16-メリットとデメリット
バタンッ
乱暴にドアをあけ、部屋の中を見ずにとりあえず頭を下げた
「ホントごめん!遅くなった!」
‥
‥‥‥
何も返事がない。
ゆっくりと頭をあげる
「セルフィ‥?」
部屋を見渡すもいない‥と思いきや。
「すー‥‥」
可愛い寝息が俺のベットから聞こえたわけである。
これは、あれか
食べていいってこt(以下略
あ、もちろん昼食だぜ‥‥!
ゆっくりと起こさないように足音を立てず歩く
そしてベットに辿り着くと軋まないように腰を掛けた
なにも如何わしいことをするわけじゃない。
まあ、ほら、ここはさ。
男としてさ。
昼食に手を出さなきゃいけないだろ?
だから断じて如何わしいことではない。
メイド服のフロントボタンに手が伸びているが
断じて如何わしいことではない
い、如何わしいことでは‥‥
バタンッ!
「リョウタ殿!失礼する!」
そして飛び上がるセルフィ
「なっ、なにごとですの‥?」
起き上がった拍子にボタンに伸びていた手が押し付けられて
思いっきり胸を掴む結果に。
ふ、不可抗力である。
「‥‥」
無言のセルフィ
「‥リョウタ殿?」
バーモンドの見開いた目
セルフィが自分の胸元を見る
俺も見る
「いやっ、これは‥‥!」
思わずもみもみしてしまった手をバッとどけ、しどろもどろになりつつ
必死に言い訳を考える、考える、考える‥
でてこねぇ
「‥‥いや、ホント、ごめん」
そして俺の右頬に燃えるような紅葉が咲いたわけである。
部屋の中央に置かれたテーブルにバーモンドと向かい合うように座る。
ドア横に立ってものすごい不機嫌なオーラを発しているセルフィと
同室なのがよほど気まずいのか、
時折セルフィを見、俺を見て大丈夫かという憐みの目を向ける
おい、俺の方が気まずいぞ。
「‥ゴホン、リョウタ殿」
ようやく口を開いたバーモンドは、重い雰囲気がよっぽど耐えられないのか
手短に済ませようととても早口に喋る。
「先程手合せをして思ったのだが、リョウタ殿は凄い御仁だ
ユシルが惚れ込むのもわかる気がする。
‥リョウタ殿、俺を貴殿の部下にして頂けないだろうか
間近で見、習い、俺も強くなりたいのだ。
手合せが終わったあと、女王にこの話をしたところ、
本人の了承が得られたら、ということだった。
頼む‥!」
この色気のない話のせいか、少しずつ頭が冴えてくる
まず、バーモンドを自分の隊に引き込むメリット
というよりは、そもそも。
「王専属騎士って単独要員じゃなく、部隊なのか?」
うーむ、と唸って少し考えるバーモンド
「単独もいれば、部隊でそう呼ばれる御仁もいたとは聞いている。」
俺の自由ってことか。
てか、お前がよくわかってるんじゃね?
"そこの弓兵の申す通りだな。
まあ、俺の圧倒的な能力がある故に部隊などいても邪魔なだけだと
大体のやつは考えていたし、思っていた。
つまり部隊で動いていたやつが数えるほどしかいないから
だから、王専属騎士団ではなく、王専属騎士と呼ばれているんだろう"
ふむ。
部隊を組むことで生まれるメリットは2つ。
まず、俺ができないことをフォローしてもらえるという点
俺はこの世界にきて日が浅いからできることは限られているし
一人でやれることなど少ない。
次に俺に何かありそうなとき、俺だけは助かれるかもしれないという仮定
女王の言った話が本当であれば、俺はこの世界のいわば救世主だろう
それが死ぬのはこの世界にとっても、俺自身にとっても、女王にとっても惜しい
つまり、世界が俺を助ける
ま、仮定でしかねーけど。
だがデメリットもある
例えばバーモンドが間者だった場合。
俺に近づいて信用を得れば情報は根こそぎもっていかれ、
ともすれば寝首を掻かれ、グサリとやられてもおかしくはない。
それらを天秤にかける
「んー‥
バーモンドが、他の国のやつじゃないって証拠は?」
「‥?どういう意味だ。
ふむ‥証拠はないが、我が家は代々この国にお仕えしてきた。」
眉をしかめるバーモンド。
なんか、引っかかるな。
なあ、心を見るっつーか、確かめることってできねーのか?
"簡単だ、触ればいい
そうすれば俺が奴の心を感じ、それが嘘かどうかがわかる。"
なるほどな、と内心で答えつつ口を開いた
そして、少し間をためる
「いや、なんでもない。
ありがとう、嬉しい申し出だ
俺のいた世界での宜しくって挨拶なんだが、握手してくれるか?」
そして、右手を差し出す
「誠心誠意お仕え致す‥!」
左手を重ね、膝を折り深々と頭を下げたバーモンドを
俺は、これ以上ない‥冷めた目で見ていた。