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正月休みと裏切りと不思議な本。

今回長文だったので、読みにくいかもしれません。



誤字脱字、読みづらい言い回しなどありましたらご勘弁をー。


「若い身空で長い休みに会う相手もいないのかい?」 



 どこか呆れた様な雰囲気でこんなことを言ってくる相手は、百合江が知るかぎりこの家には一人しかいない。

「・・・久々に帰ってきたってのに・・・お帰りより前にそれ?・・・おばあちゃん」

 祖母の帰省早々の先制パンチに、百合江は渋い顔を隠すことなく勝手口でブーツを脱ぎながら振り返る。 するとそこには、前に会った時と寸分違わぬ呆れ顔の祖母が、ため息と共に百合江を迎えていた。

「正月休みってのは家族で過ごすもんでしょ・・・ただいま・・・」

「そんなもんは嫁に貰ってくれる旦那を見付けてから嫌ってほど過ごせるわよ、お帰り百合江」

 帰省用のバックを肩に担ぎ、帰って早々小言を言い始めた祖母の横を通り抜け居間へと向かう。

 いつもの事とは言え、帰ってきて早々このやり取りは少し疲れる、祖母の皮肉の矛先を分散させるべく向かった先の居間には、今まで同志と、熱く肩を組み合ってきた弟の裏切りに満ちた姿があった。




「お帰り姉ちゃん」

「・・・お帰りなさい」




 だらしなくニヤケ面した弟と、はにかんだ控えめな笑顔が可愛い、肩までの栗色ゆるふわウェーブの清楚な感じの女の子。




かぁわうぃ〜い・・・。




 あなた誰ですか?そんな疑問を投げ掛けるより前に、小動物的な可愛さを発する女の子に視線が釘付けになる。

 小さな顔にパッチリとした大きな二重の黒い瞳、頬は明るいピンク系のオレンジのチークでうっすらと彩られ、薄いピンクベージュのグロスを付けている唇はぽっちゃりとして少し厚めだが、可愛らしい色合いのグロスと相まって色っぽいと言うよりは可憐な雰囲気を醸し出していた。

 その小さな顔を縁取る栗色の髪は、フワフワと綿菓子の様にゆるく波打っていて、彼女の可愛らしさを強調している。

 基本的に深山家は長身な家系で、今年85になる祖母ですら160センチと昔の人にしては背が高く、亡くなった祖父も180近い身長を誇っており、百合江が大学生になる時に亡くなっている祖父母の血を受け継いだ百合江の母親に至っては、168センチで小学生の時に亡くなった父親は178センチ、その子供である百合江と弟も例に違わず166と177センチと高身長を叩き出し中々大柄な家族構成になっている。

 その中にあって、目の前の女の子はかなり小柄だった。

 弟と並んで座ると更にその差が顕著となり、巨人の国に迷い込んだ妖精さんみたいで何だか癒される。

 しかし、マイナスイオンのごとき可愛らしさに癒されていたのも、弟のやにさがってデレデレとしてムカつく笑顔を見るまでと言う前置きがついた。

「俺の彼女、佳那子ってゆーの、仲良くなー」

「遠藤佳那子です、よろしくお願いしますお姉さん」

 彼女が単品で現れていたなら迷わず仲良くなっていただろう、しかし、弟の聞き捨てならない一言を聞き、百合江の思考は一時停止していた。




「・・・彼女・・・だと・・・」

「うん☆」




 弟の返事の語尾に勝利の星マークが見えた・・・。

「・・・この妖精みたいなお嬢さんが・・・?」

「うん☆」

「あんたみたいにがさつでデリカシーのないずぼらでオタク男の・・・?」

「・・・人を何だと思ってんだよ・・・」

「・・・オンゲの課金ガチャでレアカード当てたってテンション上げまくって小躍りしたり食玩フィギュア全種制覇して悦に入ったり携帯の待受をお気に入りアニメの二次元キャラにしたりウォークマンにアニソン入れてウキウキしたりカラオケでロボオタ丸出しの選曲したりその他にも・・・」

「おわぁー!ちょーっ!ちょっと待てー!待ってください!お姉様ぁー!!?」

 息継ぎなしに一気に弟の暴露をし、まだまだ続けようとしたら、途中から青くなった弟が慌てて立ち上がり、マッハの勢いで間合いを詰められ口を塞がれた。

(何暴露してんだよ!?)

(ワタシナンノコトカワカラナイアル)

 小声で揉み合う2人を妖精ちゃん(百合江命名)はニコニコと微笑ましく見上げて小首を傾げている。

「大地さんとお姉さんは仲が良いんですねぇ」

「・・・あ、ああ・・・」

 弟はひきつった笑みを何とか顔に張り付け妖精ちゃんに返事を返しつつ、横目でチラチラ戦々恐々としながら百合江を窺っている。 そんな視線を感じながら、百合江はニヤリと邪悪な笑みを浮かべ頷く。

「・・・そりゃあもう、好きなエロDぶ・・・」

 いDの種類や隠し場所まで知ってますよぅ、そう言おうとしたらすかさず弟に口を塞がれた。

(何を暴露しようとしてるかー!?)

(何ってナニの隠し場所とかー・・・ニヤリ)

 妖精ちゃんを気にしつつ小競り合いを繰り返す百合江と弟の背後から、祖母の呆れた様なため息が聞こえてくる。

「何してるんだいあんたたち、戸開けたままごちゃごちゃやってないで早く入んな」

「だって姉ちゃんが・・・!」

「別に私何もしてないしー」

 注意されても飽きずに揉める2人に祖母は若干目を据わらせながら腕を組む。

「大地、あんたもいい歳なんだから百合江と遊んでないでシャキッとしな、百合江も弟とじゃれてる暇があるなら大地みたいに恋人の1人も連れてきてみな!」

 こうして波乱の正月が幕を揚げたのだった・・・。





 その後の私の正月休みがどんなものだったかと言うと・・・。






 一言で言えば、散々なものだった。

 弟(裏切り者)のせいで、ことあるごとに弟(裏切り者)が恋人を連れてきたのに姉のお前はまだいい人は居ないのかとか、このままだと嫁き遅れで嫁の貰い手もいなくなるとか、将来は独りさみしく老人ホームで呆けるしかないとか、とにかく耳にタコができるほど同じ事を祖母に繰り返され、休みの筈なのに逆に体力を極限まで削る羽目になり百合江はぐったりとしながら帰宅の準備に取り掛かる事になった。

 唯一の救いは、弟(裏切り者)の恋人である妖精ちゃんがかなりの癒し系だった事だろう。

 聞けば、妖精ちゃんはなんと百合江より歳上で今年29になると言うから驚きだった。

 下に弟が4人いるらしく、おっとりとした雰囲気ながらお姉さんの貫禄があり、妹になるはずなのに姉ができた気がしたほどだった(それでまた祖母の小言を食らったのは言うまでもない・・・)。

 そんなこんなで、唯一の回復担当の妖精ちゃんとお昼ご飯を作ったり(妖精ちゃんは料理上手で、私は主に味見担当)、後片付けをしたり(私は食器を下げるくらいで、妖精ちゃんは洗い物も食器を拭くのも果ては水回りのお掃除まで完璧にこなしていた!勿論私は指揮監督の係)と家族が混じらなければ中々有意義に日々を過ごせた気がする。

 私が今住んでいるアパートに帰る事になると、妖精ちゃんは残念がりながらもお土産にくるみの沢山入ったパウンドケーキを焼いてくれ、これで明後日の仕事初めを何とか乗り切れそうな兆しが見えて百合江は安堵のため息を吐いた。

 妖精ちゃんのお土産を帰省に持ってきたバックの中に詰め込み、一人暮しを始めるまで住んでいた部屋でだらだらと百合江が荷物を纏めていると、部屋の扉がノックされ百合江はビクリと体を跳ねさせた。

 なぜかって?答えは簡単だ。

 今この家には百合江と祖母しかいないのだ。

 弟と妖精ちゃんは二人でデートに繰り出し帰るのは夕方、つまり、帰宅直前に祖母の小言をたった一人で喰らわなければいけないかもしれないので、百合江は思わずいやな汗をかきながらドアノブに手を掛ける。 ソロリと開けた扉の前には、やはり百合江が想像した通りの人物が立っていて、百合江の眉間に無意識に縦じまが刻まれる、それを見た訪問者は百合江の失礼な態度に気分を害した様に器用に片眉を上げ、不機嫌そうに腕組みをした。

「それが血の繋がった祖母にする顔かい?入るよ」

 祖母はため息混じりにそう言うと、百合江の返事を待たずに部屋に上がり込んだ。

「相変わらず女っぽくない部屋だねぇ」

「それは今はここに住んでないし・・・」

「出てく前も大して変わってなかったじゃないか」

 百合江が全てを言い切る前に、祖母は百合江の言い分をたたっ切る。

 まあ、祖母の言う通りではある、今の百合江の部屋も実家にあるこの自室と大して変わらず、女っぽくない部屋なので無駄な足掻きは止めておいた。 だって苦手なのだ。

 百合江の成長期は早く、小さな頃から周りより頭一つ分抜きん出ていて、少し男の子っぽく育った。

 兄弟が弟だったことも手伝い、子供の頃はよく男の子と遊ぶ事が多かった。 小学生にもなれば、激しい運動が苦手な事もあり男の子と遊ぶのは少なくはなった。

 しかし、その頃には今さら女の子のグループに交ざるには、女子特有の奇妙な連帯感に馴染めないのと、元々マイペースだったこともあり、1人で本を読んだり浮き草か雲みたいにフラフラしたり、冬になれば雪の降る地方だったため、皆外で雪合戦をしたり雪ダルマを作ったりするなかで、1人ストーブ前を占拠し猫の様にまったり日向ぼっこをして、我が道を満喫していた(お陰で、担任の先生には仲間外れにされているのかと心配されたりはしたが・・・)。

 そんな経緯もあり、百合江の女子としてのスキルはかなり低い。

 キラキラとした小物もヒラヒラした服もない、至って実用的な品に囲まれた部屋のベッドに腰掛け、祖母は百合江が帰省してから何度目になるか分からないため息を吐きつつ百合江に視線を向けた。

「昼に帰るのかい?」

「そのつもり、明後日には仕事始まるしアパートに帰って家事とかしなきゃいけないしね」

 既に荷造りも終りやることもないのだが、面と向かって祖母と話すのが気まずく百合江は無意味にバックの中身を整理しながら祖母に返事を返す。

 祖母のことが嫌いな訳ではないのだ。

 ただ、小学生の時に父を まだ百合江が仕事に就く前、大学在学中に母を亡くし、学生だった百合江は弟の進学の事もあり、一時大学を中退し就職を考えた事があった。

 そんな時に祖母は、何も言わずに百合江たち兄弟に金銭的援助してくれて、そのお陰もあり無事大学を卒業し、この就職難のご時世に一流企業とまではいかなかったが、安定した収入を得ることのできる職場に就職することができた。

 だからこそ、百合江は祖母に頭が上がらず、もういい歳なのに未だに百合江達の将来の事で心配をかけるのが心苦しかった。

 ここで、弟の様に恋人の一人も紹介できたなら、ここまで気まずい雰囲気を感じなくて済んだのだが、如何せん、ここ数年恋人と言えるほど親しく付き合った相手は居らず、これからも出てくる可能性が限りなく低い百合江としては、心苦しくはあるが祖母の小言を平身低頭しながら頂戴するより他に道がない。

 気まずい沈黙を気にしながら、必要以上にバックの中身を整理整頓して時間を潰した百合江が室内の時計を見上げれば、帰宅のためのバスの時間まで後三十分となり、静かな祖母を気にしながらも百合江はバックを肩に掛けて立ち上がる。

「じゃ、バス来るから帰るねおばあちゃん、体には気を付けて」

 当たり障りのない言葉を掛け、ベッドに座る祖母の前を通り過ぎようとした百合江の前に何かが突き出され、入り口に向かっていた百合江は思わず足を止め、祖母の方を振り向く。

「・・・?なにこれ??」

 アルバムだろうか、A4サイズより少し大きいくらいの本で濃い灰色の表紙をしたその本は、百合江から見える位置にタイトル等は付いておらず、何の本かは分からない。

 何を考えて祖母がこの本を出したのか、意図が分からず首を傾げた百合江に、祖母は苦い表情をしながら本を押し付けた。

「持ってお行き、開けるのも開けないのもお前の自由だ・・・まあ、開けたところで少しとうがたちすぎてる気がするから無理かもしれないが、・・・まあ、それはどうしようもないね・・・」

「???何それ・・・?」

「選ぶのはあちらだからねぇ」

「????」

 会話はキャッチボールだ、しかし今の祖母はあらぬ方にばかり投球し百合江は祖母の投球を一つとしてキャッチできない。

「分かる様に話してよ・・・」

「面倒くさいねぇ、まあ分からなくても問題ないさ、捨てるんじゃないよ大切なもんだからね」

「・・・まあ、これ持ってけばいいのね?」

 よく分からないまま大きな本を受け取り、百合江はそれをバックに詰め込んだ。

 必要以上にバックの中身を整理整頓したお陰か、本はすんなりとバックの中に収まり、不思議な事に分厚い見た目に反して重さは本を入れる前と大して変わらなかった。

「靴は一応履いたまま開けた方がいいよ、何処に出るか分からないからね、時間はいいのかい?」

「どこに出るか??って、あーっ!!!バス時間!!!」

 祖母の不思議な発言を気にする間もなく、百合江は焦った悲鳴を上げる。

 バスが来るまで後十分しかない。

 自宅のあるここは田舎で、バスを一本逃がすとアパートに帰るために乗る予定の新幹線に間に合わない。

「やばっ、またね!おばあちゃん!」

 バタバタと慌ただしく部屋を後にする百合江を見送りながら、祖母は少し憂い顔で何度目かわからないため息を吐いた。





「さて、どうなることやらねぇ・・・」

暇潰しにお読み頂ければ幸いですー。



続きもちまちまがんばりますー。

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