ギルマス・2
「さて、ギルスといったな? ハイエルフについて今一度報告してはくれぬか? もうすでに何度も説明しているところを悪いが」
「いえ! 何度でも! 喜んで!」
こんな自分を気遣ってくださるとは! 何とお優しいことかと感激するギルス。
国王陛下に対する最上敬語など習得していないが、なるべく丁寧な口調でギルスは説明した。突如として冒険者ギルドに現れたハイエルフを名乗る存在。フルプレートの甲冑を剣の一振りで破壊してしまった力。そして現地から報告があった活躍などを。
「ふむ、こちらが掴んでいる情報とさほど変わらぬな……」
「も、申し訳ございません」
「あぁ、いやいや、責めているわけではない。むしろ現地との齟齬がないことが喜ばしいのだ。しかし、そうなるとおぬしは倒されたアース・ドラゴンを見てはいないのだな?」
「は、はい。その時にはすでに王都に向かっていましたので」
「ふむ、王都からも調査のための騎士団は派遣しているので、いずれ詳細は分かるだろう。……そのハイエルフ、本物だと思うか?」
「本物かどうかは断言できませんが、Sランク冒険者すらも易々と越える力を持っているかと」
「ほぉ、Sランク冒険者を? ならば我が精鋭たちも負けてしまうかもしれぬな?」
と、どこかイタズラっぽい顔をしながら背後の護衛騎士を見る国王。対する護衛騎士は澄まし顔だが、威圧感が増したような気がする。
(こ、怖ぇえー! そりゃ国王の護衛なんだから並大抵の腕じゃないんだろうけどよー!)
ちょっと泣きそうになるギルスだった。彼も荒くれ者の冒険者たちと日々やり取りしているので肝が据わっているのだが、そんなギルスでも怯んでしまう凄みがその騎士にはあったのだ。
そんなギルスの様子を見て、国王が何か思いついたような顔をする。
「ギルスよ。おぬしはハイエルフに対してもそれほど恐れを抱いていたのか?」
「へ? あ、いや、全然……」
思い返してみれば、ギルスはエリカに対して他の冒険者と同じように接していた。あれはエリカの見た目が少女にしか見えないのもあるが、高位冒険者に付きまとう威圧感がなかったのも一因であると今なら思える。
ギルスの反応に、国王が興味深そうに目を細めた。
「ほぉ。アース・ドラゴンを易々と倒せるような存在が、微塵も威圧を感じさせぬとは……。よほど上手く『隠して』いるのだろうな」
もちろん、そんなことはない。あのポンコツがそんな威圧感を持っているわけがないのだから。ただの国王の勘違いである。
しかし国王の勘違いに誰も気づかず。むしろこの場にいる人間は『ハイエルフ』に恐ろしさしか感じることができなかった。普段から高ランク冒険者と接する、ギルドマスターだからこそ。
「くくっ、おぬしより実力は上かもしれぬなぁ?」
自らの護衛騎士を煽るようなことを口にする国王。対する護衛騎士は平静を保っているが、さらに威圧が増したような気がする。
もしかしたらこの国王は意外と厄介な存在なのかもしれない。そんな疑問が湧いてくるギルスであるが、もちろん指摘することなどできないのだった。
「ふむ。しかし、ハイエルフであるならばこちらから挨拶に赴くのもありだな」
「なりません」
と、口を挟んだのは例の護衛騎士だ。
「しかしなぁ。ハイエルフともなれば国王よりも『上』の存在だぞ? ここで下手に偉ぶって敵意を抱かれたらどうするのだ? しかも単騎でアース・ドラゴンを倒すほどの実力者だ。
「ハイエルフとやらがいる公爵領は、『ウロボロス』の存在が確認されたばかり。とてもではありませんが陛下を向かわせることなどできません」
「ふむ、言われてみればそうであるか……。だが、我が国にいるならば挨拶をせねばなるまい?」
「挨拶は大事ですが、現在の情勢で王都から出ることは許せません」
「頭が硬いヤツだ」
ずけずけともの申されているのに、不快になった様子のない国王。やはり偉大なお方なのだなと感心するギルスであった。
「では、特使を派遣しよう。その中のやり取りで王都に来てくださるなら国賓として遇しようではないか。無理だとしても、王都から動けぬこちらの事情は説明せねばならんしな」
「……まぁ、そのくらいでしたら……」
「決まりだな。さて、特使であるが……ハイエルフ殿の顔見知りがいいな。というわけで」
ギルスの方を見る国王。
「頼んだぞ、ギルスよ」
「は、はぁ……御意に」
断るわけにもいかず、頷くしかないギルスだった。




