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神域調査は捗らないー葉山と氷室の不可思議案件報告書ー  作者: わだ平
ホテル月影亭

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第十四話

 そして夜が明けた。


「氷香、また今度お茶しよ」


 数十年振りの神楽ですっかり元気になったツクシはまだ遊び足りないようだ。名残り惜しそうに仲良くなった氷室の手を握りながら別れを言うツクシに、氷室も返す。


「うん、ツクシ様もお元気で」

「ツクシでいいよ」

「あらツクシったら、すっかり氷香になついちゃって」


 神楽を終えた後、葉一と氷室は付喪神たちを交えた宴により、親交を深めることが出来た。その中でも、普段無口なツクシはすっかり氷室に懐いてしまっていた。これにはツクシと長く一緒にいるキキョウも少々驚いていた。

 あっ!と何かを思いついたツクシは、自分の髪の毛に挿している櫛を抜き、氷室に手渡した。ツゲの木で作られたその櫛は、淡く黄金を帯び、指先に触れればしっとりとした温もりを宿しているようだ。


「これは?」


 驚いた氷室はツクシに尋ねる?それに対して、ツクシはどや顔で応じた。


「これ、私の分体。いつでも氷香と一緒」

「ええっ!?そんな大切なもの、もらえないよ!」

「もらってあげて氷香。ツクシは長い間、ずっと私達以外の友達を欲しがっていたのよ。それに今、私たちはこうして元気でいられるのは、あなたの神楽のおかげなのよ」

「わかりました。大切にします」


 氷室は、ツクシの櫛を手で包み込むようにして持ち、見つめた。淡い光を帯びる櫛は、まるでツクシのぬくもりを宿しているようだ。氷室は、それを大切にしまった。


 そんな別れを惜しむ氷室たちの横では、二日酔いでふらふらの葉一とノンベエ。


「うぅ頭いたい……」

「流石に飲み過ぎたようだわ」


 そんな二人の横には、あきれ顔のオキナがいた。


「二人とも加減というものを知らんのか。とはいえ、ワシも久しぶりに楽しんだわ。礼をいうぞ、人間の子よ」


「皆様、またいつでもお越しください」

「ええ、また来ますね」


 江島の顔には喜びと安堵、そして確かな満足感に満ちていた。神々は再来を約束し、やがて姿が薄くなり消えていった。どうりでホテルから出るところを誰も見ていないわけだ。


「私たちも帰りますよ。葉山さん」

「おう……運転頼むよ。うぷ」

「ほんと、最後まで締まりませんね」


 青白い顔の葉一を助手席に座らせて、氷室は江島に向き直った。


「ではお疲れ様でした。藤乃さんにもよろしくお伝えください」

「藤乃さんというのは?」

「従業員の藤乃さんですよ。先代から勤めていらっしゃるという」

「えっと、うちには藤乃という従業員はいませんが……」

「え?そんなはずは……」


 二人を乗せた車が館を出る。氷室はハンドルを握りながらも、さきほどの江島の言葉が頭から離れなかった。


「結局、藤乃さんって……何者だったのでしょう?考えてみれば、温泉のことを教えてくれたのも、私や葉山さんが付喪神様たちを引き合わせてくれたのも、藤乃さんのおかげだった気がします」

「さあな。もしかしたらこの宿の守り神……だったのかもな」

「そうですね。きっとそうですよ」


 二人を乗せた車は月影亭を離れていく。

 月影亭から、一人の女性がその車が見えなくなるまで見つめていた。

 ——ありがとう——と誰にも聞こえない声で呟く彼女の腕には、古い宿帳が抱かれていた。



閑話

 

 月影亭からの帰りの車内。葉一はふと神楽で舞う彼女の様子を思い出した。あのときの彼女は、いま隣に座る氷室とは別人のようであった。


「そういや、氷室。お前の舞はたいしたもんだな」

「え!?いや、あれはですね。別に私が舞が舞えるわけないじゃないんですよ……」


 なぜか気まずそうにする氷室に葉一は尋ねた。


「どういうことだ?あのとき、確かに神楽を舞っていただろう」

「い、衣装です。あの神楽の衣装が、過去の舞手の舞を記憶していたんですよ。それをキキョウ様やツクシ様の力で引き出してもらったというわけです」

「なるほど、そういうことか……」

「そ、そうですよ。舞なんて習ったことないですから。がっかりしましたか?」

「いや。それでも最後までその舞を再現できたのはお前のおかげだ。奇麗だったぞ」

「へっ!?」


 葉一の突然の誉め言葉に頬を赤くする氷室。


「舞の話だ」

「ああっ、そうですよねっ!」


 氷室がハンドルを切り、車が大きくカーブを曲がる。


「す、すまん。もう少しゆっくり運転してくれ、うぷ……」

「十分、安全運転ですよ!って、ちょっとこっち向くな―」


 軽口を叩く二人の顔を、車窓に流れる日差しが明るくを照らす。


 ——舞か。私には似合わないと思っていたけど、少しだけ習ってみようかしら


 そんな彼女の心中の変化を、葉一は気付いていないかった。

 



【ホテルを訪れる不思議な客にかかる報告書】


判定:第三種神域、危険度「Nなし」と判定。


概要:不思議な恰好をした客が、夕刻にホテルを訪れる。


場所・時間:月影亭。夕刻。


調査結果:訪れる客は付喪神と判明。彼らは「狂い神」化しておらず、自らの神気を保つため、小彦名命が湧かしたという、神気を保つ効力のある温泉を利用していたもの。確認された付喪神は以下に記す五柱のみであるが、他にもいる可能性は高い。


■櫛の付喪神「ツクシ」。氷室調査員より長い黒髪、さらさらの寝巻の少女。枕の付喪神かとも思われたが、単なるお気に入りとのこと(氷室調査員より本柱に確認済)。

■煤けた行灯の付喪神「ススビ」:貧相な僧侶のような恰好をした背の高い男性。話し方は非常に丁寧。

■錆びた銚子の付喪神「ノンベエ」:顔の赤い恰幅の良い男性の姿をしている。お神酒を注ぐのに使われていた銚子が付喪神しているためか、かなりの酒好き。ただし神でも二日酔いはするらしく、葉山調査員とののびくらべで、両名とも二日酔いとなる。

■割れた手鏡の付喪神「キキョウ」:顔半分を髪で隠した着物の女性。おしゃれや美容、お菓子に目がない様子。ツクシと行動していることが多い。

■長い羽織を着た髭の老人「オキナ」。会話の流れから、神々で一番の古参と思われる。小彦名命とも面識があるようだ。羽織の付喪神と想定されるが、霊視鏡で確認できておらず、未確認。ただし温厚な神で危険はなし。


判定:温泉の効力により狂い神化の危険は極めて低いものと思料。以上より三種神域、危険度「Nなし」と判定する。


結論:温泉に穢れを祓う効果が確認できた。定期的に神楽を行うことで、その効力を維持出来る。危険度は低く(むしろ有益)、対処は不要。

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