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神域調査は捗らないー葉山と氷室の不可思議案件報告書ー  作者: わだ平
第一章 神域調査員

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第六話

 二人が仮の御神体に手を合わせていると、背後から誰かがふらふらと近づいてきた。

 どこか焦点の合わない目で、ぼんやりと立っていた。サンダルに普段着という、近所を散歩してそのまま迷い込んだような恰好であった。 

 氷室が慎重に声をかけた。


「すみません。あなたは、もしかして山田さんではありませんか?」

 

 男は一拍置いてから、驚いたように返事をした。


「えっ、そうです山田です。なんでわかるんですか?」

「私たちは神域調査員です。奥様が、あなたを探しておられます」

「そうでしたか……。変に思われるかもしれませんが、妻と散歩していたはずなのに、いつのまにか知らないところをずっと一人で歩いていて……」

「もう大丈夫です。ご自宅までお送りします」


 その後、無事に行方不明だった山田を自宅まで届け、本部から来た職員に後始末を任せて、二人はその場を後にした。

 怪奇現象はこれで完全に解決したわけではない。一時的に発生を抑えているに過ぎず、このまま放置すれば、いずれまた再発するだろう。

 しかし調査員に出来ることは、この事実を報告書にまとめて提出することまでだ。以後の対処は神域対処課の役目となる。


 帰り道。日はすっかりと沈み、街灯りが灯る道を車が走る。車内には静寂が満ちていた。


「私、葉山さんのこと、少し誤解していたかもしれない……」


 助手席の氷室がぽつりとつぶやいた。


「ん、何か言ったか?」

「なんでもありません。と、とにかくこれからもよろしくお願いします」


 思わず漏れた独り言を聞かれるとは思っていなかった氷香は、慌てて取り繕った。


「そ、そうか……。まあ、わかった。よろしく頼む」


 氷香の妙な態度に、葉一はやや呆れつつも返事を返す。

 葉一の脳裏に、これまで配属された新人たちの顔がふとよぎった。誰も彼も、最初の調査で音を上げて、翌日には、異動願いを出していた。

 しかし今回の新人は、少々口うるさいが、思ったより根性がある。そういうタイプは嫌いじゃない。

 そんなことを考えていたら、知らずと口角が上がっていた。


「なに笑ってるんですか、気持ち悪い……」


(……やっぱり、こいつ嫌いだ)


 小さな溜息とともに、葉一たちをのせた車は、事務所に向かって走り去っていった。


【死者の黄泉がえりにかかる報告書】


判定:第二種神域、危険度「B」。


概要:死者の姿を模した幻覚が現れ、生者を誘い込む現象を確認。


場所・時間:■■県●●群郊外。日が沈みくらくなる時間帯。


調査結果:怪奇現象と接触。接触者と縁が深かった人物(死者とは限らない)の幻覚を見せた。今回、調査員 葉山葉一は行方不明の兄、同行した氷室氷香は死んだ祖母の幻覚を見た。その際、幻覚が本人達しか知りえない生前の思い出を語ったことから、対象の思考を読み込むタイプと推察される。

 周辺調査の結果、破壊された祠を発見。ニュータウン開発に関わる開発業者が所定の手続きを踏まずに、古くからある祠を撤去したものと考えられる。この結果、土地神が狂い神化し神域化したものと推察される。

・行方不明1名は無事現場で確保。


判定:行方不明者が発生しており、今後も被害拡大の恐れが高い。周辺人口は増加傾向にあり、再発リスクは大きい。以上から、早急に怪奇現象への対処が求められるものと判断し、第二種神域、危険度「B」と判定する。


結論:神域解除までの間、当該区域を「神域認定」し、周辺住民ならびにその他一般人の立ち入り禁止とする。祠を破壊した開発業者に対し、相応の処罰を検討すること。

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