表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者候補、育てます。~私、魔王だけどいいのかしら?  作者: 九條葉月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/30

やばい?


 両方かわいい。

 両手に花。


 百合趣味なんてないはずだけど、それはそれとして美少女二人が隣にいてホクホク気分な私だった。百合趣味なんてないはずだけど。


 はじまりの森から商都まではそこそこ離れているので、雑談しながらの移動となる。


「そういえば、シンシアちゃんって公爵令嬢で王太子の婚約者よね? なんで森の中に?」


「な、なぜ私が公爵令嬢だと――いえ、そうでした。エリカさんにはお見通しだったのですよね」


 いやなーんも分かってないけどね?


「実は、お母様の薬に使う薬草を探していたのです」


「薬草? シンシアちゃんが? そういうのは冒険者に任せればいいんじゃないの?」


「最近は商都の近くでも魔物が活発化していまして。冒険者の皆さんも魔物狩りを優先していて薬草が足りないのです」


「へー」


「それと、私も『勇者候補』ですから。これでも鍛えているんですよ?」


「あ、もう勇者候補に選ばれているんだ?」


 それにしてはブラッディベアに負けそうだった――とは、ギリギリで口にしない私だった。そもそもブラッディベアは勇者学校でそれなりに鍛えてからやっと倒せるボスキャラだものね。


 今現在が原作ゲームで言うところのどの時期かは分からないけど……ティナの言う主人公(わたし)がはじまりの森にいて、シンシアちゃんが王都の勇者学校にいないのだからゲーム開始前か開始直後くらいのはずだ。つまりシンシアちゃんはまだまだ鍛え方が足りないと。


「勇者候補までご存じでしたか……。エリカさんは人間社会のことはどれくらい知っているでしょうか?」


「そうねぇ……。大陸が一つの国だった頃のことは知っているけど」


 さらっと嘘をつく私。ちなみに『大陸が一つの国だった』というのは原作ゲームに頻繁に出てくる設定で、公式資料集にはかなり詳細な歴史が記されていたのだ。


 この大陸に統一国家があったのは1,000年ほど前のこと。そして今は大小様々な国に分かれ、それぞれの王が統治していると。


「一つの国……。グラトス帝国のことですね? たしか1,000年ほど前のはず。ほへぇ、やっぱりハイエルフって長生きなんですねぇ」


「そうよ。だから現在の人間社会のことは何も知らないと思ってくれていいわ」


「なるほどそうですか。では身分証もないでしょうから……商都の出入り口である城門は、私の客人ということで問題なく通過できると思います」


 おぉ、すごい。さすがは公爵令嬢。領主の娘なだけはあるわね。


「普通は冒険者ギルドで冒険者登録をするか、教会で洗礼を受けることで身分証明書が発行されるのですが……エリカさんの場合はお父様に頼めば大丈夫だと思います」


「領主様に? そんな手間を掛けさせるのはちょっと申し訳ないわね」


「いえ、ですが冒険者ギルドに行くと騒ぎになるでしょうし、ハイエルフがうちの教会で洗礼を受けるのは大問題ですから……」


「なるほどね」


 ギルドだとなんか冒険者に絡まれそうだし、人間の宗教の洗礼をハイエルフが受けるのは宗教的にヤバそう。ここはシンシアちゃんのお言葉に甘えた方が良さそうだった。


「あ、見えてきました。あれが商都フィナリスです!」


「おー」


 ちょっと小高い丘になっている場所から商都を一望することができた。

 簡単に説明するとヨーロッパの城塞都市って感じ? 広い城壁に都市が丸ごと覆われている。まぁ森の中に魔物が跋扈しているような世界だものね。城壁で囲わなければ人類の生存権を確保できなかったのでしょう。


 原作ゲームだと街の中は中世ヨーロッパ風の世界観だったはず。これは楽しみだなーっと私が期待に胸を膨らませていると――マップから警告音が鳴った。ホーム画面じゃなくて冒険画面のままにしていたから、視界の右上にマップが表示されているんだよね。


 マップの中央にある緑の点が私で、その周りにある青い点二つがティナとシンシアちゃん。

 そして、そんな三つの点を取り囲むように十個の赤丸が配置され、じわじわと距離を縮めてきていた。


「……シンシアちゃん。囲まれているわ」


「え? 囲まれて? ……数はどれくらいです?」


 なんか意外と落ち着いているシンシアちゃんだった。もしかしてこういう状況に慣れている?


「数は十で――」


 敵の素性というか種族名くらい分からないかなーっと考えていると、頭の中に声が響いてきた。


(エリカ様。マップ上の名前表示をONにしますか?)


(え? はい。よろしくお願いします?)


 急に響いてきたティナの声に慌て、深く考える前に承認する私だった。なぜか敬語で。


 これは念話ってヤツかな? ティナに問いかけようとすると地図上の赤い点に文字が表示された。山賊、と。


「――敵は山賊みたいね」


「山賊ですか。珍しくもない敵ですね」


「あ、そうなんだ?」


「はい。冒険者崩れや食い詰めた農民たち、あるいは他領からの破壊工作員が山賊となり、民の平穏な生活を脅かしているのです」


「へ、へー……」


 元冒険者や農民は分かるけど、破壊工作員? なんか凄い単語が出てきたわね。そんな日本の戦国時代みたいな感じなのこの世界?


「エリカさん。――武器を持った山賊を殺しても、罪には問われません。賞金首なら報奨金が支払われることもあります」


 人間界の法律に詳しくないハイエルフ(わたし)のために、わざわざ教えてくれるシンシアちゃんだった。……あの、私の推しキャラが正当防衛による殺人を容認するような発言をしているのですが……?


『魔物や山賊、あるいは破壊工作員が跋扈する世界観なのですから、当然の思考なのでは?』


 スマホゲーム世界、こわい。


 私の場合、ブラッディベアでも傷を付けられなかったのだから山賊相手も恐れる必要はないと思う。


 でも、シンシアちゃんは別。剣で切られたら死んでしまうかもしれないし、弓に毒が塗られていたら一大事だ。


 たぶん毒を消すには解毒ポーションが必要だけど、今は持っていない。装備ガチャを回し続ければいずれ手に入るとはいえ、わざわざリスクを冒すくらいなら倒してしまった方がいい。


 今までも罪を犯してきたであろう山賊たちと。短い付き合いながらも悪い子じゃないと分かるシンシアちゃん。どちらの命を優先するかと問われたら――私は、シンシアちゃんを選ぶ。推しであるかどうかを抜きにしても。


「――操糸」


 手袋の指先から魔力の糸が伸びる。ここまでは先ほどまでと同じ。だけど一つ違うのは、右手の人差し指から伸びた糸だけ、自由に動かせるような感覚があったことだ。さっき『操糸』のレベルが上がったし、そのおかげかな?


 これなら遠くからでも糸を使っての輪切りができそう。そう判断したところで茂みの中から山賊が姿を現した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ