第十六話
やがて話が一段落したころには、テーブルの上の甘味も大方なくなっていた。コーヒーのカップを置きながら、あかねが切り出した。
「この後どうする?まだ買物する?」
「そうね、私は目当てのものはだいたい買えたし。ミオはどっか行きたいとこある」
最後のイチゴを名残り惜しそうに食べ終えたミオは、思いついたように顔をあげた。
「んー、そうだ、映画とかどう?このモールに結構大きな映画館入っているしさ。なんか面白いのやってるかも」
「いいわね。調べてみよっか」
三人は携帯を取り出し、画面を覗き込みながら上映スケジュールを確認した。
「あっ、これなんかどう?『死霊が住む資料室』。昔の名作のリメイクなんだけど、俳優さんの迫真の演技が凄く怖いって有名なんだよ~」
ミオの提案に氷香とあかねは少し困った顔を浮かべる。ミオのホラー好きは大学時代からである。所属していたサークルの先輩にホラー映画好きがいて、その人に薦められて、自分もハマってしまったパターンだ。
「ここにきてまさかのホラー!?こういうときは王道の恋愛系よ。『六本木の恋人たち』。こっちはイケメンが沢山出てくるし、これ一択じゃない」
恋愛系というより、ホスト系……。イケメン好きのあかねらしいといえばらしいが。
「いえ、ここはやっぱりミステリー一択じゃない?なにか面白いのやってないかしら?」
「いやよ、探偵ものなんて。渋い俳優ばかりで、イケメンが少ないじゃない」
「あかねは選ぶ動機が不純だよ。ストーリーで選ぶべきよ。ここはやっぱホラーだよ」
「いや、ホラーが一番意味わかんないよ。イケメンで行きましょう」
「もうイケメンって言っちゃてるし。ミステリーよ」
その後も3人の話合いは続くが、なかなか決まらず、結局ジャンケンで決着をつけることとなった。そしてミオが勝ち、ホラーを観ることに決まった。
休日ということもあり、映画館は思った以上に混雑していた。チケット売り場には長い行列ができ、館内には人々のざわめきと、ポップコーンの香ばしい匂いが漂っていた。
幸い、三人横並びの席を確保することが出来た。開演の時間が迫ってきていたため、手早く売店でポップコーンとジュースを買い、慌ただしく席に着いた。
氷香はホラー映画には詳しくないが、ここに来る途中でミオから、今から観る映画について予習を受けていた(というよりも、半ば強制的に聞かされていた)。もちろんネタばれにならないようにだが。
この映画はホラー作品の中でもとくに話題になっているらしい。舞台は大学。資料室に住みついた死霊にまつわる話だ。この死霊は昔、友人に裏切られて、命を落とした大学の生徒だ。恨みをはらすために死霊室に憑りつき、訪れるものを待ち構えている、という設定だ。
悩みを抱えた人物が資料室に足を踏み入れると、死霊は「望みをかなえてやる」とささやき、心の隙に付け込んで仲間に引き込んでしまう。死霊の仲間になってしまった者は、新たな犠牲者を求めて大学を彷徨う。そうして増え続けるそして死霊の眷属たちはやがて大学そのものを乗っ取ろうとする。いわゆる資料室から始まるパニックホラーだ。
(ミオには悪いけど、正直ホラーはそんなに好きじゃないのよね。音や映像で驚かせたりするものばかりで、なんだか単調なのよね。そもそも神域調査で、日常がホラーみたいなもんだし。なんなら悪霊も普通にいるし。それにしても、なんで資料室に死霊が住んでるのよ?資料と死霊をかけたダジャレかしら)
氷香は心の中で苦笑していると、やがて会場が暗くなり、スクリーンに映像が映し出される。いよいよ上映開始だ。




