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『子供先生』【掌編・学園】

作者: 山田文公社

『子供先生』作:山田文公社


 世界にはどこにだって不思議なことはあるのでしょうか。まだ僕は学校の以外の社会を知らないからかも知れませんが、それでも変わってると思っていることがあるんです。


 それは…。


「やあ、おはよう元気かい小松くん」

 甲高い子供独特の声で僕は背後から声をかけられました。

「はい、おはようございます先生」

 そう言い僕が振り返ると、僕の腰ぐらい辺りに顔がある子供が余った袖を振ってます。 


 そう…コレが僕の不思議に思っている通称『子供先生』なのです。

 

 なぜ子供が先生なのか僕にはわかりませんが、それでも僕らよりも遙かに聡明で博識なのです。子供先生は僕らより早くに大学を出て、教員免許を取得して此処に居るのだと、いつだか授業中に語られていました。

 

「今日は実に良い天気だね、こういう日は授業よりも裏山にでも遠足をする方がよほど良いのだけど、小松くんはどう思うかね?」

 先生の問いかけに僕はどのように答えたら良いのかわかりませんでしたが、確かに授業より遠足の方が楽しそうでしたので正直に思った答えを述べていました。

「はい、先生できれば僕はこんな晴れやかな日には薄暗い教室にこもって授業などせず、青空の下でのんびりしたい気分です」

「ははは、そうかい君もそうおもうかい、小松くんは正直だねえ」

 そう言って先生はカラカラとお笑いになられました。僕も同じようにケラケラと笑いました。普通子供というのはもっと品の無い笑い方をするものですが、先生の場合どこか違っていてとても品の良い笑い方をされるのです。

 そうして廊下で笑っていると、階段を女学生が駆け上がってきました。

「コマっち、センセ、オハー!」

 女学生は元気よく挨拶して、先生と僕の顔を見てます。

「おはよう」

 先生は気にせず挨拶を返し、僕も同じく挨拶をしたのです。

「おはようございます」

 そうすると、女学生は不思議そうな顔をして言いました。

「ホントふたりとも仲良いよね」

 そう言い笑うのです。

「そうですか、なぜ篠山くんはそう思ったのですか?」

 先生にたずねられた女学生…篠山子女は少し思案した後に篠山子女自信も良くわからないような答えをしたのです。

「なんか古い感じがする所?」

「古い?」

 僕が尋ねると、篠山子女はますます首を傾いでしまいました。

「つまり古風と言うことですね?」

 先生がたずねると、篠山子女はポンと手を打ち、指を立てて先生をさして正解と言わんばかりに言いました。

「そう、それ!古風なの」

 いまいち僕には納得出来ませんでしたが、先生は深々と頷き篠山子女の言葉に耳を傾けていました。

「コマっちもなんか現代ぽくないの、えーと昭和ぽい」

 少なくとも僕は平成生まれであって昭和生まれではないので、訂正するように自分が生まれた年号を述べました。

「失礼篠山子女、僕は子女と同じく平成7年生まれなんだよ」

「それ」

 僕の言葉に指を指して篠山子女は僕の顔を見ました。

「その子女って言葉、私聞いた事ないんだけど」

 僕は困ったように先生をみると、先生が助け舟をだしてくれました。

「小松くんの家は由緒ある家だから、多少は古風な言葉ではあるけれど、正しいですよ」

 篠山子女は口を尖らせて、不満を表してました。

「えー、でも古いんでしょ?」

 篠山子女は僕の顔をじっとみてそう言いました。

「ところで、笹山くん時間は大丈夫かな?」

 先生は長い袖をまくり上げて腕時計を見てそう言うと、篠山子女は顔を真っ青にして飛び上がりました。

「やっばー今日朝練なのに!ごめんまたねー」

 そう言い篠山子女は教室へ荷物を置いたと思うと廊下を走って去っていきました。

「まるで嵐のようでしたね」

 そう言い先生は笑いました。

「先生、僕は古いんでしょうか?」

 先ほど篠山子女の口にした単語が引っかかっていました。

「先生、僕は昭和臭がするのでしょうか?」

 僕の問いかけを全て聞き、先生はゆっくりと答えるのでした。

「いいですか小松くん、誰しもが誰もと同じ事などないですよ、生まれた時からそれぞれ違うように、その後歩む道もまた違うのですから」

「でも昭和臭がするほど、古めかしいんですよね?」

「それもまた個性ですよ、ほら小松くん私をご覧なさい、子供なのに教鞭をとっている、でも私は子供でしょう?知ってますよ誰もが影で私を『子供先生』などと呼んでいることも、でも私は君たちの先生ですよね、ただの子供ではなく君たちの先生『子供先生』ですよね?」

「はい、そうです」

「なら小松くん気に病むことはありません、だれも同じではないです、それは小松くんの個性なのですから」

「先生…」

 そう言い先生はゆっくり深く頷きました。

「さぁ今日もがんばりましょう」

 そう言い先生は手をパンパンと叩き僕を促すのでした。

「はい先生」

 そう言い僕は先生に頭を下げて教室へと向かいます。すると背後から先生が僕を呼び止めました。

「小松くん」

 振り返ると先生は、まくりあげた袖から小さな手をだして親指を立てて、その後胸に手を当て、空中を指さして言ったのです。

「少年よ大志を抱け!バイクラーク、小松くん、君は君の道を行きなさい、君自身の為に」

「はい、先生!」

 僕は力強く頷き返事をすると、先生も満足そうに頷いてました。


 僕の学校には変わった先生がいます。影では『子供先生』と呼ばれてます。でも僕のみならず皆が子供だけど立派な先生だと思っています。僕は世間を良く知らないのでわからないのですが、皆さんの学校にもこういった先生はいらっしゃるのでしょうか、それとも僕の通う学校だけなのでしょうか、僕にはわからないですが、変わっているけれど、僕は先生を尊敬しております。だから実にこの学校の生徒で良かったと思うのです。

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