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お姫様抱っこはジェットコースターより激しく・・・。

若干書式を変えましたー。


読みにくかったら申し訳ないです。

 小さく身を縮め、来るであろう衝撃に備えた百合江の耳に、猪が何かに激突したかの様な音が響いた。

 木々の間にあっては異質な金属音に、百合江は思わず強く瞑っていた目を開けて猪がいたはずの方向に視線を向け、一瞬見間違えかと瞬きを繰り返す。

 しかし、何度目を開けても閉じても目の前にある光景は変わらず、頭に疑問符が浮かぶ。




 この人だれ?




 百合江の見間違えで無ければ、先程まで誰も居なかったはずの場所に、猪から百合江を庇うかの様に一人の男が立っていた。

 その手には、驚くほど大きな剣を持ち、剣の切っ先は深々と大地に突き立ってていた。 

 百合江の前に立ち塞がった男は、いきりたって突進してきていた猪が目を回しているのを確認すると、地面に突き立てた剣を軽々と引き抜き、くるりと百合江の方に向き直る。

「間に合った、かな?」

 間に合ったかと聞かれれば、危機一髪間に合った。 先程まで自らを狙っていた猪は、青年の剣に激突して地面に転がり、一瞬前まで感じていた冷や汗を滝の様にかくほどの緊張感は消え失せている。

「怪我はないかな?」

 青年はおっとりと優しげな調子で百合江に怪我の有無を確認してきたが、いきなりの展開に頭がついていかない百合江は呆然としながら目の前の青年を観察していた。 

 座ったままなのではっきりとは分からないが、猪の前に立ち塞がった時の感じからかなりの長身らしい、その全身を覆うのは足元まである黒のロングコート、装飾的なものは一切なく、着古した物なのか足に纏わりつく裾はボロボロになっている。

 手にした剣の鞘はどこにあるのだろうと目を走らせるが、目に見える範囲には確認できない、背に背負うにしろ腰に下げるにしろ、青年の身の丈ほどもある剣を収めるのだから、かなりの大きさになるはずなのに見当たらないのが少し気になる。

 だってそうだろう、鞘が無いと言うことは、この巨大な剣を剥き身で持ってきたということで、普通日本でそんな事をしたら警察のお世話になる事は想像にかたくない。

 ここは森の中の様だし、人に見られなかったので問題にはならなかったのだろうか?そう適当に考えるが、人に見られなかったにしろ充分問題な気はする。

 問題な気はするが、一先ずはそれを棚に上げ間近に歩み寄ってくる青年の容姿を観察する。

 一言でいえばイケメンである。

 清潔感のある彫りの深い端整な顔立ちに、雷を纏った雨雲みたいな暗灰色の短く切り揃えられた髪、そして何より目を引くのは、切れ長の涼しげな目の中に浮かぶさくらんぼの様なピンク色の瞳だろう。

(・・・ピンクのカラコン・・・?)

 濃い灰色にチェリーピンク、奇抜と言うほど普通から逸脱した色合いではない、逸脱した色合いではないが、前に若いチャラチャラしたパンクな男ならと、前置きが付いたならだ。

 見た感じ二十代後半の自分と同年代に見える青年が纏うには、少し違和感を感じる。

 何もしなくともかなりの色男なのに、残念だなー、と、ぼんやり青年の瞳を座り込んだまま見上げていると、視線の先にいる彼は困ったように首を傾げ、手にした剣を地面に置いて百合江の側に膝をつき目線を合わせた。

「もしかして言葉が通じてない、のか?・・・困ったな、言葉は通じるはずと聞いていたのだが・・・」

 やはり間近で見るとかなりの長身だ。

 座り込んでいるとはいえ、166センチと女としては割りと背の高い百合江が、真上を見上げる様にしないと目が合わない。

 立てば2メートルくらいあるんじゃないだろうか?青年を見上げぼんやりと観察を続けていた百合江は、彼の独り言の様な呟きを右から左に聞き流しそうになって、はっとする。

 そう言えば、青年に怪我はないかと聞かれていたのに答えていなかった事に、今更ながらに気が付く。 あまりに長々と観察に熱中し過ぎたせいで、質問されたのをすっかり忘れていた。

 慌てて答えようと口を開いた百合江に、青年は覆い被さる様に身を屈め、気付いた時には不思議な浮遊感に見舞われ、思わず小さく悲鳴を上げてしまう。

「きゃぁっ!」

 女の子みたいな声を上げてしまった・・・。

 27とは言え女なのだから、間違いではない反応のはずだ。

 間違いではないはずなのだが、普段こんな声上げないから、自分の口から突然出てきた女の子っぽい反応ががめちゃくちゃ恥ずかしい。

 そんな訳の分からない羞恥心に百合江が襲われていると、青年は苦笑しながら百合江を見下ろしてきた。

「すまない、少し我慢してくれ、取り合えず安全な場所まで移動する」

 そう言いながらチラリと後ろを振り返り、先程までピクリともしていなかった猪がモゾモゾと動き始めたのを困ったように見やってから百合江に視線を戻す。

「ここでの殺生は禁止されているんだ」

 なんと答えていいか分からず、曖昧に首を傾げていると、青年は百合江を抱き上げたまま身を屈め・・・。







百合江を抱き上げ、駆け出した青年の余りの足の早さに、百合江の意識は一分と経たぬうちにブラックアウトした。




後になって考えると、人生初のお姫様抱っこだったが、これが普通だと言うならもう二度とごめんだった。

暇潰しに読んで頂ければ幸いですー。

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