第二話
むき出しになった大地の上を、何台ものブルトーザーが列をなして進んでいた。トラックがせわしなく行き交い、資材を次々と運び込んでいた。
つい数年前まで、ここは木々が生い茂る山間部の集落であった。しかし高齢化の波に飲まれてやがて廃村となり、ここら一帯を買い占めた開発業者がニュータウン計画を進めていた。
山間部に響く建設音は静寂を破り、動物たちを追い立て、ブルドーザーはこともなげに、そこにあった自然を押し倒していた。
・・・わしの住処が壊れされていく。数千年守り続けた、ワシの故郷が・・・。口惜しい・・・、口惜しいぞ・・・
しかし、それを良しとしない何かが、そこに存在していた。
202X年5月1日、この日、神域調査課の調査員である葉山葉一は、先日新たに報告のあった怪奇現象の調査のため、■■県●●群郊外へと足を運んでいた。
寝ぐせのついた髪、緩んだネクタイ、気怠げな表情と、傍から見ればただの疲れたサラリーマンが、とぼとぼと道を歩いているだけに見えた。
だが彼の任務は、発生した怪奇現象の内容、要因、発生地域を調査し、その危険度を判定することにあった。その調査結果をもとに、上層部が具体的な対策を講じることになる。
今回の調査対象地周辺は、最近ニュータウンとして開発されている地域であり、整然と整備された区画にまだらに家が建っている。建築中の家も多い。
「葉山さん」
開発がまだ途上ということもあり、住民の姿はまばらだ。
ここまでかなりの距離を歩いてきたが、途中ですれ違ったのは、ベビーカーを押す若い家族が二組だけだった。
「葉山さん」
周辺調査も兼ねて徒歩である。目的地までもう少しかかりそうだ。ニュータウンができ、人が増えれば、学校や商業施設が出来て、いずれ町になる。ニュータウンとは、いわば町の卵なのだ。
「葉山さん!」
葉一は、周囲を観察することに集中しており、声に気づかなかった。
「ああ、すまん。どうした?」
「どうしたじゃないですよ?さっきから何度も声をかけていたんですけど」
二十代前半、真っ直ぐに伸びた黒髪と、冷静さを感じさせる澄んだ瞳。動きやすさを重視したスーツに身を包むこの女性の名は、氷室氷香。
氷室は、今年の4月から神域調査課に配属になった新人で、葉一が指導役としてついていた。今回が彼女にとって初めての現地調査である。
アカデミーを主席で卒業した彼女は優秀で真面目、人当たりもよく、上司や同僚からも評判は良かった。しかし、なぜか指導役である葉一に対しては、生意気な態度をとるのだった。
「すまん・・・。で、なんかあったか?」
氷室は「まったく・・・」と小さくぼやいてから、咎めるような口調で不満を口にした。
「いったい、いつまで歩くんですか?車を下りてから、もうかれこれ三十分は経っていますよ。もっと近くまで車で行ったほうが効率的じゃないですか?」
氷室の指摘にも、葉一は意に介さず、頭をポリポリ掻きながら答えた。
「あー、調査って言うのは足で稼ぐのが基本だ。そうすることで見えてくるものもある……かもしれない。まあ、周囲の観察でもしながら、気軽に行こう」
(極めて非効率ね。やり方も古臭いし。この人が指導員で、本当に大丈夫なのかしら?見た目もだらしないし・・・)
氷室は、小さな溜息をつく。葉一はそんな彼女の反応を気にした様子もなく、のんびりとした足取りで目的地に向かった。
氷室はもう一度、「はぁ」と小さく息を吐き、仕方なくその背中を追った。




