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始まりは猪と共に・・・。

初投稿ですので読みにくい所も多々あるかと思いますが、楽しんで頂ければ幸いですー。

一体何がどうしてこうなった!



思わず叫び出しそうになるのを私は必死の思いで堪えた。

と、言うか堪えざるをえなかった。

今現在、私、深山百合江はなぜか見たこともない巨大な獣?(真っ赤な目の四つある牛よりもデカイ猪?茶色いから豚ではなさそう)に追い掛けられていたからである。



そのため、ゼイゼイと荒い呼吸を必死に押し出している肺に、これ以上の負荷を掛けるのは得策ではない。

自慢ではないが、百合江の体育の成績は小中高と、常に下から数えたほうが早く、言わば運動音痴のエリート中のエリート、キャリア組と言っても過言ではないからだ。走るの嫌さに小学生の時、運動会前日に水のシャワーで風邪を引こうとしたことすらある(ちなみに季節は秋で、百合江は東北地方在住だったため恐ろしく寒かった!)。



まあ、元来健康なために風邪は引かなかったけども・・・。



そんな訳で、答えが返らない叫びを発するために、元から少ない体力を削るのは何とか理性が押し留めていた。

しかし、それもソロソロ限界だった。



なぜって?そんなのもう走れそうにないからに決まってるでしょうが!!!!



運動音痴の百合江が、何とか猪(便宜上呼び方がないと不便だから猪と言うことにした)から逃げられているのは、回りが木々に囲まれた木立の中をジグザグに逃げているからで、

つまりはこの逃走の終着点は・・・。



1、百合江の体力が尽き猪に激突される。



2、・・・・。



2、・・・。



選択肢を出すまでもなく、1しかなかった。



こんな事になるなら何が武道でも習っていたら、と、せんのない考えがよぎるが、よくよく考えれば武道はあくまで対人間のもので、熊や猪相手に勝てる人間など普通はいない。



・・・・・・。



どーしろってんだよ!?猪のエサになれって事か!!


声には出さず悪態を吐いたその時、遂に限界を迎えようとしていた、百合江の体がヘマをして、張り出した木の根に足を取られ、

体が宙に浮く。



顔から突っ込む!!



それを避けようと、地面に向かい腕を突き出し、何とか地べたとの口付けは回避したが、強打した腕に目が眩む様な痛みを感じ、百合江は息を詰める。

ソロリと視線をやると、上に着ていたコートのおかげで腕自体は無事の様だが、袖口から覗く手のひらが無事ではなかった。


百合江が全力疾走(普通の人にしてみたら競歩)していた場所は、幸い木々の立ち並ぶ林の様な場合だったため、地面に落ち葉が積もりアスファルトで転ぶよりは衝撃が少なかった。

少なかったが、小枝や小石は皆無ではなく、力一杯転んだ百合江はそれらのせいで酷く手のひらを擦りむいていた。


「いーっ・・・ったぁ・・・」



ゼイゼイと整わない呼吸の合間に思わず苦痛の呻き声が漏れた。

考えてみたら、運動音痴の百合江は子供のころですらこんなに派手に転んだ記憶はなく、

覚えのない痛みに目に涙が滲む。


ジクジクと、手のひらが心臓になってしまったかの様な痛みと共に、ヌルリとした粘着質な液体が百合江の手を伝って地面に落ちる。


ポタリと地面に落ちた血を目にして、百合江はクラリと目眩を感じる。

擦りむいただけだろとお思いかもしれないが、現代日本に生まれ、運動などとは縁のない生活を送ってきた女を舐めないで頂きたい。勿論月々の生理はあるが、あれは怪我ではないし、普通に生活していて血を見る機会など、医者や救急救命士など医療に携わる人間ではないかぎり皆無と言ってもいい。

人によっては些細な怪我にしか見えないかもしれないが、百合江にとっては血が滴る程の怪我と言うのは大怪我に分類される大事だった。



勿論この怪我を見て、私の命はもう長くはない・・・などと思うほど大げさではない。



(あまりマジマジと見たくはないが・・・)見れば、手のひらは小枝やら小石のせいか酷く擦りむけ、抉れてはいるが、(エグイ・・・)指を動かすのに支障はないし、ソロソロと手首を回しても多少傷がひきつれて痛む以外に不調は見られないためである。


大怪我ではあるが、命に別状があったり、腕が動かなくなったりと言う決定的な欠損ではなさそうな気がする。



あくまで自己判断した結果だが。



ブフーッ・・・ブフーッ・・・グルルルルル・・・



そんなこんなで、体の不調の確認をしていたら、すっかり忘れていた。



何かって?



「・・・・・ぁ・・・」



私を追い回した挙げ句、こんな怪我までこさえてくれた猪の事ですとも!



ソロリと振り返れば、小山のごとき巨体の猪と目が合った。

ギラギラとした深紅の瞳は一筋に百合江を睨み付け、茶色く固そうな毛に覆われた前足は忙しなく降り積もった落ち葉を掻いている。



歴戦の強者でも何でもない私に、相手の殺気だとか気配を読むなんて言うスキルは皆無だが、血走る深紅の目に睨み付けられている今の状況を鑑みれば、どう好意的に見ても、森のクマさんよろしく、私の落とし物を持ってきてくれた、と言う様な平和的な雰囲気には見えない。



どちらかといえば、獲物を前にしたクマさんの様な雰囲気な気がする。




相手が腹を空かせた獣だと言うなら、早く逃げなければいけないのに、視線を逸らした途端襲い掛かられそうで、恐怖から体が動かない。





いつまでもこのまま睨み合いを続ける訳にはいかないが、目を逸らすタイミングが掴めない。

無造作に後ろを向いて逃げようものなら、近くの木の陰に逃げ込む前に猪に激突されて大惨事になる気がひしひしとする。



そうなれば、転んで擦りむいたのなど目でもないくらいの大怪我を負い、運が悪ければ猪の晩御飯になる可能性もある。



猪が肉食だと言う話はついぞ聞いたことがないが、あの巨体に口元から覗く鋭い牙を目にすれば、あり得なくはないように思う。



そもそも豚は雑食だと言うし、猪が肉を食べてもおかしくはない。・・・ような気はする。



ともかく猪が肉食かどうかはいまいち解らないが、自分の身が危険な事だけは確かだった。



息が詰まるような緊張感に、それまで走っていたせいで上がっていた体温も一気に下がり、体が小刻みに震えてくる。

どうしよう、どうすればいい、そんな答えの出ない問答ばかりが頭の中を駆け巡り、猪の眼光に気圧されて思わず後ずさったのが悪かった。



「・・・ぁっ・・・」



そう思った時には体が傾ぎ、百合江は本日二度目の転倒に見舞われた。





(・・・終わった・・・確実に終わった)





体が傾いた瞬間、細い糸が張り詰めるように緊張感を孕んだ獣との視線が途切れ、猪が奇声を上げながら地を蹴った音が耳に届いた。その音を聞きながら百合江は、ぼんやりとそう思った。



視線が逸れたから百合江の目には見えないが、猪は一直線に自分を狙って突進しているのだろう。



尻餅をついた自分が、咄嗟にそれを避けられるとは思えない。



十中八九と言うか十中十は猪に撥ね飛ばされ、漫画みたいに宙を舞って地面に叩き付けられ、激痛に転げ回る自分を想像して気が遠くなる。



いっそ気でも失って、痛みを感じないまま昇天した方が、幸せなのではないだろうか。



そんな風に考えながら百合江はギュッと目を閉じる。


夢なら覚めて。



手のひらの痛みが、これが夢では無い事を訴えていたが、それを無視して倒れ込んだ体を小さく縮め、来る衝撃が少しでも小さくなるように願った。

誤字脱字があった場合は御目汚し申し訳ないです。



不定期ではありますがチマチマ続きを書いていくつもりですー。



よろしくおねがいします。

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