほど捲ったところで本も白紙になり、百合江は諦めて本を閉じようとして、チクリと指先に痛みが走るのを感じた。
「・・っ!・・・いったぁ・・・ああっ!」
紙で切れたのか、指先にうっすらと血が滲み白紙だったページが百合江の血で汚れていた。
「やば・・・」
本に付いた血を落とす方法などあっただろうか・・・。
何とか祖母に会ったとき誤魔化せる程度にはしなければと、頭をフル回転させ何とかバックから鍵を探しだし、百合江は慌てて部屋に上がり込み、玄関に腰掛けながらブーツを脱ごうとした。
その横で。
百合江が開いたまま床に置いた本の中、ページの端に付いた百合江の赤い血が紙の上でユラリと動いた。
ここでやっと異世界編に戻りますー。
やっと百合江以外のキャラが出せそうです。
近い内に更新したいと思いますのでよろしくお願いしますー。